モラハラ夫との離婚計画 10年

桐谷 碧

文字の大きさ
50 / 56

50

しおりを挟む
「ごめんね、突然こんな事になって、優香だってびっくりするよね。よし、じゃあ質問タイムをもうけよう、なんでも聞いてくれないかな?」

 頭上から降り注ぐハスキーボイスはまるで、物分かりの良い上司のように優しく囁きかけてくる。私は混乱した頭を落ち着かせて状況を整理した。

 配達先が子供部屋おじさんの家になってしまった。注文者は配達員の顔と名前をアプリで確認できるからすぐに私と分かっただろう。女の子の声で安心させて部屋に踏み込んだ所を捕まえ拉致監禁。でもこの部屋は配達時に入った部屋とは明らかに違う。

「ここは藤本マンションなんですよね?」

「ああ、そうだよ」

「ずいぶんと他の部屋とは違いますけど」

「ここは以前、稽古場として使っていたんだ。僕の家は日本舞踊の家元だからね、もっとも今ではカラオケボックスに変わってしまったけど」

「三階……。なんですか?」

「そうだよ、301と302をぶち抜いて作ってある」

「そんな事して大丈夫なんですか?」

「ん? と言うと」

「あ、いえ。このマンション賃貸だから」

「ああ、問題ない。このマンションの所有者は僕なんだ。三階のフロアはすべて僕が使っている。と言っても親から貰った物だから偉そうな事は言えないけどね」

 なんて事だ、子供部屋おじさんは私が考えていたスケールを大きく上回っている。完全防音の部屋、通信機器は没収されている。ただ自分が住んでいるマンションのワンフロアという事実が多少の安心材料か。

「配達が私になったのはたまたまですか? それとも女性なら誰でも良かったんですか」

「バカ言っちゃいけないよ優香、君以外の女性に興味はない」

「……」

「優香がウーバー配達員をしているのは知っていた、だから毎日何十件も注文したんだよ、君に当たるまでずっとね。おかげで少し太ってしまったよ、悪い子だ」

 背筋に冷たいものが流れた、空調はちょうどよい室温に設定されているが寒気で体がガタガタと震える。

「どうして! どうして私なんですか……」

 子供部屋おじさんはしばらく沈黙していた。姿が見えないから私は広い部屋にポツンと一人ぼっちになったような、世界に取り残されたような孤独感を感じてしまう。

「君が僕に似ているからだよ」

 その声には優しく私を包み込むような温かさがあった。私にはなぜかそう感じた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...