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第23章 女神の聖地にて真相を
第1062話 シャーマン少女に諭す事は
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オレはモルッカが望んでいるであろう事を口にする。
「モルッカはあくまでもわたしの『弟子』だと名乗りたいだけなのでしょう? わたしの口からその許可が欲しいのですね。大げさに叫んでしつこく要求すればこちらがウンザリして、それぐらいは聞き入れてくれると思いましたか?」
「そ、それは!」
「もちろんただ名乗るだけでは信じてもらえないのは明らかなので、わたしがこの港の聖女教会にその旨を伝えるとか、そうやって身の証を立てたいというところですね」
「な、何のためにそんな事をあたしが頼むのですか……」
「推測ですけど、モルッカはこの庵を守りたいのではないですか? たぶん立ち退きを迫られているとか、そんな事情があるのでしょうね」
モルッカは思わず息を呑む。それはオレの指摘が誤りだからでは無く、事実だった事を証明していた。
全く回りくどい事を考えたものだ。
彼女は本音ではオレの弟子となり、一緒に世界を回ろうとかそんな事を考えていたわけじゃ無い。
この場所で『名高い女英雄アルタシャから手ほどきを受けた弟子』と言う事で、シャーマン業を続けたかったのだろう。
「お、お願いです! あたしや師匠をバカにした連中を見返してやりたいんです! だからあたしを弟子ということに、ただ名前を貸していただけるだけでいいんです!」
「ダメですよ。そんな事をしてもあなた自身に本当の実力が無ければ、一時の事に過ぎないのは分かっていますよね?」
モルッカは口惜しそうにうつむく。もちろんそんな話はオレに指摘されるまでも無かった事だろう。
それでもとにかく一時を凌ぎたかったのかもしれないな。
「言っておきますけど、わたしを恨んでいる人間も大勢いるのですよ? それぐらいは聞いた事があるでしょう」
「は……はい」
「もしもモルッカがわたしの弟子を名乗ったら、その恨みを抱いている相手が意趣返しにあなたを襲う事だってあり得ます。それは考えましたか?」
ここでモルッカの表情には恐れの色が混じる。
いろいろと背伸びはしているけど、やっぱり年相応の女の子だな。
「それにわたしの弟子という事を聖女教会が認めるとは限りません」
「どうしてですか?! アルタシャ様は聖女教会の英雄なのでしょう!」
「いいえ。違いますよ」
オレは静かに首を振る。
「わたしはあくまでも自分の意志で行動しているだけで、聖女教会の組織には属していません。だから聖女達にも命令したりすることは出来ないんです」
もしもオレが口利きしたら、たぶん聖女教会は認めるだろうけど、そこはあえて黙っておくとしよう。
「そんな……」
「だからモルッカもまずはシャーマンとして本当の実力を身につける事を考えなさい」
チートで魔法が使えるようになったオレが言っても説得力は無いかも知れないけど、決して間違ってはいないはずだ。
なぜならそのためにオレは女にされてしまったのだから。
「それではダメなんです……だってこのままでは……」
「誰かに強引に立ち退きを迫られているのですか?」
この海賊島では、暴力で問答無用に立ち退かせようという勢力があっても不思議では無い。
ただその場合、最近になって急にそんな要求をされた事になるな。
「実はあの八角形の連中が、港を見下ろす場所にあるこの庵が危険だと文句を言ってきているのです……」
港を見下ろされたら危険だって?
だけどいくら何でもこの庵やモルッカが脅威になるとは思えない。だから今までは誰も気に止めていなかったはずだ。
恐らく神造者は将来的にはここの港を自分達の軍港に使おうとでも考えていて、その準備という事かもしれないな。
ふう。本拠地のフォンリット帝国は大陸の殆ど反対側にあるのだけど、こんなところまで勢力を伸ばしているとはね。
元の世界にあった『日の沈まぬ帝国』に匹敵する程の勢力拡大ではないだろうか。
「いますぐに立ち退けと言う話では無いのですけど、このままではいずれそう遠くない先に……だからあたしは――」
「あなたの気持ちは分かりました。でもやはり弟子とするワケにはいきません。理由は先ほど言ったとおりです。本当の力を身につけていない限り、わたしの名前を出したところで、すぐに実態がない事を見抜かれてしまいますよ」
モルッカは力なくうつむく。
「仮にわたしの弟子を名乗って、一時的に人々があなたを敬ったとしましょう。しかしその時にはシャーマンとして危険極まり無い仕事が舞い込む事になります。あなたにそれがどうにか出来ますか?」
自分の事を一人前のシャーマンだと言っていたが、いくら何でもモルッカ本人が自分の実力を把握していない筈が無い。
そうでなければ命を落としかねないのが精霊の相手をするシャーマンなのだ。
「どう考えても無駄死にするだけでしょう。それともあなたの手に負えない危ない仕事は全部断りますか?」
そんな事をすれば周囲から軽蔑されるだけだ。
オレの場合、たくさん敵がいるし、あと偽者のお陰で悪評もあっちこっちで立っているから気にもならないが、モルッカは一度ここで軽蔑されたら、もう誰も相手にしてくれなくなって後はのたれ死にか、そうでなくとも悲惨な結末が待っているだろう。
そんなわけでモルッカの要求には応じられない。
