1,222 / 1,316
第24章 全てはアルタシャのために?
第1222話 迷走の先に
しおりを挟む
テセルはしばし考え込む。
かなり深刻そうな表情ではあるが、この男が頭を全力で回している時はセクハラを除けば一応は聞くに値する結論を出すのは経験している。
「もしもアルタシャを唯一の神とすれば、その伴侶足る僕が実質的に『世界の支配者』と言う事になるわけだが――」
「そんな馬鹿げた話を本気で言っているのですか?」
オレの経験が間違っていたようだ。
「このバカの言う事はどうあれ、私としてはアルタシャ様がこの世界の頂点に立つのならば、喜んで祝福しますよ!」
どういうわけかミツリーンが目の色を変えて迫ってくる。
「これまでの幾多の奇跡を見てきた私です。アルタシャ様ならばきっとよりよい世界を作れると信じています!」
いや。そんな事出来るはず無いし、もちろん実行しよう何て気はさらさらありません。
「それでは聖女教会もイロールの声が聞こえないままですよ! 癒やしの力もなくなってしまいます」
もちろんオレがそんなの守ってやる義理はないが、ミツリーンはもともと聖女教会に忠誠を誓っているのであって、オレはあくまでも「聖女教会の英雄」としての付き合いではなかったのか。
だがミツリーンの考えは違っていたようだ。
「構いません! どうせ私には『女神の声』など聞こえないのです」
男のミツリーンはあくまでも「準信者」であって、正式な信者では無かったな。
逆を言えば「神の力を得られない一般人」にとっては、これは「神の力を有する司祭達と一般人が平等になる」機会でもあるわけか。
そういえば「戦争になれば平民でも貴族を殺す事が出来るので平等だ!」なんて言っていた『地獄の轟き』という神様に出会った事もあるが、殆どの人間が生まれつきで人生が決まってしまうこの世界では、そういう「強制的な平等」にも価値を見いだす場合もあるか。
「私はあくまでも聖女教会の癒やしの力に敬服していたのです。しかし今の話が本当だとしたら、もう聖女様方も癒やしの力を持たないわけですよね。それならば私が従う理由もありません」
ミツリーンは目に見えて不満があったようではなかったが、それでも鬱屈した感情が心の底にはあったのだろう。
それがこの機会で一気に爆発しつつあるのか。
元の世界でもある国での近代化の過程で「これまで行っていた宗教界への保護を辞めます」と言ったら、民衆が暴走して多くの寺院が破壊されるような事があったらしい。
もちろん中には腐敗して顰蹙を買っていた寺院もあったろうが、殆どはごく普通の寺院だったはずだ。
この世界でそんな暴走が起きたら、犠牲はもっと凄い事になるだろう。
「アルタシャ様は犠牲が出ることを恐れておられるのでしょう? しかしあなた様ならば以前に大陸中の聖女教会に呼びかける事が出来たではありませんか! それを改めて行えばきっと犠牲も抑えられます」
そんなの無理だと言いたいが、本当にミツリーンの中ではオレに対する「崇拝」が加速しているように見えるな。
ううむ。このままではついついその気になってしまいそうだ。
さっきまでは「このまま神の声が届かないままでもいいか」などとも少しは考えていたけど、ミツリーンに進められて逆に冷静になってきた気がする。
他人の事を言えた義理では無いが、人間とは変わるものなのだなあ。
「すいませんがミツリーンさんは少し黙っていて下さいますか?」
「う……申し訳ありません。調子に乗りすぎたようです」
オレは改めてテセルに向き直る。
見ると深刻そうな顔は先ほどと変わらない。
「話の途中で腰をおられてしまったが、アルタシャが『世界の支配者』なんて全く望んでいない事は僕だって分かっているつもりだ」
テセルなりにオレを研究していたのなら、それが当然の結果だろう。
「それでも結果的に持ち上げられて、そんな地位に就くかもしれないとでも思っているのですか?」
「アルタシャなら何十年かけてでも、その信念を貫き通せばそういう場所にたどり着くかもしれないぞ」
「そんなわけないでしょう」
「いや。ジストルという偉大な先達がいるだろう。しかもアルタシャはそのジストルが人間だったときよりもはるかに上じゃ無いか」
「ええ?!」
それはいくら何でも極端過ぎないか?
いや。だがジストルだって確かに最初は「カミツクリの理念を広めて大帝国を作る」なんて考えてもいなかったろう。
せいぜい「自分の考えた『よりよい崇拝』が人々の助けになればいい」と言ったレベルだったはずだ。
神造者として強大な勢力を得たのは、何十年も努力を積み重ねて彼の理論を一時とは言え完成させた後だろう。
「一年やそこらでジストルよりも遥かに上に達したアルタシャならば、僕たち神造者をも上回る存在になることも出来るだろう」
「待って下さい」
テセルの言い分は分かるのだが、ぶっちゃけ少しばかり違和感がある。
確かにセクハラ男ではあるが、その一方でこの男自身は公僕としては高い意識を持っていた。それにしてはあまりにも考えが突出しすぎている気がするな。
もしかして何か触れて欲しくないものがあって、そこから目をそらそうとしているのではないだろうか?
