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Saito>>>>Sei Side 4
②「夏の日の夕暮れ時」★
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「あ、伊緒にカノジョができたって」
思わず呟やいた声に、耳はちゃんとこちらに向けていたらしい成が、手を止めて振り返った。
「環君? そうなんだ、意外だな。おめでとうって伝えて」
何が『意外』なのか分からないが、言われた通りすぐ、俺は成と二人分の祝福のことばを『!』マークの数にのせて返信した。フリック入力しながら、ずるいなあ成は、と複雑な思いは抱く。30分も俺を放置していたくせに、30分ぶりに見せた顔とひと声だけで、俺の不機嫌な気持ちをどこかへ吹き飛ばしてしまった。関係を進展させたいだのどうのというのはやはり俺の高望みな我儘で、この笑顔と声が俺のものになっただけで充分だと、今は耐えて忍ぶべきなのか。
その間にも、LIMEの画面には他のメンバーからの驚きと祝いの言葉やスタンプが次々と入る。
伊緒は同期部員の中で一番控えめな性格で、体格も小柄で、目立つ陽キャなタイプではないけれど、創礎のアート科に在籍しているだけあって流行をおさえたおしゃれサンで、校内外問わずアーティスティックな交友関係も広いらしくて、それで当然もちろんイイヤツだから、そんな彼に『彼女ができた』と聞いて成のように『意外』などという感想をもつ同期メンバーは一人もいない。
「はは、紅太がめちゃくちゃ悔しがってる。“オレも夏休み中につくってみせるから!” だって」
届いたメッセージの文面を読み上げたら、「ええ?」と成が渋い声を出した。
「志賀君って、それ本気で言ってるの?」
「何が? 本気も本気、紅太はいつもそればっかり言っていると思うけど」
「それって、カノジョを欲しがっているってこと?」
「そうだよ? 別に紅太だけじゃなくてみんなそうだろうし。あ、紘都はよく分かんないけど」
俺が言うと、成は拒絶反応を示すみたいに不快感露わな表情をつくった。
「呆れた。環君だけならまだしも、俺はフェンシング部のみんなが彩人や森嶋君と同じ思いかと思っていたのに」
「俺や紘都?」
「そうだよ! 本当は彩人も今、いい気分がしていないんでしょ?」
俺は首を捻った。何故か成が一人おかんむりだ。
俺と紘都の共通点とは、一体どういうことなのか。話が見えない。
「彩人や森嶋君は、“今はフェンシングにだけ集中する”って堅い信念で心頭滅却しているのに、周りはそんな分別知らずの人たちだっただなんて……」
「もしもし、成さん? それは何の話?」
「何の話って、彩人と森嶋君は今は浮ついたことに興味ないって、あの話だよ。努力と鍛錬を重ねるべき時期だから、今は女の子だの色事だのにかまけている暇はない、って、以前に」
「え、俺がいつそんなことを言った?」
全く記憶にないが、そんな話をしたことがあったのだろうか。
俺の完全否定を聞いて、成も「あれ?」と手を口元にやって考える。記憶を巡らせるように眉を寄せている。俺も過去を振り返ったが、そんな発言をした覚えは絶対にないぞ。
「そもそもそんなことを思っていたら成に好きなんて言わないよな?」
「……そう、だよね。あれ、でも前に森嶋君が……?」
「紘都と何か話した? でも俺、そんな話をアイツとしたこともないと思うんだけど」
俺が言うと、成はいよいよ呆然とした顔になって、「え、何か俺、いつからかそう思い込んでいた」と呟いた。
何だ、つまり?
成は、俺がフェンシングでいっぱいいっぱいだから色恋沙汰に割く余力はないし、千日の稽古をもって鍛となし万日の稽古をもって錬となす、みたいな志しで心頭滅却しているから成さんを前にしても1ミリの情欲も湧く隙はございません。みたいなことを、思い込んでいたというわけか?
