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嫌味な教頭先生
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「ゴールデンウイークは、どうするの?」
ハルカはクルンと椅子の上で向きを変えて後ろ向きに座り、マスミとリオに聞いた。
「私は特に予定はないわ」
「ボクもない。親が忙しくてさ。その分、家はボクの天下だけど」
「いいなぁ。家はパパがずっと居るから、ちょっとメンドクサイ」
「ハルカの家は、お父様が主夫だっけ? いいわね。父親がいつも家にいるのも」
「まあね。でも、リオの家はママがいつもいるでしょ。そっちのほうがいいなぁ」
「あら。いるといってもエステのお仕事があるから、いないようなものよ」
「そっか。ひとりでお留守番はボクだけなんだね」
「ひとりなら、家に遊びに来る? パパが出掛けられない分、ごちそう作るから友達呼んでもいいよって言ってたけど」
「「いくっ」」
ふたりは声を揃えて即答した。
「だってハルカのお父様、お料理上手なんだもの」
「そうそう。美味しいよね。ハルカのお父さんの料理」
「えー、そう? 普通だと思うけど」
ハルカは、そう言いつつもまんざらでもない様子だった。
教室内は解放感にあふれ、クラスのみんなはニコニコしながら出口から帰っていく。そんな中、渋い顔をして入ってくる人影があった。
「教頭先生きた~」
マスミに言われてハルカは振り返った。
「あ、ホントだ」
「今日はどんな嫌味を言いに来たのかしら」
リオは嫌いな物を無理矢理食べさせられたような顔をしている。ハルカやマスミもそんな顔をしていた。
忙しい校長に代わって学校を取り仕切っている教頭は、とにかく評判が悪い。古い考えを生徒に押し付ける大人代表、みたいな人物なのだ。そんな教頭に逆らうことができない理不尽に怒られる生徒を守ってくれているのが五月先生である。だから、五月先生は人気が高いのだ。そして、教頭からは嫌われている。みんなから嫌われた分、髪が抜けてハゲたという噂がまことしやかに流れているのが我が小学校の教頭だった。
「嫌われてハゲるって、ちょっとイヤかも」
「いや、ハルカ。ちょっとじゃない」
「超絶イヤだわ。嫌われてハゲるなんて」
太古の遺物、セクハラとパワハラを洋服代わりに着かねない男性、など、散々な言われようの教頭が、ハルカとマスミ、リオが見守るなか、教頭はつかつかと五月先生に向かって行く。
「今日のターゲットは誰だ、何だ」
「誰かしらね」
「ワタシじゃなきゃいいけど」
教頭と五月先生は、最初こそ大人同士らしくヒソヒソ声で話していたものの、やがてボリュームがアップして話の内容がコチラにまで聞こえ始めた。
「そんなだから彼氏の一人も出来ないんだっ」
いきなりのセクハラ、パワハラ発言に、ふしぎな三人組は目を丸くした。
「いえ、彼氏ならいます」
五月先生の返事に、三人組はさらに目を丸くした。
「五月先生、彼氏いるんだ……」
「そりゃ、先生だってお年頃だからさぁ……」
「まぁ、彼氏のひとりやふたり、いても不思議ではないわね」
衝撃のニュースにザワザワするハルカたちだが、教頭の耳には五月先生の返事は聞こえていないようだ。
「男女平等といってもね、先生。男性と女性では違うのですよ。そこをね、キチンと踏まえた上で指導して貰わなきゃ困るんですよ。そんなだから彼氏がいないんですよ」
「だから、彼氏ならいますって」
「嘘を吐かないでください、五月先生。あなたに彼氏がいるわけないでしょ」
「いや、いますから」
「幻でも見てるんじゃないですか」
「現実です」
「これだから彼氏の一人もいない独身女性なんて。現状をしっかり把握して指導をしてくださいよ。嘘を平気で吐けるような人が教師なんてしていいんですか」
「いや、彼氏は一人居れば十分ですから」
「ホント、嘘ばっかり。そんなだから嫁に行けないんだっ」
「いえ、だから教頭先生。嫁に、というか、結婚はしますよ」
「もういいっ。しっかり指導してくださいねっ」
教頭はプンプンしながら五月先生に背中を向けた。帰ろうとしたところでハルカたちの姿を見つけてコチラに向かってきた。
「ウゲッ」
リオがらしくない声をあげた。意外な反応にハルカとマスミがキョトンとしてリオを眺めている所へ教頭の声が降ってきた。
「やぁ、朝比奈さん。お母さんは元気かね」
ハルカとマスミは、リオが変な反応をした理由を悟った。リオのお母さんというのは、いわゆるバツイチの美しい女性である。しかも、リオという小学六年生の娘を持つ母親には見えないくらいに若々しい。当然、モテる。好かれたくない相手にも好かれてしまう程度にモテる。
「はい。元気ですぅ」
表情を引きつらせながらも返事をするリオは立派だ。心からの賞賛を無言で送るハルカとマスミであった。
「お母さんのエステが女性専用でなかったら、私も施術を受けたいねぇ」
ニヤニヤしながら教頭は言った。そしてマスミがそこにいると気付くと眉を寄せた。
「衣笠君。君はもう少し、男らしくできんのかね?」
マスミは、でたぁ~、と言わんばかりに顔をゆがめてハルカたちを見た。
「授業が終わったのなら早く帰りなさい」
教頭は自分が言いたいことだけ言うと、さっさと教室を出て行った。
「ホント、もうイヤ。私の母親を狙っているみたい。なんなのアレ」
