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第二十二話 誹謗中傷男、ハッシー確保!②

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急に海斗くんが声をかけた、男は肩がビクッと震えてこちらに振り返った、少し頭皮が薄いが何の特徴もない普通の男性だった、この人からあのコメントが発せられているとは想像ができない。
「だ、だれだあんた」
 狼狽しているハッシーをの顔面を海斗くんが無造作に掴んだ、あまり力を加えているように見えないがハッシーは両手を使って海斗くんの手を外そうとしている。
「ちょっと、ちょっと海斗くん何してるの」
 美波の言葉を無視して海斗くんはハッシーに向かって囁いた。
「騒ぐな、騒いだら殺す、分かったな」
 ハッシーは無言でウンウンと頷いている。海斗くんがやっと手を離した、こんな強引な手段に出るとは聞いていない。
「一人暮らしか?」
「は、はいそうですけど、あなた一体」
「ここじゃ目立つ、お前の家に上げろ」
「はあ、嫌です――」 
 言い終える前に再び顔面を無造作に掴んでギリギリと締め上げている、ハッシーは言葉が出ないのか右手でオッケーのサインを出した。
 
「この家は土足か?」
「違いますよ、靴脱いでください」
 海斗くんの気持ちも分かる、古い木造アパートの二階にあるハッシーの部屋はホコリ一つ無い海斗くんの家とは真逆であらゆる汚れを一手に引き受けたような部屋だった。狭い三和土に靴を脱いでつま先歩きで部屋の中にお邪魔した、部屋と言っても八畳程のワンルームは敷きっぱなしの布団と小さなテーブルが有るだけで、大人が三人入ると息が詰まりそうだ。
「俺たちが誰だか分からないのか?」 
 ハッシーは敷きっぱなしの布団の上に正座している、テーブルを挟んで美波と海斗くんが向き合っている、もはや汚れるのを覚悟したように胡座をかいた海斗くんの質問にハッシーが反応する、そこで初めて美波と視線が合った。
「え、あれ、ホシミナ?」
 やっと気が付いてくれたようだ、しかしその顔は青ざめていて具合が悪そうだ、自分が隠れた所から誹謗中傷している相手が目の前に現れたらこんな感じの反応を示すものなのか。
「うちのお嬢が貴様のような下民と話がしたいとおっしゃっている、正直に何でも答えなさい、危害を加えるつもりはない」
 ハッシーのこめかみにはすっかり指の跡が付いているが、危害は加えないとシレっと言ってのけた。
「武士の情けだ、こいつを被れ」
 海斗くんがポケットから目出し帽を取り出すとハッシーに投げつけた。
「え、なんですかコレ?」
 その質問には答えずに海斗くんはスマホを美波に向けた、短く深呼吸する。
「どーもー、ホシミナチャンネルのホシミナでーす、今日は初めてのライブ中継をゲストを交えてお送り致しまーす」
 ハッシーは状況が把握できていないのか、唖然としているが構わずに続ける。
「今日のゲストは毎日欠かさず誹謗中傷のコメントをしてくれるハッシーさんでーす」
 ライブ中継の予告はしておいたのですでに千人以上の視聴者がいる、コメントも次々に流れていて全て読み上げるのは不可能だった。海斗くんがカメラをハッシーに向けた。
『うお、ハッシーキモッ』
『キモリーマン笑』
『ハッシーこめかみ何で赤いの?』
 視聴者がすぐに反応する、自分が置かれている状況にやっと気が付いたハッシーが急いで目出し帽を被った。
『ハッシーもう遅え笑』
『なんか喋れハッシー』
『ぜってーヤラセだろコレ』
 カメラが美波に戻ってくる。
「それでは、これまでにハッシーから送られてきた誹謗中傷の数々を一部紹介したいと思います、コイツはヤリマン女、偏差値四十以下、金の亡者、来週殺しに行きます、ソープのホームページに載っていた等、事実とは異なる内容や殺害予告など様々なコメントが寄せられています」
『まじでハッシークズ』
『実在したクソ野郎』
『よく捕まえたホシミナ』
『ところで誰が撮影しているんだ』
『部屋きたねえー、ホシミナが汚れる。悲』
 ここで立ち上がると、ハッシーの横に正座した、画角には二人の姿が映し出されているはずだ。
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