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第21章 神の試練と預言者
第930話 ここにもう一人、道を踏み外した者が
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まさかテセルがオレと別れた後、神造者の神話にどうやって取り込むかをずっと研究していたとは。
別れた後もオレの『恋人』を自称して、勝手に教団を作っていたりする連中に比べると個人レベルの行動だから、規模にしたらずっと小さいかもしれない。
だがコイツの場合はオレを神造者の作る公式神話に取り込んで、管理・支配しようとしていたわけだ。
しかも困った事にテセルはそれがむしろオレのためになると思っていて、なんとも自慢げな顔をしているぞ。
「お前の事を『女神』だと崇拝している連中は大勢いるようだが、この僕のように効率よく最善の崇拝を目指しているものはいないだろう」
だから自分を『恋人』に選ぶのが当然だと言わんばかりだな。
テセルにとっては自分で考え出した『最善の崇拝』というのが、オレに対する最高の贈り物のつもりなのだ。
「アルタシャに金銀財宝も地位も興味が無いのは分かっている。だからこそ僕の贈り物こそが一番素晴らしいと思わないか?」
「全く思いませんよ」
オレはウンザリしつつ即答する。
「ふふふ。そんなに照れるなよ」
コイツにはむしろ足刀を側頭部にぶち込んでやりたい気分だ。
毒舌なのは仕方ないとして、こういう思い上がったところには本当について行けない。
しかしテセルは公僕としては極めて有能で、民衆のために働くという揺るぎのない信念を持っている人間でもある。
そのためにオレを実験材料として捕らえる事に反対して、大陸の反対側まで左遷されたわけだから、ここは広い心で許してやるしか無いか。
「分かっているとも、まだまだこれは研究段階であって、本当の意味での最高の崇拝とは言いがたいさ。だからお前が不満に思う気持ちは分かるさ」
根本的に分かってないが、どうせ何を言っても都合良く解釈する鉄面皮なセクハラ野郎だから、余計な発言は気にながしておこう。
『さっきからこの者は何を言っているのだ?』
やっぱりフェスマールはオレの事だけでなく、神造者の事も何も知らないので、全く理解出来ていないな。
「細かい説明は後回しにさせて下さい。それよりも会衆の皆さんの事は、あれでよかったのでしょうか?」
本来ならばケルマル神の元に送るはずだった、うかばれぬ魂がなぜかオレを崇拝している教団のところに行ってしまったのだ。
下手をすれば信徒の魂を盗んだとか、そんな文句を言われかねない。
『この廃墟の塵となるよりはマシだろう。既にケルマル神への信仰まで失ってしまったのであれば、我に出来るのは見送る事だけだ』
ケルマル神に仕える精霊の割には結構、コイツも合理的だな。
いや。フェスマールの第一の目的はこの宝珠がケルマルの寺院に預けられて、新たに信仰の焦点となることなのだから、とにかく信徒達の事が片付けば良かったのだろう。
「ふうむ。とにかく終わったのだな。それならば早くこんなところは出て行こう」
霊体達が去ったことを察したのか、サロールも少しは元気になって来たようだ。
もっとも未だに周囲をキョロキョロしているところからして、まだどこかに霊体がいるのではないかと恐れているかもしれないな。
そもそもこのケルマル寺院を訪れたのは、本当にたまたまであって、本来の目的は『偽りの預言者』というシャンサの正体を探るためイル=フェロ神の聖地を訪れるためだ。
テセルが真相を知っているのならば、命がけでそんなところに向かう必要など無かったけど、残念ながらそんなに上手くはいかなかった。
「それでこれからどこに行くんだ?」
そういえばテセルには何も伝えていなかったな。
「この先にあるというイル=フェロ神の聖地に向かうのですよ」
「なんだと?」
この返答を聞いてテセルは呆れたような表情を浮かべる。
「いったい何のため……いや。今までの話からすればだいたいの見当はつく。シャンサの正体についてイル=フェロ神に直接問うのだな?」
「それだけ分かっていれば、説明は不要でしょう」
「この先がどれだけ危険なのか、お前だって見当はついているのだろう?」
テセルも宗教関係は本職だから、当然イル=フェロ信仰についてよく知っているだろう。
もっともその知識はあくまでも『神造者』のフィルターを通したものだから、鵜呑みにするのは禁物だけど。
「わたしの評判をよく知っているなら、危険だと言われて引き下がる事など無いことは分かっているでしょう」
サロールは全て覚悟の上だし、そもそもオレが止めても聞き入れはしないだろう。
本来ならばテセルはそんな危険に近づくべき人間では無い。
もしもテセルが望むなら、いったん安全なところに戻って聖地には再度挑戦してもいいだろう。サロールもそこまで急ぎはしないはず。
だがコイツもまたわざわざ危ない事に首を突っ込む奴なのだ。
「いいだろう。ならば僕も一緒に行こうではないか」
やっぱりそんなことを言い出すか。相変わらず向こう見ずだな――オレが人の事を言えた義理では無い事は分かっている。
「命がかかっているのですよ?」
「僕がここまで来たのもお前に会うためだぞ。それぐらい当たり前だ」
「ええ? 本当ですか?」
確かにいくら左遷されたとしても、テセルは十六歳で支部長になるほどのエリートだった。
行く先ぐらいは選べる筈。それがわざわざ大陸の反対側まで来るという事は――