「そうだよね。嫌味な教頭っ」
「ワタシはいない子のようだ」
三人組は仲良く一緒に溜息を吐いた。
ハルカはクルンと椅子の上で向きを変えて後ろ向きに座り、マスミとリオに聞いた。
「私は特に予定はないわ」
「ボクもない。親が忙しくてさ。その分、家はボクの天下だけど」
「いいなぁ。家はパパがずっと居るから、ちょっとメンドクサイ」
「ハルカの家は、お父様が主夫だっけ? いいわね。父親がいつも家にいるのも」
「まあね。でも、リオの家はママがいつもいるでしょ。そっちのほうがいいなぁ」
「あら。いるといってもエステのお仕事があるから、いないようなものよ」
「そっか。ひとりでお留守番はボクだけなんだね」
「ひとりなら、家に遊びに来る? パパが出掛けられない分、ごちそう作るから友達呼んでもいいよって言ってたけど」
「「いくっ」」
ふたりは声を揃えて即答した。
「だってハルカのお父様、お料理上手なんだもの」
「そうそう。美味しいよね。ハルカのお父さんの料理」
「えー、そう? 普通だと思うけど」
ハルカは、そう言いつつもまんざらでもない様子だった。
教室内は解放感にあふれ、クラスのみんなはニコニコしながら出口から帰っていく。そんな中、渋い顔をして入ってくる人影があった。
「教頭先生きた~」
マスミに言われてハルカは振り返った。
「あ、ホントだ」
「今日はどんな嫌味を言いに来たのかしら」
リオは嫌いな物を無理矢理食べさせられたような顔をしている。ハルカやマスミもそんな顔をしていた。
忙しい校長に代わって学校を取り仕切っている教頭は、とにかく評判が悪い。古い考えを生徒に押し付ける大人代表、みたいな人物なのだ。そんな教頭に逆らうことができない理不尽に怒られる生徒を守ってくれているのが五月先生である。だから、五月先生は人気が高いのだ。そして、教頭からは嫌われている。みんなから嫌われた分、髪が抜けてハゲたという噂がまことしやかに流れているのが我が小学校の教頭だった。
「嫌われてハゲるって、ちょっとイヤかも」
「いや、ハルカ。ちょっとじゃない」
「超絶イヤだわ。嫌われてハゲるなんて」
太古の遺物、セクハラとパワハラを洋服代わりに着かねない男性、など、散々な言われようの教頭が、ハルカとマスミ、リオが見守るなか、教頭はつかつかと五月先生に向かって行く。
「今日のターゲットは誰だ、何だ」
「誰かしらね」
「ワタシじゃなきゃいいけど」
教頭と五月先生は、最初こそ大人同士らしくヒソヒソ声で話していたものの、やがてボリュームがアップして話の内容がコチラにまで聞こえ始めた。
「そんなだから彼氏の一人も出来ないんだっ」
いきなりのセクハラ、パワハラ発言に、ふしぎな三人組は目を丸くした。
「いえ、彼氏ならいます」
五月先生の返事に、三人組はさらに目を丸くした。
「五月先生、彼氏いるんだ……」
「そりゃ、先生だってお年頃だからさぁ……」
「まぁ、彼氏のひとりやふたり、いても不思議ではないわね」
衝撃のニュースにザワザワするハルカたちだが、教頭の耳には五月先生の返事は聞こえていないようだ。
「男女平等といってもね、先生。男性と女性では違うのですよ。そこをね、キチンと踏まえた上で指導して貰わなきゃ困るんですよ。そんなだから彼氏がいないんですよ」
「だから、彼氏ならいますって」
「嘘を吐かないでください、五月先生。あなたに彼氏がいるわけないでしょ」
「いや、いますから」
「幻でも見てるんじゃないですか」
「現実です」
「これだから彼氏の一人もいない独身女性なんて。現状をしっかり把握して指導をしてくださいよ。嘘を平気で吐けるような人が教師なんてしていいんですか」
「いや、彼氏は一人居れば十分ですから」
「ホント、嘘ばっかり。そんなだから嫁に行けないんだっ」
「いえ、だから教頭先生。嫁に、というか、結婚はしますよ」
「もういいっ。しっかり指導してくださいねっ」
教頭はプンプンしながら五月先生に背中を向けた。帰ろうとしたところでハルカたちの姿を見つけてコチラに向かってきた。
「ウゲッ」
リオがらしくない声をあげた。意外な反応にハルカとマスミがキョトンとしてリオを眺めている所へ教頭の声が降ってきた。
「やぁ、朝比奈さん。お母さんは元気かね」
ハルカとマスミは、リオが変な反応をした理由を悟った。リオのお母さんというのは、いわゆるバツイチの美しい女性である。しかも、リオという小学六年生の娘を持つ母親には見えないくらいに若々しい。当然、モテる。好かれたくない相手にも好かれてしまう程度にモテる。
「はい。元気ですぅ」
表情を引きつらせながらも返事をするリオは立派だ。心からの賞賛を無言で送るハルカとマスミであった。
「お母さんのエステが女性専用でなかったら、私も施術を受けたいねぇ」
ニヤニヤしながら教頭は言った。そしてマスミがそこにいると気付くと眉を寄せた。
「衣笠君。君はもう少し、男らしくできんのかね?」
マスミは、でたぁ~、と言わんばかりに顔をゆがめてハルカたちを見た。
「授業が終わったのなら早く帰りなさい」
教頭は自分が言いたいことだけ言うと、さっさと教室を出て行った。
「ホント、もうイヤ。私の母親を狙っているみたい。なんなのアレ」
「そうだよね。嫌味な教頭っ」
「ワタシはいない子のようだ」
三人組は仲良く一緒に溜息を吐いた。
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