かなり深刻そうな表情ではあるが、この男が頭を全力で回している時はセクハラを除けば一応は聞くに値する結論を出すのは経験している。
「もしもアルタシャを唯一の神とすれば、その伴侶足る僕が実質的に『世界の支配者』と言う事になるわけだが――」
「そんな馬鹿げた話を本気で言っているのですか?」
オレの経験が間違っていたようだ。
「このバカの言う事はどうあれ、私としてはアルタシャ様がこの世界の頂点に立つのならば、喜んで祝福しますよ!」
どういうわけかミツリーンが目の色を変えて迫ってくる。
「これまでの幾多の奇跡を見てきた私です。アルタシャ様ならばきっとよりよい世界を作れると信じています!」
いや。そんな事出来るはず無いし、もちろん実行しよう何て気はさらさらありません。
「それでは聖女教会もイロールの声が聞こえないままですよ! 癒やしの力もなくなってしまいます」
もちろんオレがそんなの守ってやる義理はないが、ミツリーンはもともと聖女教会に忠誠を誓っているのであって、オレはあくまでも「聖女教会の英雄」としての付き合いではなかったのか。
だがミツリーンの考えは違っていたようだ。
「構いません! どうせ私には『女神の声』など聞こえないのです」
男のミツリーンはあくまでも「準信者」であって、正式な信者では無かったな。
逆を言えば「神の力を得られない一般人」にとっては、これは「神の力を有する司祭達と一般人が平等になる」機会でもあるわけか。
そういえば「戦争になれば平民でも貴族を殺す事が出来るので平等だ!」なんて言っていた『地獄の轟き』という神様に出会った事もあるが、殆どの人間が生まれつきで人生が決まってしまうこの世界では、そういう「強制的な平等」にも価値を見いだす場合もあるか。
「私はあくまでも聖女教会の癒やしの力に敬服していたのです。しかし今の話が本当だとしたら、もう聖女様方も癒やしの力を持たないわけですよね。それならば私が従う理由もありません」
ミツリーンは目に見えて不満があったようではなかったが、それでも鬱屈した感情が心の底にはあったのだろう。
それがこの機会で一気に爆発しつつあるのか。
元の世界でもある国での近代化の過程で「これまで行っていた宗教界への保護を辞めます」と言ったら、民衆が暴走して多くの寺院が破壊されるような事があったらしい。
もちろん中には腐敗して顰蹙を買っていた寺院もあったろうが、殆どはごく普通の寺院だったはずだ。
この世界でそんな暴走が起きたら、犠牲はもっと凄い事になるだろう。
「アルタシャ様は犠牲が出ることを恐れておられるのでしょう? しかしあなた様ならば以前に大陸中の聖女教会に呼びかける事が出来たではありませんか! それを改めて行えばきっと犠牲も抑えられます」
そんなの無理だと言いたいが、本当にミツリーンの中ではオレに対する「崇拝」が加速しているように見えるな。
ううむ。このままではついついその気になってしまいそうだ。
さっきまでは「このまま神の声が届かないままでもいいか」などとも少しは考えていたけど、ミツリーンに進められて逆に冷静になってきた気がする。
他人の事を言えた義理では無いが、人間とは変わるものなのだなあ。
「すいませんがミツリーンさんは少し黙っていて下さいますか?」
「う……申し訳ありません。調子に乗りすぎたようです」
オレは改めてテセルに向き直る。
見ると深刻そうな顔は先ほどと変わらない。
「話の途中で腰をおられてしまったが、アルタシャが『世界の支配者』なんて全く望んでいない事は僕だって分かっているつもりだ」
テセルなりにオレを研究していたのなら、それが当然の結果だろう。
「それでも結果的に持ち上げられて、そんな地位に就くかもしれないとでも思っているのですか?」
「アルタシャなら何十年かけてでも、その信念を貫き通せばそういう場所にたどり着くかもしれないぞ」
「そんなわけないでしょう」
「いや。ジストルという偉大な先達がいるだろう。しかもアルタシャはそのジストルが人間だったときよりもはるかに上じゃ無いか」
「ええ?!」
それはいくら何でも極端過ぎないか?
いや。だがジストルだって確かに最初は「カミツクリの理念を広めて大帝国を作る」なんて考えてもいなかったろう。
せいぜい「自分の考えた『よりよい崇拝』が人々の助けになればいい」と言ったレベルだったはずだ。
神造者として強大な勢力を得たのは、何十年も努力を積み重ねて彼の理論を一時とは言え完成させた後だろう。
「一年やそこらでジストルよりも遥かに上に達したアルタシャならば、僕たち神造者をも上回る存在になることも出来るだろう」
「待って下さい」
テセルの言い分は分かるのだが、ぶっちゃけ少しばかり違和感がある。
確かにセクハラ男ではあるが、その一方でこの男自身は公僕としては高い意識を持っていた。それにしてはあまりにも考えが突出しすぎている気がするな。
もしかして何か触れて欲しくないものがあって、そこから目をそらそうとしているのではないだろうか?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる