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第11話 イーサン襲来
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翌日の昼時に近い午前。
次の仕事に備えて作業場を整えていたディアナは、外が騒がしいことに気付いた。
「あら、お兄さまがもういらしたのかしら?」
「いえそんなはずは……。レーアン子爵家からですと、馬車で少なくとも1日はかかるはずですわ。まだお手紙は届いてもいないかと」
「では何かしら? まさかおじさまかおばさまに何かあったとか?」
不安に思ったディアナは、マリーを伴って外に出た。
外は天気が良くて太陽の日差しが燦燦と降り注いでいる。
ディアナは両目を細めた。
眩しかったからではない。
見たくない人物が門番と揉めていたからだ。
「あっ、ディアナ! こいつらが通してくれないんだ! オレは君の夫だと、こいつらに言ってやってくれ!」
イーサンは、降り注ぐ太陽の日差しに金髪をキラキラと輝かせながら、門番ともみ合っていた。
「もう、イーサンってば恥ずかしい……」
「ええ。そうです。あの方は恥知らずなのです。気付かれてよかったです」
ディアナがぼやく横で、マリーは機嫌よく言った。
門からディアナたちのいる別館は、それなりに距離がある。
だが不審者が入り込まないように高い木や余計な建物などがない貴族の屋敷だから、門のところがよく見える。
よく見えるのはあちらからも同じだ。
ディアナの方から近寄ってくる様子がないことに気付いたイーサンは、別館に向かって大声で騒ぎ立てた。
「ディアナ―! 事務所の家賃の支払いがまだなんだ! 早く払ってもらわないと、追い出されてしまうっ! それじゃ、困るんだっ!」
その表情は、怖いくらい必死だ。
別館の警備は、ディアナの邪魔にならないように、でもしっかりと守れるように、そっと側に立った。
「あらあら。伯爵ともあろう人が見苦しいこと」
「そうですわね、お嬢さま」
ディアナとマリーはすっかり高みの見物気分だ。
「もう関係のない人なのに、私がまだ家賃を支払うと思っているのね」
ディアナが呆れて言う横で、マリーはコクコクと頷いた。
「ミーティア伯爵さまは、色々と分かっていない方ですからね」
「そうね。家賃どころか、商会の仕事とか、領地経営とか、どうするつもりなのかしら?」
ディアナが払っていた費用もあれば、やっていた仕事もある。
ディアナの実家が協力をしていた部分もあるので、来月の今頃は今日の比ではない衝撃が待っていることだろう。
「ディアナッ!!!」
ミーティア伯爵はディアナの態度に焦れて叫んでいる。
だが彼女の知ったことではない。
もう赤の他人だ。
別の逞しい門番とカナン男爵家の家令が駆けていくのが見えた。
どう考えてもイーサンに勝ち目はない。
騒ぎ立てるイーサンの向こうには、黒くて立派なミーティア伯爵家の馬車が見えた。
あの馬車もいつまで維持できるのかしら、とディアナは思ったが口には出さない。
もう自分には関係のないことだ。
だが諦めの悪いイーサンは、ディアナの方をすがるように見ている。
昔のディアナであったら、イーサンの無理な要求にも折れて協力してあげていたかもしれない。
でも夢は覚めてしまったのだ。
もうイーサンのために自分を犠牲にすることは2度とないだろう。
家令に何かを言われて逞しい門番の力に押されたイーサンは、「また来るから、待っててくれディアナ!」と叫びながら馬車へと乗り込んでいった。
勝負はついている。
でもイーサンは諦めが悪い。
「無駄なことをしないで早く手立てを考えたほうがいいのに。何が起きたのか、本当に分かっていないのかしら」
ディアナの呟く。
マリーが侮蔑を込めて丁寧に言う。
「分かっていないのではないでしょうか。なにしろミーティア伯爵さまですから」
「そうね、ミーティア伯爵だものね」
