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第7話 王命とストーム侯爵家
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「オレに嫁げというんですか、父上っ!」
イーリスは、ストーム侯爵家の執務室で父から伝えられたことに、驚愕の声を上げた。
「大声をだすんじゃない、イーリス。うるさい」
椅子に座って執務机の上に両肘をつき組んだ両手の上に顎を置いて息子を見上げていたストーム侯爵は、眉間にシワを寄せた。
「王命だからって、侯爵家の息子を伯爵家に嫁がせるとか、あり得ないですよっ!」
イーリスは執務机へ両手のひらを置くようにしながらバンッと叩いた。
ストーム侯爵は眉間のシワを深くしながら、騒ぐ息子へ溜息混じりに言う。
「お前、そこまで騒がなくてもいいじゃないか。ラファーガさまとは、幼い時に仲が良かったのだし」
「それとこれとは関係ないじゃないですっ!」
宰相でもある父のあまりにも落ち着き払った言動に、イーリスはイライラとしながら叫んだ。
ストーム侯爵はなだめるように言う。
「王命だから断れないよ。それに、男を男のもとへ嫁がせるって言ってきているのだ。何か含みがあるに違いない」
「父上は考えすぎなんですよっ。ホイホイ了承して、まんまの意味だったらどーすんですかっ!」
畳みかけるように言う父へ、イーリスは青い瞳のはまった目を三角にして吊り上げ、銀色の髪を振り乱しながら訴えた。
ストーム侯爵は体を椅子の背もたれに預けると、肘を胸のあたりに当て両腕を広げながら息子を見上げ、呆れたように言う。
「別にいいじゃないか。お前、女よりも男が好きだろ?」
「それはそうですけどっ。オレは抱かれる側じゃなくて、抱く側希望ですっ」
「うっわ。息子の性癖なんて知りたくなかったぁ~」
宰相はイーリスとよく似た顔をしかめた。
イーリスは長身で細身、女性よりも美しいといわれる整った顔立ちの30歳、独身。
老若男女問わず魅了する美しさで、様々なタイプの人々の心を奪い、いろんな形で奪われそうになった経験を持つ。
その経験はイーリスにトラウマを与えた。
「オレは嫁に行くなんて嫌ですっ。そもそもどんな含みがあれば、軍神の元へ宰相の息子を嫁にやろうって話になるんですかっ」
イーリスは、青い生地に銀刺繍の貴族服の袖口から覗くたっぷりの白いフリルを乱暴に揺らしながら執務机をバンッと叩くと、近くにあった椅子の上にドスンと腰を下ろした。
「まぁ落ち着け、イーリス。我が王国は魔王との戦いで傷付き、だいぶ荒れている」
「はい、それは承知しています」
魔王との戦いに勝ったとはいえ、王国内の荒れっぷりは凄まじい。
急ピッチで復興作業は進められているが、ストーム侯爵邸も本館は壊滅的で、亡くなった祖父の使っていた別館を使用しているくらいだ。
ストーム侯爵は宰相としての顔を覗かせながら言う。
「この機に乗じて大国である我が祖国、フルオロセンス王国を狙っている国は多い」
「はい、承知しております」
戦いにより疲弊し、隙だらけになっているこの機を狙って戦を仕掛けてくる国もあるだろう。
大国であるフルオロセンス王国には価値かあるし、実際にきな臭い噂も聞こえてきている。
「ゆえに国防の要であるラファーガさまの存在は大きい」
「はい、承知しております」
「では、そのラファーガさまによからぬ噂があることも、知っているだろう?」
イーリスは美しい眉をひそめて頷いた。
魔王を倒した軍神ラファーガは、国王の戴冠式以降、公の席に顔を出してはいない。
「あのラファーガさまでも魔王を相手にしては傷1つなく無事というわけにはいかなかったのではないか? もしかしたら既に亡くなられているのではないか? ラファーガさまが亡くなられているのなら、フルオロセンス王国は今が攻め時と、まことしやかに語られていることを」
「はい、承知しています」
ストーム侯爵は冷静に言う。
「王国の戦力が削られたことは確かな事実だが、他国との戦争に耐えられないほどではない。だが我が王国がラファーガさまの威光によって守られているのも事実だ」
「はい、そうですね。父上」
「このタイミングでラファーガさまに倒れられては困るのだ、イーリス。だから父として、宰相として命じる。ラファーガさまに嫁げ」
「……」
イーリスの逃げ道はふさがれた。
(オレは侯爵家の息子だが次男だし、婿に出して困ることはない)
宰相をしている父も王命を受け入れたのであれば、イーリスはラファーガの元へ嫁ぐしかない。
(しかしオレは宰相補佐で次期宰相候補だ。それでも婿に出すというのなら、なおさらオレには断れない。たとえ……婿じゃなくて嫁に行けと言われてもなっ!)
逃げ道がどこにもなくて、イーリスは苛ついた。
さらに強い男として憧れていたラファーガも、自分に対して邪な思いを抱いていたのかと思うと、イーリスは冷静を保っていられない。
(憧れでもある軍神ラファーガさまも、オレのケツに興味があったとは! 魅力的すぎるだろう、オレのケツ!)
イーリスの体はいくら鍛えても筋肉は思うように付かず、白い肌は太陽の日差しにいくらさらしてもたいして色は変わらない。
武芸も磨いたものの、頭脳を上回ることがなかったイーリスは、早々に武人を諦めた。
その決断には、上級生や教官に襲われかけたという事件も影響している。
(その事実をラファーガさまが知っているとは思わないし、知られたくはない。だが……いかにラファーガさまであっても、オレのケツを狙うようなことがあったらただではおかんっ! でも場合によっては諦めるっ!)