「そんなワケないだろ!!」
俺が手帳型のスマホケースを叩き閉めて叫んだら、成はその音に驚いてとっさに謝った。
伊緒には悪いが重要なのは他人の恋話より自分の恋路で、俺はスマホを床に投げ出して成の方へ身を乗り出した。
「もしかしてそれで何もなかったわけ!?」
「……何も、って?」
「付き合っていたらいろいろあるだろ!? 今もなんで別々に過ごしてるんだよ!」
「いやだからお前はフェンシングが……――って、それは誤解なのか」
「言っておくけど、俺はフェンシングが一番の優先事項じゃないからな!? 俺の一番は成で、フェンシングは二番だから!」
もっとも最大の思い違いを正すべく高らかに宣言したら、成がそれはそれで驚いたみたいな顔をした。俺も驚く。何だか成は俺について、いろいろと誤解しているところがあるらしい。
成が思い立ったようにペンを置いて、立ち上がった。伺い書はもういいのだろうか。そのまま俺の前まで来て、膝を折って正座した。半身ほどの距離を空けて対峙する。
「ええと……俺は、お前にとって夏休みは競技選手としての大切な強化期間だし、猛暑の中での連日の練習で疲れているだろうと」
「疲れているからこそ癒されたいんですけど」
「癒し……」
三音を確認するように呟いて成は黙る。俺はその態度にもどかしいような焦れったさをもつ。俺の中の勝負勘が、ここは畳みかけるべき局面だと合図を発している。成のペースを、俺は待つことができない。
「成は俺に、俺の望むことは何でもしてくれるって言った」
「言っ、……た。言ったよ。覚えてる。もちろんそのつもりだよ」
「じゃあ、俺のしたいことをちゃんと聞いて」
たじろぎかける成の奥二重の目を、試合のピスト上で対戦選手を見据える時みたいに、ジッと見つめる。逃がさない、絶対に仕留める。という俺の気迫は、相手がフェンサーじゃなくても通じたらしい。
「俺は成といろいろしたい。キスしたいし、成に触りたい。俺にも触って欲しい」
言ってから、ああでもこれは全部俺の独りよがりな感情かもしれない、もしかしたら成は全然そうは思っていないかもしれないんだよな、と顧みた、瞬間。
成が前のめりに距離を詰めて、俺の上半身を腕の中に収めた。
勢いに押されて後ろに転びそうになり、寸でで手をついて堪える。
成の両手は俺を締め上げるみたいな強さで抱いた。
「ああ……かわいいなぁ、彩人は」
そう言ってから、
「全部俺がしていいんだな、本当に」
噛み締めるように耳元で囁くから、吐息が耳介をくすぐるそのぬるいこそばゆさに、俺はいよいよ自分の欲を我慢できなくなる。
「成。キスして」
言ったか言わないかの内に、返答なしに成が俺の口を塞ぐ。成の唇の柔さと熱が、俺に移る。皮膚と皮膚の接したところを、混ぜ合わしたいみたいに、押し付けられる。
と、その間を割って、何かもっと柔くて熱いものが俺の中に侵入してくる。
――舌だ、成の。
驚きと共にそう理解した時には、俺の舌を絡めとられていた。粘性の生き物みたいな成の舌が俺の口の中でぬるぬると動き、俺の舌を、歯列の下を、頬の内側を、舐めるように這っていく。それら初めての感触は俺を躊躇わせ、すぐに陥落させた。
俺も成を追う。舌と舌の先がお互いを探して求めるみたいに捻じれて、擦れ、体の下の方を熱くしていく。呼吸が乱れる。
成の歯が食むように俺の唇を噛み、途端、腰元に痛みではない鈍さが落ちる。息が漏れた俺を宥めるように、そこを舐めながら、成が俺の後頭部を撫でる。
10年待ち望んだことが、今本当に起こっている。
その事実は、俺に無上の歓びと感動をもたらす。
成の舌が、唇から下に降りていく。頤の窪みから、下顎へ。そこから輪郭を沿ってこめかみへ上る。ただ顔を舐められているだけなのに、滑った感触が、直接腰元を撫でつけられているみたいな、のけぞるような感覚を生む。
「……は……っ」
これが、快感というやつなのだ。
キスってこんなに気持ちの良いものだったのかと、一か月前のとは全然違うではないかと、さっきから腰元に走り、溜まり続ける感覚に恐くなりながら思う。
やばい。――やばい。これが溜まり続けたらどうなるのだろう。ただそうされているからではない、成にされているからこんなにも気持ちがいい。
成の舌が俺の左の耳たぶに到達し、転がすように舌先で弄って、口に含む。舌と歯でこね回す度、粘った水音がダイレクトに響く。
感触と、聴覚の両方に耐え難くなる。待って、という意味を篭めてその腕に掴まる。でも、それで彼が止まることはなかった。後頭部にやった手で俺の顔を更に自分に押し付け、空いた方の手で、舐めているのとは逆の耳を弄り始める。
キスをして欲しいと強請ったが、一体彼はどこに終着点を見つけるつもりでいるのだろう。全部、と彼は言ったが、全部って、どこまで?
