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誘拐っ

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「ねぇ……いまさぁ……タコ足の宇宙人、見えなかった?」

 ハルカは空を見上げたまま、呆然とつぶやいた。

「あ……うん、見えた……」

 マスミも、あぜんとした表情で空を見上げている。

「えっと……見なかったことにしましょう」

 リオは一番賢いと思われる方法、気付かなかったフリを発動した。ハルカとマスミも、それに従うことにしてうなずいた

 ハルカたちはミュルたちとの別れを、ちょっとした衝撃と、少しの寂しさと共に味わっていた。だが、他の人たちには関係のない話のようだ。空は元の色に戻り、河原はいつも通りの賑わいを見せていた。宇宙船のことなど、誰も見ていなかったように。

「実際、見えていなかったのかもしれない」
「そうなの?」

 ハルカは驚いたように言った。

「そうね。マスミ君の言う通りかもしれないわ。クロちゃんたちは地球人から見えない星から、宇宙船に乗ってやってきたわけでしょ? 地球人の目をごまかすくらいの技術は、持っていても不思議ではないわ」
「だろ? あの宇宙船が見えていたのは、ボクたちだけかもしれない。それにクロと話してる時、黒いスーツの大人たちに、気付かれなかったよね。」
「あ……そういえば」
「ボクたちには姿を見せようと思ったから、見えてたんじゃないの? クロの姿」
「そうね。ミュルは迷子になったくらいだから、上手に隠れられなかっただけかもしれないわ」
「そうなんだ。ワタシたちにしか見えてないんだ」

 ハルカは空を見上げてボソッと言う。

「ワタシたち以外には見えないなんて……騒ぎにならないのはいいかもしれないけど。なんだか、ちょっと、さびしいね」
「そうかも」
「そうね」

 ハルカたちが空を見上げてしんみりしていると、突然、 視界がパキンと黒くなった。

「えっ?」
 と、ハルカは思ったし、それはマスミもリオも同じだった。まだ昼ご飯も食べていない時間帯に暗くなるわけがない。何かが視界を遮ったのである。

「……っ」

 ハルカは叫ぼうとしたし、実際に声を出したつもりだった。だが、それは叫び声にはならず、苦しそうにくぐもった小さな音にしかならない。
 そう。ハルカたちはミュルと別れた途端、襲われたのである。

 ―― なぜ? ――

 疑問に思ったのも束の間。ハルカ達は何かを嗅がされて、あえなく意識を失ってしまった。不思議な三人組は、誘拐されてしまったのである。
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