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BL?
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「うわっ、すごい風」
ボクは桜の花びら混じりの強風に煽られて思わず声を上げた。
右肩から斜め掛けした鞄も重しにはならない。
踊りながら勢いよく駆け抜けていった風に髪はもちろん、紺色のブレザーもスラックスもネクタイも、メガネさえも揉みくちゃにされてしまった。
全てが乱れて銀縁メガネもずり落ちる。
隣を歩いていた沢田が炸裂するように笑う。
「ハハッ、杉下ってば桜の花びらまみれじゃん。かわいぃ~」
「ばっ……沢田っ! 揶揄うなよっ」
ボクは少し背の高い幼馴染の制服の背中をバシバシと叩いた。
「いてて。もぅ、杉下ってば照れ屋さんなんだからぁ~」
ニヤニヤと笑う沢田とは小学校からの仲だ。
何故か高校まで一緒だった沢田とボクは一緒に通学している。
風は強いが暖かで、銀縁メガネをかけ直して見上げた空は晴れているのにどこか霞んだ青色をしていた。
始業式帰りの春らしい陽気のなか、ネイビーカラーのスラックスにブレザーの制服を着たボクたちは並んで歩いていた。
通学路の両側は桜並木になっている。
ちょうど満開の桜の花が強風にあおられてレースのカーテンのようにはためきながら散っていた。
その光景は綺麗だと思うが、この強風はいただけない。
ボクは風になびいて邪魔なネクタイの先をワイシャツの前立ての隙間に無理矢理押し込みながら桜を見上げた。
「でもさぁ。ココの桜はホント、スゴイよなぁ」
「確かに」
ボクの隣で沢田は頷いた。
通学路にある桜並木は無駄にピンクで花びらも多い。
「ほら、見ろよ。川の上もピンクだぜ」
「ホントだ」
沢田が指さす先を覗き込んだボクは、小さな川の表面を覆う桜の花びらに驚いた。
ピンクの花びらに覆われても水面はゆっくり動いている。
「小さな桜の花びらも、ここまで群れ成すと壮観」
「はは。確かに。汚ねぇ川もマシに見えるよな」
「一言多いっ」
ボクがツッコむと沢田は声を立てて笑った。
小さな桜の花びらが押し合いへし合いしながら川下に向かって流れていく。
「スゴイ綺麗。来年は見られるけど、再来年はどうかなぁ」
「そうだね」
ボクがつぶやくと沢田は頷いた。
高校は歩いて通える場所にあるから、この桜並木も自宅からさして遠いわけじゃない。
それでも、わざわざ桜を見に来たりするだろうか?
今年、ボクたちは高二になる。
満開の桜並木を卒業後に見ることはないかもしれない。
「……一緒に桜を見られる機会って、実は貴重かも」
「そうだね」
沢田が一瞬、真剣な目をして言うから、ボクも思わず真剣に返した。
桜の季節は短い。ボクたちの進路は別れていくから、なかなか一緒に見られる機会なんてなくなるだろう。
ちょっと寂しいな。
そう思ったボクの耳元で沢田が囁く。
「少しそのままでいて」
声が近い。
「ちょっ……突然、ナニ?」
「しっ」
横目で見ると、彼は悪戯な笑みを浮かべていた。
「この角度だと、ちょうどキスしてるように見えると思うんだよねぇ~」
「はっ? キス⁈」
「ほら、あそこ」
沢田が指さす方向に視線をやると、数名の女子が桜の木の向こうからこちらを窺っていた。
「腐っている女子たちにサービスしてやろうと思ってさ」
「要らんだろ、そんなサービス」
思わず真顔でツッコむボクを見て沢田が笑った。
腐ってる女子。腐女子たちはBLという特殊分野を好む。
男同士がじゃれているだけでもキャーキャー言って楽しめる人たちにサービスは要らないと思う。
「そう言わずに、ほら。サービス♪ サービス♪」
沢田はそう言うと、ボクの手を握った。
桜の木の向こうからキャーッという黄色い歓声が上がる。
だから、そういうのいいから。
一回り大きい沢田の手がボクの手を包んで引っ張った。
「わっ、ちょっ、ちょっと待って」
「ほらほら。走るぞ、杉下」
手を引かれたボクは、よろめいて彼にぶつかる。
「相変わらずトロいな」
「トロいって言うなっ」
上目遣いにちょっと睨めば、沢田はいつものように悪戯な笑みを浮かべた。
そしてボクたちは、キャーキャー言ってる女子の声を背景に手を繋いで駆け出す。
笑いながら走る沢田とボクは、ちょっとした悪戯の共犯。
ただの共犯。