もしかして、もっと先を――欲してもいいのだろうか?
成の手が俺の後ろ髪をぐっと掴み、俺の首を仰け反らせる。耳から首筋へ成の唇と舌が移ってくる。今度は前頸部の筋に沿って舌が這う。神経をむき出しにして舐められたのかと思うくらい、鮮烈な感覚が、ゾクゾクと背を震わして湧く。
成の手が俺のTシャツの裾を掴み、持ち上げる。一瞬、微かな羞恥が生まれたが、それもすぐに、成の口が胸の突起を啄んだことで霧消した。
「ん……っ、ぅん……っ」
堪えたのに、声が出る。
胸の位置から成が上目遣いで見上げて、優しく目を細める。その間も彼はそれを吸い、舐め、甘く噛む。とめどなく俺の口から洩れる嘆息が、成の硬い黒髪を揺らしている。
「せ、い」
呼吸と呼吸の合間に呼ぶ。
うん? と目線だけで成が応える。欲が、俺の口をつく。
「もっと――」
僅かな躊躇いと期待を混ぜて、俺は言う。
「もっと、下……さわって」
言ったら、思いのほか恥ずかしくて頬が熱くなった。けれどとっくに成には見えていたはずだ。細身のズボンの布地に圧されて、行き場なく膨らんでいるソコのことが。
成は拒まなかった。たじろぎもしなかった。俺の手を引いて膝立ちにさせ、Tシャツを脱がせる。同じく膝立ちになった成が凭れるように上半身をくっつけ、再び、今度は俺の右の耳を口に含む。また弱く始まった快感の波に堪えて身をよじる間に、成の手は俺のズボンのジッパーを下げ、逆手でソレを掴みだす。
「あ……、……ハ……ッ」
成の手が触れた途端、これまでと比べものにならないほど激烈な衝動が背骨を駆け上がった。
思わず目の前の肩に額を押し付ける。慰めるみたいに成は後頭部を撫で、「気持ちいい?」と聞く。
潜められた低音の声ですら刺激になる。俺はこくこくと頷いて、あとは雪崩のように思考を押し流される。
成の手が硬さを確かめるみたいに緩く上下し、柔らかく包んで括れた個所を弄ぶ。決定的な呼び水にはならず、もどかしさに喉がひくつく。
「そんなの、だ、め……」
おもわず吐露してしまう俺に、耳元で成が「なにが?」と聞く。嬉しそうにわざと言わせる意地悪さに、しかし俺はもう、恥辱を感じる余裕もない。
「……イキたい。ちゃんと……触って」
俺が求めた途端、成の手は意思を取り戻したみたいに明確に動きを変える。
「ぅ……、ン…………あ…ッ」
擦られるソコへ何かが伝い落ち、更に滑らかにその動きを援けている。ぬちゃぬちゃと音を立てるそれが自分の先走りだと気づき、それが成の手を濡らしているのだと知って、申し訳なさと興奮がせめぎ合って、興奮が勝つ。
最終局面へ向かうように、成の手が速くなる。
俺は成の肩に縋りついたまま、指先が白くなるくらい服地を掴み、その時に備える。昇りつめていく意識の奔流に、もう、堪えきれない。
「――――あ、……イ、ク……っ」
視界がホワイトアウトし、弾けた。
と思った瞬間、強烈な快感が貫いて、それは外へと放出される。
成の手を濡らし、指の間から、零れる――
思わず呟やいた声に、耳はちゃんとこちらに向けていたらしい成が、手を止めて振り返った。
「環君? そうなんだ、意外だな。おめでとうって伝えて」
