モラハラ夫との離婚計画 10年

桐谷 碧

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『何飲む?』

『シャンパン』

『んなもんねーよ』

 盗聴器からは気心知れた仲間たちの談笑が聞こえてくる。私は部屋を真っ暗にして受信機を耳に当てていた。

『あたしビール』

 女子の声が混ざる。愛美だろうか。

『発泡酒しかない』

『いいよ』

 よほど居心地が良いのだろう。彼らの職場は最寄駅から三つ目にある。電車で十分程だが、わざわざ来るのは面倒じゃないのだろうか。

『部長の頭そろそろやばいよなぁ』

『視線がついつい頭にいっちゃうよね』

 何がおかしいのか分からない話を彼らは延々と続けた。暗闇のせいもあって睡魔が襲ってくる。

『それにしても結城は彼女のどこが良いの?』

 眠気が一気に吹き飛んだ。

『ん? ああ、中学生の頃から好きだったんだよ』

『初恋ってやつ?』

『松本さんには合ってない気がするなぁ』

 鼻にかかった女の声が私の耳を通り過ぎた。

『お、自分のがお似合いってか?』

『うん』

 わけの分からない歓声が上がる。当人に聞かれているとも知らずに。

『いや、まあ。良い所もあるんだよ』

 具体的にお願いします。

『料理とか上手だし』

 それだけかい。

 とはいえ皆の前でこれだけ堂々と褒めてくれるのは悪い気はしない。やはり杞憂だったかな。ゆうくんが浮気なんて。

『んじゃあそろそろ俺は帰るわ』

『ああ、俺も』

 暗闇に光る時計に目をやると時刻は深夜の二時。タクシーで帰るのだろうか。

『じゃあねー、また来週』

『変なことするなよお前たち』

『しないっつうの』

 ゆうくんの声。

『それは分からないなぁ』

 甘ったるい女の声。

 頭が混乱した。女だけ残る。どうして。前回もそうだったのだろうか。分からない。ただこれ以上聞いてはいけないと頭の中で警鐘が鳴る。


『やっと二人きりになれたね』

『いや、まずいだろやっぱり』

『別に良いよ、セフレでも』

 私は暗闇の中にある虚空を眺めながら二人のセックスを盗聴した。私とする時よりも良く喋るなぁ、と見当違いな感想を抱きながら。朝まで。
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