でもボクの胸は、降るように舞い散る桜の花びらのようにドキドキが止まらなかった。
ボクは桜の花びら混じりの強風に煽られて思わず声を上げた。
右肩から斜め掛けした鞄も重しにはならない。
踊りながら勢いよく駆け抜けていった風に髪はもちろん、紺色のブレザーもスラックスもネクタイも、メガネさえも揉みくちゃにされてしまった。
全てが乱れて銀縁メガネもずり落ちる。
隣を歩いていた沢田が炸裂するように笑う。
「ハハッ、杉下ってば桜の花びらまみれじゃん。かわいぃ~」
「ばっ……沢田っ! 揶揄うなよっ」
ボクは少し背の高い幼馴染の制服の背中をバシバシと叩いた。
「いてて。もぅ、杉下ってば照れ屋さんなんだからぁ~」
ニヤニヤと笑う沢田とは小学校からの仲だ。
何故か高校まで一緒だった沢田とボクは一緒に通学している。
風は強いが暖かで、銀縁メガネをかけ直して見上げた空は晴れているのにどこか霞んだ青色をしていた。
始業式帰りの春らしい陽気のなか、ネイビーカラーのスラックスにブレザーの制服を着たボクたちは並んで歩いていた。
通学路の両側は桜並木になっている。
ちょうど満開の桜の花が強風にあおられてレースのカーテンのようにはためきながら散っていた。
その光景は綺麗だと思うが、この強風はいただけない。
ボクは風になびいて邪魔なネクタイの先をワイシャツの前立ての隙間に無理矢理押し込みながら桜を見上げた。
「でもさぁ。ココの桜はホント、スゴイよなぁ」
「確かに」
ボクの隣で沢田は頷いた。
通学路にある桜並木は無駄にピンクで花びらも多い。
「ほら、見ろよ。川の上もピンクだぜ」
「ホントだ」
沢田が指さす先を覗き込んだボクは、小さな川の表面を覆う桜の花びらに驚いた。
ピンクの花びらに覆われても水面はゆっくり動いている。
「小さな桜の花びらも、ここまで群れ成すと壮観」
「はは。確かに。汚ねぇ川もマシに見えるよな」
「一言多いっ」
ボクがツッコむと沢田は声を立てて笑った。
小さな桜の花びらが押し合いへし合いしながら川下に向かって流れていく。
「スゴイ綺麗。来年は見られるけど、再来年はどうかなぁ」
「そうだね」
ボクがつぶやくと沢田は頷いた。
高校は歩いて通える場所にあるから、この桜並木も自宅からさして遠いわけじゃない。
それでも、わざわざ桜を見に来たりするだろうか?
今年、ボクたちは高二になる。
満開の桜並木を卒業後に見ることはないかもしれない。
「……一緒に桜を見られる機会って、実は貴重かも」
「そうだね」
沢田が一瞬、真剣な目をして言うから、ボクも思わず真剣に返した。
桜の季節は短い。ボクたちの進路は別れていくから、なかなか一緒に見られる機会なんてなくなるだろう。
ちょっと寂しいな。
そう思ったボクの耳元で沢田が囁く。
「少しそのままでいて」
声が近い。
「ちょっ……突然、ナニ?」
「しっ」
横目で見ると、彼は悪戯な笑みを浮かべていた。
「この角度だと、ちょうどキスしてるように見えると思うんだよねぇ~」
「はっ? キス⁈」
「ほら、あそこ」
沢田が指さす方向に視線をやると、数名の女子が桜の木の向こうからこちらを窺っていた。
「腐っている女子たちにサービスしてやろうと思ってさ」
「要らんだろ、そんなサービス」
思わず真顔でツッコむボクを見て沢田が笑った。
腐ってる女子。腐女子たちはBLという特殊分野を好む。
男同士がじゃれているだけでもキャーキャー言って楽しめる人たちにサービスは要らないと思う。
「そう言わずに、ほら。サービス♪ サービス♪」
沢田はそう言うと、ボクの手を握った。
桜の木の向こうからキャーッという黄色い歓声が上がる。
だから、そういうのいいから。
一回り大きい沢田の手がボクの手を包んで引っ張った。
「わっ、ちょっ、ちょっと待って」
「ほらほら。走るぞ、杉下」
手を引かれたボクは、よろめいて彼にぶつかる。
「相変わらずトロいな」
「トロいって言うなっ」
上目遣いにちょっと睨めば、沢田はいつものように悪戯な笑みを浮かべた。
そしてボクたちは、キャーキャー言ってる女子の声を背景に手を繋いで駆け出す。
笑いながら走る沢田とボクは、ちょっとした悪戯の共犯。
ただの共犯。
でもボクの胸は、降るように舞い散る桜の花びらのようにドキドキが止まらなかった。
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