何が『意外』なのか分からないが、言われた通りすぐ、俺は成と二人分の祝福のことばを『!』マークの数にのせて返信した。フリック入力しながら、ずるいなあ成は、と複雑な思いは抱く。30分も俺を放置していたくせに、30分ぶりに見せた顔とひと声だけで、俺の不機嫌な気持ちをどこかへ吹き飛ばしてしまった。関係を進展させたいだのどうのというのはやはり俺の高望みな我儘で、この笑顔と声が俺のものになっただけで充分だと、今は耐えて忍ぶべきなのか。
その間にも、LIMEの画面には他のメンバーからの驚きと祝いの言葉やスタンプが次々と入る。
伊緒は同期部員の中で一番控えめな性格で、体格も小柄で、目立つ陽キャなタイプではないけれど、創礎のアート科に在籍しているだけあって流行をおさえたおしゃれサンで、校内外問わずアーティスティックな交友関係も広いらしくて、それで当然もちろんイイヤツだから、そんな彼に『彼女ができた』と聞いて成のように『意外』などという感想をもつ同期メンバーは一人もいない。
「はは、紅太がめちゃくちゃ悔しがってる。“オレも夏休み中につくってみせるから!” だって」
届いたメッセージの文面を読み上げたら、「ええ?」と成が渋い声を出した。
「志賀君って、それ本気で言ってるの?」
「何が? 本気も本気、紅太はいつもそればっかり言っていると思うけど」
「それって、カノジョを欲しがっているってこと?」
「そうだよ? 別に紅太だけじゃなくてみんなそうだろうし。あ、紘都はよく分かんないけど」
俺が言うと、成は拒絶反応を示すみたいに不快感露わな表情をつくった。
「呆れた。環君だけならまだしも、俺はフェンシング部のみんなが彩人や森嶋君と同じ思いかと思っていたのに」
「俺や紘都?」
「そうだよ! 本当は彩人も今、いい気分がしていないんでしょ?」
俺は首を捻った。何故か成が一人おかんむりだ。
俺と紘都の共通点とは、一体どういうことなのか。話が見えない。
「彩人や森嶋君は、“今はフェンシングにだけ集中する”って堅い信念で心頭滅却しているのに、周りはそんな分別知らずの人たちだっただなんて……」
「もしもし、成さん? それは何の話?」
「何の話って、彩人と森嶋君は今は浮ついたことに興味ないって、あの話だよ。努力と鍛錬を重ねるべき時期だから、今は女の子だの色事だのにかまけている暇はない、って、以前に」
「え、俺がいつそんなことを言った?」
全く記憶にないが、そんな話をしたことがあったのだろうか。
俺の完全否定を聞いて、成も「あれ?」と手を口元にやって考える。記憶を巡らせるように眉を寄せている。俺も過去を振り返ったが、そんな発言をした覚えは絶対にないぞ。
「そもそもそんなことを思っていたら成に好きなんて言わないよな?」
「……そう、だよね。あれ、でも前に森嶋君が……?」
「紘都と何か話した? でも俺、そんな話をアイツとしたこともないと思うんだけど」
俺が言うと、成はいよいよ呆然とした顔になって、「え、何か俺、いつからかそう思い込んでいた」と呟いた。
何だ、つまり?
成は、俺がフェンシングでいっぱいいっぱいだから色恋沙汰に割く余力はないし、千日の稽古をもって鍛となし万日の稽古をもって錬となす、みたいな志しで心頭滅却しているから成さんを前にしても1ミリの情欲も湧く隙はございません。みたいなことを、思い込んでいたというわけか?
