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「違うんだよ、あれは……元カノなんだ」
恒くんの家でハンバーグを焼きながら「昨日の髪の長い女の子に焼いて貰えば良いのに」と嫌味を言った後のセリフがそれだった。
言い訳にすらなっていない。
「あいつ、合鍵で勝手に入ってきて迷惑してたんだよ。でも、もう返してもらったからさ」
「へー」
「いや本当だってば」
「エッチしたでしょ?」
ハンバーグをひっくり返しながら何でもないことのように軽く聞いた。明日の天気を聞くように自然に。
「いや、それは。流れで仕方なく……」
そこは嘘をつかないのか。まあ私も夫としてたけど。夫には『やっぱ残業頼まれたから火曜日だけ』と連絡した。代替えのスマートフォンで。
「でも、ぜんっぜんだから。優香に比べたらまるでダメ、立たなかったもん。いやまじで」
「ぷっ」
なんだそりゃ。そんなんで女が喜ぶとでも……。喜ぶとでも?
「でもやったんでしょ?」
「いや、それは流れで……」
「でもイってないから、これはほんと!」
本気で言ってるのか表情は至って真剣だった。
ああ、そうか。
この人は子供のまま大人になっちゃったんだ。おそらく元カノも、合鍵の話も本当なのだろう。それでも正直に話せば許してくれるはず。そう信じて疑わない純粋さがある。
「ふーん」
ハンバーグに菜箸を刺すと透明な肉汁が溢れた、もう焼けたみたい。夫にはいつも半生を食わせるけど、今日はしっかり火を通す。
肉汁が残ったフライパンにバターを入れた、溶ける前にウスターソースとケチャップを投入してソースを作る。
あらかじめ焼いておいた目玉焼きをハンバーグに乗せてからソースをたっぷりとかける。付け合わせはブロッコリーとミニトマト。
小学生が喜びそうなハンバーグを目の前に目を輝かせる三十六歳。
「いただきまーす」
「めしあがれ」
居心地いいなぁ、この人は。
馬鹿との生活でささくれた心がまぁるく滑らかになる感覚。穏やかな気持ちになれる時間。
離婚までまだ七年もある。こんな場所も必要かも知れない。
自分に言い聞かせるように心の中で呟く。孤独を癒す子供のような大人を眺めながら。
恒くんの家でハンバーグを焼きながら「昨日の髪の長い女の子に焼いて貰えば良いのに」と嫌味を言った後のセリフがそれだった。
言い訳にすらなっていない。
「あいつ、合鍵で勝手に入ってきて迷惑してたんだよ。でも、もう返してもらったからさ」
「へー」
「いや本当だってば」
「エッチしたでしょ?」
ハンバーグをひっくり返しながら何でもないことのように軽く聞いた。明日の天気を聞くように自然に。
「いや、それは。流れで仕方なく……」
そこは嘘をつかないのか。まあ私も夫としてたけど。夫には『やっぱ残業頼まれたから火曜日だけ』と連絡した。代替えのスマートフォンで。
「でも、ぜんっぜんだから。優香に比べたらまるでダメ、立たなかったもん。いやまじで」
「ぷっ」
なんだそりゃ。そんなんで女が喜ぶとでも……。喜ぶとでも?
「でもやったんでしょ?」
「いや、それは流れで……」
「でもイってないから、これはほんと!」
本気で言ってるのか表情は至って真剣だった。
ああ、そうか。
この人は子供のまま大人になっちゃったんだ。おそらく元カノも、合鍵の話も本当なのだろう。それでも正直に話せば許してくれるはず。そう信じて疑わない純粋さがある。
「ふーん」
ハンバーグに菜箸を刺すと透明な肉汁が溢れた、もう焼けたみたい。夫にはいつも半生を食わせるけど、今日はしっかり火を通す。
肉汁が残ったフライパンにバターを入れた、溶ける前にウスターソースとケチャップを投入してソースを作る。
あらかじめ焼いておいた目玉焼きをハンバーグに乗せてからソースをたっぷりとかける。付け合わせはブロッコリーとミニトマト。
小学生が喜びそうなハンバーグを目の前に目を輝かせる三十六歳。
「いただきまーす」
「めしあがれ」
居心地いいなぁ、この人は。
馬鹿との生活でささくれた心がまぁるく滑らかになる感覚。穏やかな気持ちになれる時間。
離婚までまだ七年もある。こんな場所も必要かも知れない。
自分に言い聞かせるように心の中で呟く。孤独を癒す子供のような大人を眺めながら。
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