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第十九話 美波、バズる。②

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目線の前で揺れる毛先が大人の様な色気を放っている、ような気がした、周りの視線もなんとなく気持ちいい、そうだ大きな輪っかのピアスをしよう、ボブカットに似合いそうだ。
「素敵な髪型ですね」
 さっそく店の店員さんに褒められた、ありがとうございますと笑みを返してこの髪型に似合うようなセクシーな服を選んでもらった、ドレスのような白いワンピース、いつも買う服の十倍くらいの金額だったが構わない、どうせ来年になったら元に戻っている。
 家に帰ると海斗くんはまだ仕事中だった、しめしめ、今のうちに着替えて驚かせてしまおう、寝室に入って服を着替える、シルバーのピアスを両耳にするとまるでこれからパーティーにでも出席するような出立になった、思った以上に似合っている。
 うーん、少し考えてこのまま部屋に突入するのも芸がないと考えた、何時もの様に振る舞っていて海斗くんの反応を観察するほうが面白そうだ、時刻を見ると十四時前、そろそろお腹が空いて書斎から出てくる頃だろう。その格好のままカウンターキッチンに入るといつものように手際よくスープを作り、フライパンで炒飯を炒めた。
「あー、首いてえ、美波お腹すいたーって、えっ」 
 肩と首の中間あたりを揉みしだきながらリビングに入ってきた、こちらを見て固まっている、効果は絶大のようだ。このまま襲われてしまったらどうしよう、別に良いけど。
「美波、お前、どうしたんだその格好、パーティーでも行くのか」
 気のせいだろうか、笑いを堪えているようにも見える、まさかそんな筈はない、きっと照れているのだろう、自分の彼女が一瞬でセクシーな大人の女に変身していることに、そう女は魔術師、化粧や服装、髪型でこんなにも変わることができるのよ。
「ちょっとだけ、気分転換でね」 
「いや、髪もバッサリとまあ」
「邪魔だったから切っちゃったわ」
 感心したように全身を爪先から頭の天辺まで舐めるように見ている、そこまで凝視されるとさすがに恥ずかしい、
「こけしみたいだな……」 
「え?」
「いやなんか、シルエットがこけしみたいだなって」  
 炒飯を振るうフライパンを持つ手に力が入る、このまま投げつけてやろうか、せっかく思い切って髪を切り、銀座の百貨店くんだりで、このどこに金がかかっているか分からないテラテラの服を購入し、針金を丸めた様なピアスまでしたのは、全て海斗くんに褒められる為だと言うのに出てきた言葉が。
 こけしみたいだな――。
 なるほど、世の中の男女カップルが喧嘩になるのは男のデリカシーのなさが原因だと聞いたことがある、殆ど完璧に見えた海斗くんの欠点を垣間見た気がした。が。
「うそうそ、すごく可愛い」
 いつの間にか後ろに来たかと思うとそのまま抱きしめられた、しまった、ツンデレだったのか。
「海斗くん、フライパン、危ないから……」
「ごめんごめん、あまりに可愛くてさ」
 心臓のドキドキが止まらない、佐藤海斗、やはり侮れないわ。
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