「そんなワケないだろ!!」
俺が手帳型のスマホケースを叩き閉めて叫んだら、成はその音に驚いてとっさに謝った。
伊緒には悪いが重要なのは他人の恋話より自分の恋路で、俺はスマホを床に投げ出して成の方へ身を乗り出した。
「もしかしてそれで何もなかったわけ!?」
「……何も、って?」
「付き合っていたらいろいろあるだろ!? 今もなんで別々に過ごしてるんだよ!」
「いやだからお前はフェンシングが……――って、それは誤解なのか」
「言っておくけど、俺はフェンシングが一番の優先事項じゃないからな!? 俺の一番は成で、フェンシングは二番だから!」
もっとも最大の思い違いを正すべく高らかに宣言したら、成がそれはそれで驚いたみたいな顔をした。俺も驚く。何だか成は俺について、いろいろと誤解しているところがあるらしい。
成が思い立ったようにペンを置いて、立ち上がった。伺い書はもういいのだろうか。そのまま俺の前まで来て、膝を折って正座した。半身ほどの距離を空けて対峙する。
「ええと……俺は、お前にとって夏休みは競技選手としての大切な強化期間だし、猛暑の中での連日の練習で疲れているだろうと」
「疲れているからこそ癒されたいんですけど」
「癒し……」
三音を確認するように呟いて成は黙る。俺はその態度にもどかしいような焦れったさをもつ。俺の中の勝負勘が、ここは畳みかけるべき局面だと合図を発している。成のペースを、俺は待つことができない。
「成は俺に、俺の望むことは何でもしてくれるって言った」
「言っ、……た。言ったよ。覚えてる。もちろんそのつもりだよ」
「じゃあ、俺のしたいことをちゃんと聞いて」
たじろぎかける成の奥二重の目を、試合のピスト上で対戦選手を見据える時みたいに、ジッと見つめる。逃がさない、絶対に仕留める。という俺の気迫は、相手がフェンサーじゃなくても通じたらしい。
「俺は成といろいろしたい。キスしたいし、成に触りたい。俺にも触って欲しい」
言ってから、ああでもこれは全部俺の独りよがりな感情かもしれない、もしかしたら成は全然そうは思っていないかもしれないんだよな、と顧みた、瞬間。
成が前のめりに距離を詰めて、俺の上半身を腕の中に収めた。
勢いに押されて後ろに転びそうになり、寸でで手をついて堪える。
成の両手は俺を締め上げるみたいな強さで抱いた。
「ああ……かわいいなぁ、彩人は」
そう言ってから、
「全部俺がしていいんだな、本当に」
噛み締めるように耳元で囁くから、吐息が耳介をくすぐるそのぬるいこそばゆさに、俺はいよいよ自分の欲を我慢できなくなる。
「成。キスして」
言ったか言わないかの内に、返答なしに成が俺の口を塞ぐ。成の唇の柔さと熱が、俺に移る。皮膚と皮膚の接したところを、混ぜ合わしたいみたいに、押し付けられる。
と、その間を割って、何かもっと柔くて熱いものが俺の中に侵入してくる。
――舌だ、成の。
驚きと共にそう理解した時には、俺の舌を絡めとられていた。粘性の生き物みたいな成の舌が俺の口の中でぬるぬると動き、俺の舌を、歯列の下を、頬の内側を、舐めるように這っていく。それら初めての感触は俺を躊躇わせ、すぐに陥落させた。
俺も成を追う。舌と舌の先がお互いを探して求めるみたいに捻じれて、擦れ、体の下の方を熱くしていく。呼吸が乱れる。
成の歯が食むように俺の唇を噛み、途端、腰元に痛みではない鈍さが落ちる。息が漏れた俺を宥めるように、そこを舐めながら、成が俺の後頭部を撫でる。
10年待ち望んだことが、今本当に起こっている。
その事実は、俺に無上の歓びと感動をもたらす。
成の舌が、唇から下に降りていく。頤の窪みから、下顎へ。そこから輪郭を沿ってこめかみへ上る。ただ顔を舐められているだけなのに、滑った感触が、直接腰元を撫でつけられているみたいな、のけぞるような感覚を生む。
「……は……っ」
これが、快感というやつなのだ。
キスってこんなに気持ちの良いものだったのかと、一か月前のとは全然違うではないかと、さっきから腰元に走り、溜まり続ける感覚に恐くなりながら思う。
やばい。――やばい。これが溜まり続けたらどうなるのだろう。ただそうされているからではない、成にされているからこんなにも気持ちがいい。
成の舌が俺の左の耳たぶに到達し、転がすように舌先で弄って、口に含む。舌と歯でこね回す度、粘った水音がダイレクトに響く。
感触と、聴覚の両方に耐え難くなる。待って、という意味を篭めてその腕に掴まる。でも、それで彼が止まることはなかった。後頭部にやった手で俺の顔を更に自分に押し付け、空いた方の手で、舐めているのとは逆の耳を弄り始める。
キスをして欲しいと強請ったが、一体彼はどこに終着点を見つけるつもりでいるのだろう。全部、と彼は言ったが、全部って、どこまで?