「お前の評判を聞いていれば、次にどこに行くのか見当ぐらいはつくさ」
オレを追いかけてくる奴は幾人も思い当たる節があるが、テセルはオレ絡みでエリートコースどころか、人の道を踏み外していたのか。
別れた後もオレの『恋人』を自称して、勝手に教団を作っていたりする連中に比べると個人レベルの行動だから、規模にしたらずっと小さいかもしれない。
だがコイツの場合はオレを神造者の作る公式神話に取り込んで、管理・支配しようとしていたわけだ。
しかも困った事にテセルはそれがむしろオレのためになると思っていて、なんとも自慢げな顔をしているぞ。
「お前の事を『女神』だと崇拝している連中は大勢いるようだが、この僕のように効率よく最善の崇拝を目指しているものはいないだろう」
だから自分を『恋人』に選ぶのが当然だと言わんばかりだな。
テセルにとっては自分で考え出した『最善の崇拝』というのが、オレに対する最高の贈り物のつもりなのだ。
「アルタシャに金銀財宝も地位も興味が無いのは分かっている。だからこそ僕の贈り物こそが一番素晴らしいと思わないか?」
「全く思いませんよ」
オレはウンザリしつつ即答する。
「ふふふ。そんなに照れるなよ」
コイツにはむしろ足刀を側頭部にぶち込んでやりたい気分だ。
毒舌なのは仕方ないとして、こういう思い上がったところには本当について行けない。
しかしテセルは公僕としては極めて有能で、民衆のために働くという揺るぎのない信念を持っている人間でもある。
そのためにオレを実験材料として捕らえる事に反対して、大陸の反対側まで左遷されたわけだから、ここは広い心で許してやるしか無いか。
「分かっているとも、まだまだこれは研究段階であって、本当の意味での最高の崇拝とは言いがたいさ。だからお前が不満に思う気持ちは分かるさ」
根本的に分かってないが、どうせ何を言っても都合良く解釈する鉄面皮なセクハラ野郎だから、余計な発言は気にながしておこう。
『さっきからこの者は何を言っているのだ?』
やっぱりフェスマールはオレの事だけでなく、神造者の事も何も知らないので、全く理解出来ていないな。
「細かい説明は後回しにさせて下さい。それよりも会衆の皆さんの事は、あれでよかったのでしょうか?」
本来ならばケルマル神の元に送るはずだった、うかばれぬ魂がなぜかオレを崇拝している教団のところに行ってしまったのだ。
下手をすれば信徒の魂を盗んだとか、そんな文句を言われかねない。
『この廃墟の塵となるよりはマシだろう。既にケルマル神への信仰まで失ってしまったのであれば、我に出来るのは見送る事だけだ』
ケルマル神に仕える精霊の割には結構、コイツも合理的だな。
いや。フェスマールの第一の目的はこの宝珠がケルマルの寺院に預けられて、新たに信仰の焦点となることなのだから、とにかく信徒達の事が片付けば良かったのだろう。
「ふうむ。とにかく終わったのだな。それならば早くこんなところは出て行こう」
霊体達が去ったことを察したのか、サロールも少しは元気になって来たようだ。
もっとも未だに周囲をキョロキョロしているところからして、まだどこかに霊体がいるのではないかと恐れているかもしれないな。
そもそもこのケルマル寺院を訪れたのは、本当にたまたまであって、本来の目的は『偽りの預言者』というシャンサの正体を探るためイル=フェロ神の聖地を訪れるためだ。
テセルが真相を知っているのならば、命がけでそんなところに向かう必要など無かったけど、残念ながらそんなに上手くはいかなかった。
「それでこれからどこに行くんだ?」
そういえばテセルには何も伝えていなかったな。
「この先にあるというイル=フェロ神の聖地に向かうのですよ」
「なんだと?」
この返答を聞いてテセルは呆れたような表情を浮かべる。
「いったい何のため……いや。今までの話からすればだいたいの見当はつく。シャンサの正体についてイル=フェロ神に直接問うのだな?」
「それだけ分かっていれば、説明は不要でしょう」
「この先がどれだけ危険なのか、お前だって見当はついているのだろう?」
テセルも宗教関係は本職だから、当然イル=フェロ信仰についてよく知っているだろう。
もっともその知識はあくまでも『神造者』のフィルターを通したものだから、鵜呑みにするのは禁物だけど。
「わたしの評判をよく知っているなら、危険だと言われて引き下がる事など無いことは分かっているでしょう」
サロールは全て覚悟の上だし、そもそもオレが止めても聞き入れはしないだろう。
本来ならばテセルはそんな危険に近づくべき人間では無い。
もしもテセルが望むなら、いったん安全なところに戻って聖地には再度挑戦してもいいだろう。サロールもそこまで急ぎはしないはず。
だがコイツもまたわざわざ危ない事に首を突っ込む奴なのだ。
「いいだろう。ならば僕も一緒に行こうではないか」
やっぱりそんなことを言い出すか。相変わらず向こう見ずだな――オレが人の事を言えた義理では無い事は分かっている。
「命がかかっているのですよ?」
「僕がここまで来たのもお前に会うためだぞ。それぐらい当たり前だ」
「ええ? 本当ですか?」
確かにいくら左遷されたとしても、テセルは十六歳で支部長になるほどのエリートだった。
行く先ぐらいは選べる筈。それがわざわざ大陸の反対側まで来るという事は――
「お前の評判を聞いていれば、次にどこに行くのか見当ぐらいはつくさ」
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