イーリスはザックザクに気が立った状態でラファーガの元に嫁ぐことが決まった。
イーリスは、ストーム侯爵家の執務室で父から伝えられたことに、驚愕の声を上げた。
「大声をだすんじゃない、イーリス。うるさい」
椅子に座って執務机の上に両肘をつき組んだ両手の上に顎を置いて息子を見上げていたストーム侯爵は、眉間にシワを寄せた。
「王命だからって、侯爵家の息子を伯爵家に嫁がせるとか、あり得ないですよっ!」
イーリスは執務机へ両手のひらを置くようにしながらバンッと叩いた。
ストーム侯爵は眉間のシワを深くしながら、騒ぐ息子へ溜息混じりに言う。
「お前、そこまで騒がなくてもいいじゃないか。ラファーガさまとは、幼い時に仲が良かったのだし」
「それとこれとは関係ないじゃないですっ!」
宰相でもある父のあまりにも落ち着き払った言動に、イーリスはイライラとしながら叫んだ。
ストーム侯爵はなだめるように言う。
「王命だから断れないよ。それに、男を男のもとへ嫁がせるって言ってきているのだ。何か含みがあるに違いない」
「父上は考えすぎなんですよっ。ホイホイ了承して、まんまの意味だったらどーすんですかっ!」
畳みかけるように言う父へ、イーリスは青い瞳のはまった目を三角にして吊り上げ、銀色の髪を振り乱しながら訴えた。
ストーム侯爵は体を椅子の背もたれに預けると、肘を胸のあたりに当て両腕を広げながら息子を見上げ、呆れたように言う。
「別にいいじゃないか。お前、女よりも男が好きだろ?」
「それはそうですけどっ。オレは抱かれる側じゃなくて、抱く側希望ですっ」
「うっわ。息子の性癖なんて知りたくなかったぁ~」
宰相はイーリスとよく似た顔をしかめた。
イーリスは長身で細身、女性よりも美しいといわれる整った顔立ちの30歳、独身。
老若男女問わず魅了する美しさで、様々なタイプの人々の心を奪い、いろんな形で奪われそうになった経験を持つ。
その経験はイーリスにトラウマを与えた。
「オレは嫁に行くなんて嫌ですっ。そもそもどんな含みがあれば、軍神の元へ宰相の息子を嫁にやろうって話になるんですかっ」
イーリスは、青い生地に銀刺繍の貴族服の袖口から覗くたっぷりの白いフリルを乱暴に揺らしながら執務机をバンッと叩くと、近くにあった椅子の上にドスンと腰を下ろした。
「まぁ落ち着け、イーリス。我が王国は魔王との戦いで傷付き、だいぶ荒れている」
「はい、それは承知しています」
魔王との戦いに勝ったとはいえ、王国内の荒れっぷりは凄まじい。
急ピッチで復興作業は進められているが、ストーム侯爵邸も本館は壊滅的で、亡くなった祖父の使っていた別館を使用しているくらいだ。
ストーム侯爵は宰相としての顔を覗かせながら言う。
「この機に乗じて大国である我が祖国、フルオロセンス王国を狙っている国は多い」
「はい、承知しております」
戦いにより疲弊し、隙だらけになっているこの機を狙って戦を仕掛けてくる国もあるだろう。
大国であるフルオロセンス王国には価値かあるし、実際にきな臭い噂も聞こえてきている。
「ゆえに国防の要であるラファーガさまの存在は大きい」
「はい、承知しております」
「では、そのラファーガさまによからぬ噂があることも、知っているだろう?」
イーリスは美しい眉をひそめて頷いた。
魔王を倒した軍神ラファーガは、国王の戴冠式以降、公の席に顔を出してはいない。
「あのラファーガさまでも魔王を相手にしては傷1つなく無事というわけにはいかなかったのではないか? もしかしたら既に亡くなられているのではないか? ラファーガさまが亡くなられているのなら、フルオロセンス王国は今が攻め時と、まことしやかに語られていることを」
「はい、承知しています」
ストーム侯爵は冷静に言う。
「王国の戦力が削られたことは確かな事実だが、他国との戦争に耐えられないほどではない。だが我が王国がラファーガさまの威光によって守られているのも事実だ」
「はい、そうですね。父上」
「このタイミングでラファーガさまに倒れられては困るのだ、イーリス。だから父として、宰相として命じる。ラファーガさまに嫁げ」
「……」
イーリスの逃げ道はふさがれた。
(オレは侯爵家の息子だが次男だし、婿に出して困ることはない)
宰相をしている父も王命を受け入れたのであれば、イーリスはラファーガの元へ嫁ぐしかない。
(しかしオレは宰相補佐で次期宰相候補だ。それでも婿に出すというのなら、なおさらオレには断れない。たとえ……婿じゃなくて嫁に行けと言われてもなっ!)
逃げ道がどこにもなくて、イーリスは苛ついた。
さらに強い男として憧れていたラファーガも、自分に対して邪な思いを抱いていたのかと思うと、イーリスは冷静を保っていられない。
(憧れでもある軍神ラファーガさまも、オレのケツに興味があったとは! 魅力的すぎるだろう、オレのケツ!)
イーリスの体はいくら鍛えても筋肉は思うように付かず、白い肌は太陽の日差しにいくらさらしてもたいして色は変わらない。
武芸も磨いたものの、頭脳を上回ることがなかったイーリスは、早々に武人を諦めた。
その決断には、上級生や教官に襲われかけたという事件も影響している。
(その事実をラファーガさまが知っているとは思わないし、知られたくはない。だが……いかにラファーガさまであっても、オレのケツを狙うようなことがあったらただではおかんっ! でも場合によっては諦めるっ!)
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