もしかして、もっと先を――欲してもいいのだろうか?
成の手が俺の後ろ髪をぐっと掴み、俺の首を仰け反らせる。耳から首筋へ成の唇と舌が移ってくる。今度は前頸部の筋に沿って舌が這う。神経をむき出しにして舐められたのかと思うくらい、鮮烈な感覚が、ゾクゾクと背を震わして湧く。
成の手が俺のTシャツの裾を掴み、持ち上げる。一瞬、微かな羞恥が生まれたが、それもすぐに、成の口が胸の突起を啄んだことで霧消した。
「ん……っ、ぅん……っ」
堪えたのに、声が出る。
胸の位置から成が上目遣いで見上げて、優しく目を細める。その間も彼はそれを吸い、舐め、甘く噛む。とめどなく俺の口から洩れる嘆息が、成の硬い黒髪を揺らしている。
「せ、い」
呼吸と呼吸の合間に呼ぶ。
うん? と目線だけで成が応える。欲が、俺の口をつく。
「もっと――」
僅かな躊躇いと期待を混ぜて、俺は言う。
「もっと、下……さわって」
言ったら、思いのほか恥ずかしくて頬が熱くなった。けれどとっくに成には見えていたはずだ。細身のズボンの布地に圧されて、行き場なく膨らんでいるソコのことが。
成は拒まなかった。たじろぎもしなかった。俺の手を引いて膝立ちにさせ、Tシャツを脱がせる。同じく膝立ちになった成が凭れるように上半身をくっつけ、再び、今度は俺の右の耳を口に含む。また弱く始まった快感の波に堪えて身をよじる間に、成の手は俺のズボンのジッパーを下げ、逆手でソレを掴みだす。
「あ……、……ハ……ッ」
成の手が触れた途端、これまでと比べものにならないほど激烈な衝動が背骨を駆け上がった。
思わず目の前の肩に額を押し付ける。慰めるみたいに成は後頭部を撫で、「気持ちいい?」と聞く。
潜められた低音の声ですら刺激になる。俺はこくこくと頷いて、あとは雪崩のように思考を押し流される。
成の手が硬さを確かめるみたいに緩く上下し、柔らかく包んで括れた個所を弄ぶ。決定的な呼び水にはならず、もどかしさに喉がひくつく。
「そんなの、だ、め……」
おもわず吐露してしまう俺に、耳元で成が「なにが?」と聞く。嬉しそうにわざと言わせる意地悪さに、しかし俺はもう、恥辱を感じる余裕もない。
「……イキたい。ちゃんと……触って」
俺が求めた途端、成の手は意思を取り戻したみたいに明確に動きを変える。
「ぅ……、ン…………あ…ッ」
擦られるソコへ何かが伝い落ち、更に滑らかにその動きを援けている。ぬちゃぬちゃと音を立てるそれが自分の先走りだと気づき、それが成の手を濡らしているのだと知って、申し訳なさと興奮がせめぎ合って、興奮が勝つ。
最終局面へ向かうように、成の手が速くなる。
俺は成の肩に縋りついたまま、指先が白くなるくらい服地を掴み、その時に備える。昇りつめていく意識の奔流に、もう、堪えきれない。
「――――あ、……イ、ク……っ」
視界がホワイトアウトし、弾けた。
と思った瞬間、強烈な快感が貫いて、それは外へと放出される。
成の手を濡らし、指の間から、零れる――
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