しぇあはうす!

ミースケ

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【プロローグ】 シェアハウス

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 シェアハウス、というのをご存知だろうか?
 そう、友達とかと一緒に同じアパートや家に住んだりするあれだ。
 友達と一緒に暮らすと考えればかなり楽しそうだが、実際はかなり大変なあれだ。
 家事当番を決める際に揉めてギスギスする事が多いあれだ。
 まあ、かくいう僕もそのシェアハウスというやつをやっている訳だが・・・
「しゅん!なんかお菓子買ってきて~!」
「へいへい・・・」
 僕こと遠江駿は、シェアハウスで同じ家に住んでいる一人である野咲陽向にパシリをさせられていた。
 現在、このシェアハウスでは2階建ての一軒家に僕と陽向含めて5人が住んでおり、一階が共有スペース、2階にそれぞの部屋がある。
 家は高級と言うわけでもなければボロいと言うわけでもない、いい感じに綺麗で、僕はこの家をかなり気に入っている。
 僕と陽向は同じ高校に通う2年生で、仲は悪くはない(と、信じたい)が、めちゃくちゃ良いという訳では無い。
 かなり気が強く、男勝りな性格で、僕はよく・・・というかほぼ毎日陽向にパシられている。
「めんどくさ・・・」
 僕はそう呟きつつ、買い物に行く準備をする。面倒くさいが断りはしない・・・なんてったって陽向は気が強くて怒ったら怖いからな!
 僕が買い物に行く準備を終え、陽向の声がした方向であるリビングに入ると、白いTシャツにジーパン姿の陽向がソファに寝転がってゲームをしていた。
「コーラとポテチでいいか?」
「あ~それでいいわよ」
 僕がそう聞くと、陽向はゲームから目を離さず、気だるげな声でそう返してくる。
 何というか、こうもまあ自堕落な生活を続けていると太りそうな気もするが、怒られるのが怖いので口には出さないでおく。
 ・・・一応美人なのに勿体無い。
「・・・今なんか失礼な事思わなかった?」
 こいつ!?僕の心を読みやがった!?
「いやいやとんでもない」
 内心焦りつつも、それを表情には出さずにサラッと返してリビングを出る。

「ふぅ、陽向のやつ変に勘が良いんだよな・・・」
 家を出た僕は、そう呟いて一息つく。
「暑いな・・・」
 現在は8月真っ只中の夏休み。それはそれは、もう日本で一番気温が高い時期なため、少し外に出ただけでもすぐに汗をかいてしまう。
 陽向のパシリついでに僕もアイスを買いに行くかと思いつつ、近くのスーパーまでの道のりを進み始める。
「・・・あ、シュン君」
「おう、黎奈か」
 後ろから声が聞こえたので振り返ると、シェアハウスメンバーである黎奈がこっちを見ていた。
 黒く短い髪に、眠たそうな半眼が印象的な少女である黎奈は、僕より2つ下の中学2年生だ。
 声に抑揚が無く、感情もあまり表に出すタイプでは無いので、何を考えているのかが分かりづらい。
「・・・買い物?」
「ああ、そうだな。陽向のやつにパシられてるんだよ・・・」
「情けないね・・・」
 情けなさ過ぎて年下の女の子にまでこう言われる始末だ。
「我ながらそう思うよ」
 ほんとにそう思うが、思ってはいるが、直そうとはしない。これが遠江クオリティだ。
「黎奈はどこか行くのか?」
 よく見ると黎奈は革製のカバンを持っており、気になった僕は黎奈にそう尋ねる。
「ちょっとね・・・」
「そうか」
「わたし、こっちだから・・・」
 曲がり角に差し掛かった所で黎奈はそう言って左に曲がっていった。僕がいつも行っているスーパーは右なので、黎奈とはここでお別れだ。
「気をつけろよ~」
 僕は黎奈にそう言って右側の道を歩き出す。

「コーラとジンジャーエール、ポテチも買ったしアイスも買った・・・買い忘れは無いよな?」
 スーパーに辿り着き、陽向に言われた物と僕が食べたい物などをかごに入れ、買い忘れが無いかを確認する。
「・・・ん?」
 そこで僕は違和感に気づく。
「アイスが1本多いな・・・」
 僕は自分が食べる用の棒アイスを1本入れた筈だったのだが、カゴにはそれと同じものがもう一つ入っていた。
「にゃはは、バレちゃいましたか」
 突然背後からそんな女の子の可愛らしい声が聞こえてくる。
「やっぱりお前か・・・」
 僕がその声の主を確認しようと振り返ると、そこにはThe・夏という感じの白いワンピースを着た少女である結希が、いたずらな笑みを浮かべて立っていた。
 結希は黎奈の1つ下の中学1年生で、黎奈とは対照的に明るくよく喋る子だ。身長は陽向や黎奈よりもさらに低く、常に僕の事を見上げて話してくれている。
「お兄ちゃん、私の分のアイスも買ってくださいよぉ~」
 結希は、僕が手に持っている、元あった場所に戻そうとしているアイスをうらめしそうな目で見ながらそんな事を言ってくる。
 ちなみに結希は僕の事を「お兄ちゃん」と呼んでいるが、親が同じ訳でも戸籍が同じ訳でもない。
「だめ・・・ですか?」
 と、上目遣いで頼まれて僕が断れる筈もなく、僕は手に持っていたアイスをそっとカゴに戻すのだった。
「やった~!お兄ちゃんありがとうございます!」
「はぁ・・・」
 そうやって無邪気に喜ぶ結希の姿を見て、僕は「かわいいし、まぁいいか」と内心思うのだった。
 