ディアナの溜息に合わせるように、ミーティア伯爵家の黒い馬車が帰っていった。
次の仕事に備えて作業場を整えていたディアナは、外が騒がしいことに気付いた。
「あら、お兄さまがもういらしたのかしら?」
「いえそんなはずは……。レーアン子爵家からですと、馬車で少なくとも1日はかかるはずですわ。まだお手紙は届いてもいないかと」
「では何かしら? まさかおじさまかおばさまに何かあったとか?」
不安に思ったディアナは、マリーを伴って外に出た。
外は天気が良くて太陽の日差しが燦燦と降り注いでいる。
ディアナは両目を細めた。
眩しかったからではない。
見たくない人物が門番と揉めていたからだ。
「あっ、ディアナ! こいつらが通してくれないんだ! オレは君の夫だと、こいつらに言ってやってくれ!」
イーサンは、降り注ぐ太陽の日差しに金髪をキラキラと輝かせながら、門番ともみ合っていた。
「もう、イーサンってば恥ずかしい……」
「ええ。そうです。あの方は恥知らずなのです。気付かれてよかったです」
ディアナがぼやく横で、マリーは機嫌よく言った。
門からディアナたちのいる別館は、それなりに距離がある。
だが不審者が入り込まないように高い木や余計な建物などがない貴族の屋敷だから、門のところがよく見える。
よく見えるのはあちらからも同じだ。
ディアナの方から近寄ってくる様子がないことに気付いたイーサンは、別館に向かって大声で騒ぎ立てた。
「ディアナ―! 事務所の家賃の支払いがまだなんだ! 早く払ってもらわないと、追い出されてしまうっ! それじゃ、困るんだっ!」
その表情は、怖いくらい必死だ。
別館の警備は、ディアナの邪魔にならないように、でもしっかりと守れるように、そっと側に立った。
「あらあら。伯爵ともあろう人が見苦しいこと」
「そうですわね、お嬢さま」
ディアナとマリーはすっかり高みの見物気分だ。
「もう関係のない人なのに、私がまだ家賃を支払うと思っているのね」
ディアナが呆れて言う横で、マリーはコクコクと頷いた。
「ミーティア伯爵さまは、色々と分かっていない方ですからね」
「そうね。家賃どころか、商会の仕事とか、領地経営とか、どうするつもりなのかしら?」
ディアナが払っていた費用もあれば、やっていた仕事もある。
ディアナの実家が協力をしていた部分もあるので、来月の今頃は今日の比ではない衝撃が待っていることだろう。
「ディアナッ!!!」
ミーティア伯爵はディアナの態度に焦れて叫んでいる。
だが彼女の知ったことではない。
もう赤の他人だ。
別の逞しい門番とカナン男爵家の家令が駆けていくのが見えた。
どう考えてもイーサンに勝ち目はない。
騒ぎ立てるイーサンの向こうには、黒くて立派なミーティア伯爵家の馬車が見えた。
あの馬車もいつまで維持できるのかしら、とディアナは思ったが口には出さない。
もう自分には関係のないことだ。
だが諦めの悪いイーサンは、ディアナの方をすがるように見ている。
昔のディアナであったら、イーサンの無理な要求にも折れて協力してあげていたかもしれない。
でも夢は覚めてしまったのだ。
もうイーサンのために自分を犠牲にすることは2度とないだろう。
家令に何かを言われて逞しい門番の力に押されたイーサンは、「また来るから、待っててくれディアナ!」と叫びながら馬車へと乗り込んでいった。
勝負はついている。
でもイーサンは諦めが悪い。
「無駄なことをしないで早く手立てを考えたほうがいいのに。何が起きたのか、本当に分かっていないのかしら」
ディアナの呟く。
マリーが侮蔑を込めて丁寧に言う。
「分かっていないのではないでしょうか。なにしろミーティア伯爵さまですから」
「そうね、ミーティア伯爵だものね」
ディアナの溜息に合わせるように、ミーティア伯爵家の黒い馬車が帰っていった。
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