異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第20章 とある国と聖なる乙女

第824話 耳にした思わぬ『名前』とは

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 店主はどこか怖々とはしているが、それでも話をやめないのは、本来は話が好きで元々は旅人といろいろ噂話をするのが楽しみだったのだろうな。

「教えてやるが……どうも王様は新しい王妃様にいろいろと吹き込まれて、こんなことをしているというもっぱらの噂だぜ」
「新しい王妃様ですか?」

 ここで店主は明らかに声を落とし、改めて周りを見回す。

「もともと王様は地位を継げるような立場ではなかったらしいんだが、今の王妃様を迎え入れたところで急に力をつけて、先代の王様や兄王子達を追い払った……と聞いてるぜ」

 あくまでも噂だから、どこまで真実なのかは分からないけど聖女教会の移転まで強行するとは新王かその王妃、または両方が相当のやり手なのは間違い無いな――かなり危険な匂いも漂っているけど。

「その王妃様はどんなお方なんです?」
「おいおい。俺達のような下々のものには詳しい事なんて分かんねえよ」

 そりゃそうか。この世界の一般人にはあくまでも『王様』『王妃様』であって、名前すら知らないのも当たり前だからな。

「ただな……王妃様は遠いところから来たスゲえ美人だったので、まだ王子様だった新王様は一目で心を奪われ、周囲の反対を押し切って王妃に迎えたという話を聞いているよ」

 遠い国からやってきた美人が王子様のハートを射止めていきなり結婚――またはハンサムな騎士が王女様の愛を得る逆パターン――なんて『昔話』では定番中の定番だけど、現実には普通あり得ない。
 いいところ『愛人』だったり『側室』だったりだろう。
 だけどオレ自身にとっては、幾度か該当する記憶があるから、とても一笑に付すワケにはいかない話だ。
 そんな事を考えていると、いきなり思いもかけぬ言葉が耳に飛び込んできた。

「何でも王妃様は『聖女教会の英雄』として大陸中に名を馳せている『アルタシャ様』と言われているそうだぜ」
「はい?」

 想像の埒外だった言葉を聞いて、オレは思わず宿の主の顔をマジマジと見つめてしまった。

「ど、どういう事ですか?!」
「おいおい。声が大きいよ」

 オレが血相を変えて問い詰めると、店主は呆れた様子を示す。

「まあお前さんも聖女教会に巡礼に来たのなら、名前ぐらいは聞いていただろうから、驚くのは当たり前か」

 何しろ紛れも無い『本人』ですからね。
 オレはひとまず深呼吸して、声を落としつつ問いかける。

「その話は本当なんですか? 聞いたところでは『アルタシャ』を騙るものも多いそうではありませんか」
「ああそうだ……この国でも以前にはその騙りは大勢いたんだぜ。そして王妃様が出てきたところで、騙りの連中は一人残らず首をはねられてさらされた」
「それではどうして王妃様が本物だと分かったのですか?」

 いくら何でも聖女教会が本物認定したとは思えない。
 あの頼りないオレの守護女神イロールでも『神託』されて、わざわざウソは答えたりしないだろう。

「だから噂だって言っているだろう。王妃様の事を迂闊に口にしたら、それこそどんな事になるか分かったもんじゃないんだよ」

 う~ん。ひょっとすると『偽者』を皆殺しにした事で、逆に無責任な噂に尾ひれがついてしまったという事もありうるのか。

「ただその話があったから、聖女教会の聖女様達も半信半疑ながら、王様の命令を聞いてしぶしぶでもここを去っていっちまったんだよ」

 なるほど。オレの事を権威付けに利用している、王子だの皇帝だのの知り合いは何人もいるけど、考えてみれば『実物』である必要はないわけだ。
 無駄に広まってしまっているオレの名前を持ちだして、権力争いに利用しようと考える人間が出てもおかしくはない。
 ハッタリでもなんでも王位についてしまえば、後の事はどうにかなると高をくくっている可能性も十分に考えられる。
 しかもこちらではオレと直接対面している人間はいないからな。国が本物認定して、しかも人前に顔を出さなければ、否定するのは極めて困難だ。
 とにかくオレにとってはかなり困った事になっているのは間違い無い。

 オレはひとまず村を出たところで考え込む。
 本当に王妃が『アルタシャ』を名乗っているのか、それともただの噂話なのかは今のところハッキリしない。
 もちろんいろいろな可能性があり得るので決めつけは禁物だが、確認するためには王都パナハップに行くしかないのだろうな。
 しかし今まで、オレの偽者の事でいろいろと迷惑を被ってはきたが、まさか一国が偽者を王妃に掲げるような真似をするとは想像もしていなかったよ。
 しかしこの話がただの噂では無く、本当だったらどうすべきだろうか?
 いくら何でもオレが正体を明かしたら、偽者がひれ伏して全て丸く収まると言う事はあり得ない。
 新しい国王が本当に自分の権威付けに『アルタシャ』を利用しているのなら、むしろオレの方を偽者という事にして、葬ろうとするのは確実だろう。
 これまで活動していた大陸中央部なら、オレの事を知っていてなおかつ『王妃にした』などという話を聞けば、呼ばなくてもしゃしゃり出てきて一国の王相手でも張り合いかねない知人は何人もいるけど、この東部ではそういうワケにはいきそうにない。
 何とも困った事だが、下手をするとこのオレが国を挙げて偽者にされてしまいかねない状況にあるわけだ。
 オレとしては毎度のごとく頭を抱えたい気分だったが、やっぱり状況は更に面倒な方向へと進む事になるのだった。
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