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ハルカの家は青い屋根

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 青い屋根にベージュ色の壁の二階建て。そこがハルカの家だ。

 河原から住宅街に入り、ちょうど家が途切れるあたりにあった。ハルカの家の隣は広い空き地になっているから、一番端にある家のように見える。その向こうも住宅街なのだが、空き地の向こうに小さな森があるので、端っこにあるように見えるのだ。一戸建ての上、住宅街の端にあるハルカの家なら、多少騒いでも怒られない。いつでも温かく迎えてくれるパパさんもいる。だから、マスミもリオも、ハルカの家が好きだ。実際いつも行っている、勝手知ったる家なのである。

「なるべく見つからないようにするのよ」
「分かってるよ、リオ。今日は近所の犬を構うのはナシだよ、ハルカ」
「仕方ないね、あきらめる」

 小さな声でコソコソと話しながら、三人組はハルカの家を目指した。いつもなら、こんなことはしない。通りにいる時から賑やかに話しながら行くのだが、今日は事情が違う。

「近所の人にも、なるべく見られないようにしましょ」
「そうだね。誰かに見られないように……」

 三人組は、木や電柱の影に隠れながらコソコソと先を急いだ。

「不審人物に注意よ」
「後ろもしっかり確認しないとね」
「うん、大丈夫。誰にもつけられてない」

 キョロキョロしながら道行く三人組は、自分たちが不審者のようになっていることには気付いていなかった。庭仕事をしたり、洗濯物を取り込んだり、散歩していたりする近所の人たちは、三人組がおかしな行動をとっていることに気付いていたが、子供のすることだからと見て見ぬふりをしてあげた。もちろん、そんな事とは知らない三人組は、誰もいないことを確認してから、サッと敷地内に入った。家の中に入るときも抜き足、差し足、忍び足のコソコソモードである。例えるなら、0点とったテストの答案用紙を持ち帰った日のような感じだ。家にいるかもしれない主夫のパパに見つかる前に、ハルカの部屋に入らなければならない。そこまでが、とりあえずのミッションだ。

「ただいまぁ~……」

 無言で帰宅するとパパに怒られるので、なるべく小さな声で言いながら、ハルカは玄関を開けた。そっと、そうっと、入っていくハルカの後ろから、宇宙人入りエコバッグを持った、マスミとリオが続いた。

「「おじゃましまぁ~す……」」

 こちらも挨拶は忘れない。蚊の鳴くような小さな声で言いながら、マスミとリオはハルカの後ろに続いた。
 いつもなら元気に挨拶するところであるが、今日は見つかってはいけない。音をなるべく立てないように、物陰から物陰にサササッと移動しながら、コソコソ静かにハルカの部屋に向かった。
 エコバッグに入っているモノが重たい。コレがみんなに見つかって騒ぎになったら、とっても面倒なことになる。それが、ハルカたちの共通認識だ。その、みんな、のなかに、ハルカのパパも含まれている。

「パパに見つかると面倒だから」
 と、いう、ハルカの判断にマスミたちも同意した。

 パパさんが嫌いなわけではない。むしろパパさんが大好きだからこそ、ご機嫌を損ねたくないのだ。内緒にしているのと、正直に話すのと。どちらがパパさんの機嫌が悪くならないのか、と、いう問題は、小学生には難しすぎる。今回は内緒にすることに決めた。決めたからには、気付かれたら負けである。三人組は、そっと、そうっと、階段を上がって、二階にあるハルカの部屋を目指した。
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