これまで妻になれとか、後はあからさまに邪悪な要求を断った事はしょっちゅうだけど、この手の頼みを断ったのは初めてのような気がするぞ。
「モルッカはあくまでもわたしの『弟子』だと名乗りたいだけなのでしょう? わたしの口からその許可が欲しいのですね。大げさに叫んでしつこく要求すればこちらがウンザリして、それぐらいは聞き入れてくれると思いましたか?」
「そ、それは!」
「もちろんただ名乗るだけでは信じてもらえないのは明らかなので、わたしがこの港の聖女教会にその旨を伝えるとか、そうやって身の証を立てたいというところですね」
「な、何のためにそんな事をあたしが頼むのですか……」
「推測ですけど、モルッカはこの庵を守りたいのではないですか? たぶん立ち退きを迫られているとか、そんな事情があるのでしょうね」
モルッカは思わず息を呑む。それはオレの指摘が誤りだからでは無く、事実だった事を証明していた。
全く回りくどい事を考えたものだ。
彼女は本音ではオレの弟子となり、一緒に世界を回ろうとかそんな事を考えていたわけじゃ無い。
この場所で『名高い女英雄アルタシャから手ほどきを受けた弟子』と言う事で、シャーマン業を続けたかったのだろう。
「お、お願いです! あたしや師匠をバカにした連中を見返してやりたいんです! だからあたしを弟子ということに、ただ名前を貸していただけるだけでいいんです!」
「ダメですよ。そんな事をしてもあなた自身に本当の実力が無ければ、一時の事に過ぎないのは分かっていますよね?」
モルッカは口惜しそうにうつむく。もちろんそんな話はオレに指摘されるまでも無かった事だろう。
それでもとにかく一時を凌ぎたかったのかもしれないな。
「言っておきますけど、わたしを恨んでいる人間も大勢いるのですよ? それぐらいは聞いた事があるでしょう」
「は……はい」
「もしもモルッカがわたしの弟子を名乗ったら、その恨みを抱いている相手が意趣返しにあなたを襲う事だってあり得ます。それは考えましたか?」
ここでモルッカの表情には恐れの色が混じる。
いろいろと背伸びはしているけど、やっぱり年相応の女の子だな。
「それにわたしの弟子という事を聖女教会が認めるとは限りません」
「どうしてですか?! アルタシャ様は聖女教会の英雄なのでしょう!」
「いいえ。違いますよ」
オレは静かに首を振る。
「わたしはあくまでも自分の意志で行動しているだけで、聖女教会の組織には属していません。だから聖女達にも命令したりすることは出来ないんです」
もしもオレが口利きしたら、たぶん聖女教会は認めるだろうけど、そこはあえて黙っておくとしよう。
「そんな……」
「だからモルッカもまずはシャーマンとして本当の実力を身につける事を考えなさい」
チートで魔法が使えるようになったオレが言っても説得力は無いかも知れないけど、決して間違ってはいないはずだ。
なぜならそのためにオレは女にされてしまったのだから。
「それではダメなんです……だってこのままでは……」
「誰かに強引に立ち退きを迫られているのですか?」
この海賊島では、暴力で問答無用に立ち退かせようという勢力があっても不思議では無い。
ただその場合、最近になって急にそんな要求をされた事になるな。
「実はあの八角形の連中が、港を見下ろす場所にあるこの庵が危険だと文句を言ってきているのです……」
港を見下ろされたら危険だって?
だけどいくら何でもこの庵やモルッカが脅威になるとは思えない。だから今までは誰も気に止めていなかったはずだ。
恐らく神造者は将来的にはここの港を自分達の軍港に使おうとでも考えていて、その準備という事かもしれないな。
ふう。本拠地のフォンリット帝国は大陸の殆ど反対側にあるのだけど、こんなところまで勢力を伸ばしているとはね。
元の世界にあった『日の沈まぬ帝国』に匹敵する程の勢力拡大ではないだろうか。
「いますぐに立ち退けと言う話では無いのですけど、このままではいずれそう遠くない先に……だからあたしは――」
「あなたの気持ちは分かりました。でもやはり弟子とするワケにはいきません。理由は先ほど言ったとおりです。本当の力を身につけていない限り、わたしの名前を出したところで、すぐに実態がない事を見抜かれてしまいますよ」
モルッカは力なくうつむく。
「仮にわたしの弟子を名乗って、一時的に人々があなたを敬ったとしましょう。しかしその時にはシャーマンとして危険極まり無い仕事が舞い込む事になります。あなたにそれがどうにか出来ますか?」
自分の事を一人前のシャーマンだと言っていたが、いくら何でもモルッカ本人が自分の実力を把握していない筈が無い。
そうでなければ命を落としかねないのが精霊の相手をするシャーマンなのだ。
「どう考えても無駄死にするだけでしょう。それともあなたの手に負えない危ない仕事は全部断りますか?」
そんな事をすれば周囲から軽蔑されるだけだ。
オレの場合、たくさん敵がいるし、あと偽者のお陰で悪評もあっちこっちで立っているから気にもならないが、モルッカは一度ここで軽蔑されたら、もう誰も相手にしてくれなくなって後はのたれ死にか、そうでなくとも悲惨な結末が待っているだろう。
そんなわけでモルッカの要求には応じられない。
これまで妻になれとか、後はあからさまに邪悪な要求を断った事はしょっちゅうだけど、この手の頼みを断ったのは初めてのような気がするぞ。
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