「ほいっ、買ってきてやったぞ~」
 その後、暑い暑い帰り道を結希と一緒にアイスを食べながら頑張って歩いて家に帰ってきていた。
 僕は陽向に頼まれたコーラとポテチをリビングの机の上に置く。
「ありがとっ」
「おう」
 陽向はゲームを一旦中断してソファから立ち上がり、コーラとポテチを取りにこちらに歩いてくる。
「・・・もうすぐあんたの身長抜けるかもね」
 僕の目の前に立った陽向は僕の僕を見ながらそんな事を言ってくる。
 僕の身長は男子高校生としては普通くらいで、陽向は女子高校生の普通より高めなため、今の僕と陽向の身長は同じくらいだ。
「お前それ半年前くらいからずっと言ってないか?」
 もうすぐ身長抜けそうと言い続けて半年が経とうとしているが、その間僕と陽向の身長差は全くと言っていいほど縮んでいない。
「うっさいわね!もうすぐ追い抜けるのよ!」 
 陽向は怒ったようにコーラとポテチを取ってソファの方に戻っていく。
 まあ、頑張れよ・・・と内心で思いつつ、僕はリビングを出るのだった。

「あとどのくらいで終わる?」
「・・・もう終わるよ」 
 その日の夜、僕は無心でキーボードを打ちつつ、話しかけてくる声にそう返す。
「いつもごめんね。手伝ってもらっちゃって」
「全然いいよ。眠いけどな!」
 隣から聞こえてくるそんな声は、申し訳無さそうにそう言う少女は琉輝、黎奈と同い年の中学2年生だ。
 琉輝は今話題のVtuberという奴をやっており、僕が今やっている作業は、そのチャンネルに投稿する用の動画を編集するというものだ。
 琉輝は個人でVtuberをやってるものの、意外と人気らしく、配信ではかなりの人が見に来てくれるらしい。
「そういえば、夏休みが終わっても学校に行くつもりはないのか?」
「・・・そうだね」
 琉輝は中学校に入学してすぐに不登校になり、それがきっかけでVtuberを始めた。
 夕方頃から深夜まで配信し、それが終わったら動画編集。その後は昼間まで寝て夕方まで配信の準備やゲームする。
 陽向よりも不健康で、完全に昼夜逆転している生活に心配になってしまう。
 いきなり生活を戻して学校に行けとは言わないが、少しぐらい運動して欲しいとは思う。
「・・・んっ!終わった!」
 Enterキーを押し、背伸びをしながら僕はそう叫ぶ。
 時計を確認すると3時を回っており、当然他の3人は寝ているため大声を出して「やべっ!」と思ってしまう。
「お疲れ。ありがとね、手伝ってくれて」
 隣のパソコンで別の作業をしていた琉輝がこちらに視線を向けてお礼を言ってくる。
「眠いの?」
「まあ、な・・・」
 琉輝はあくびをする僕を見て、少し心配そうにそう聞いてくる。
「じゃ、お礼に膝枕しようか?」
 琉輝はそう言って自分の膝をポンポンと軽く叩いて見せる。
「魅力的な誘いだが、流石に年下の女の子の膝枕はまずいだろ・・・」
正直もう眠すぎて今すぐにでも琉輝の膝枕で眠ってしまいたいが、まだ風呂に入ってない上、年下の女の子の膝枕で寝るというのは流石に気が引けてしまう。
「そっか、じゃあおやすみ」
「おう、お前も速く寝るんだぞ」
 少し残念そうな様子の琉輝に僕はそう言って部屋のドアを開け、1階のリビングに向かって歩いていく。

「眠い・・・」
 流石に夜中の3時にもなれば眠たくもなってきて、今すぐ自分の部屋のベットにダイブして昼ぐらいまで眠りたいのだが、その前に風呂でシャワーを浴びなくてはならない。
 夕方に1度入ったのだが、数時間にも渡って編集の手伝いをしていたため、かなり汗をかいてしまっている。
 僕は重たいまぶたが完全に閉じきらないように頑張って、なんとか風呂場の前まで到着する。
___ここで僕は気づくべきだった。
 ドアの隙間から少し漏れている電気の明かりと、脱衣所から聞こえてくる物音に・・・ 
 だが、寝てしまう直前の僕にその事を理解する思考力が残っている筈もなく、何の躊躇いもなく脱衣所のドアを開ける。  
「・・・はっ!?なんであんたが!?」
「あ」
 その瞬間、脱衣所から聞こえてきた声に驚いてほとんど閉じていたまぶたを開くと、そこには恐らく風呂上がりであろう下着姿の陽向が驚きの表情を浮かべて固まっていた。
「あ、悪りぃな・・・」
 僕はそう言ってすぐに脱衣所の扉を閉じようとする。
「悪いじゃないわよ!この変態!!」
「アガッ!?」
 が、状況を理解し、怒りの表情を浮かべた陽向が手元にあった何かよく分からない形のプラスチックの塊を投げてきて、それをモロに食らった僕は後ろに倒れてしまい、廊下の壁に頭をぶつけてしまう。 
 痛い。主に頭が。
 なんかもう今日は疲れたし、風呂も入らなくていいからもう寝るか・・・と思いつつ、僕の意識は暗闇に落ちていくのだった。
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