【完結】無敗の軍神は愛しき夫の子を孕む【全年齢BL】

天田れおぽん

文字の大きさ
8 / 25

第8話 軍神うわつく

しおりを挟む
 シャイン伯爵家の屋敷はバタバタとしていた。
 王命によりへイーリスが嫁いでくる日がやってきたのだ。
 
 そんな大切な日であるにもかかわらず、ラファーガの姿はいつものように執務室にあった。
 ただいつもとは違ってソワソワしていて、執務室にいるというのに執務が進む様子はなく、執務机前の大きな椅子に座ったり立ったりしている。
 執事エタンセルは普段とは違う主人の姿に苦笑を浮かべて言う。

「旦那さま、落ち着いてください」
「いや、でも……」

(イーリスさまが我が家に来るっ)

 そう考えるとラファーガは落ち着かない。
 
 王命によるラファーガとイーリスの縁組は、慌ただしい年末年始というタイミングであるにもかかわらず、スムーズすぎるほどサクサクと進められ、あっという間に同居が叶ってしまうことになった。

(この屋敷で私と一緒に生活をする)

 ラファーガの心は、歓喜に震えた。
 窓の外では雪が静かに降っているというのに、体は熱いし頬は赤い。

「そんなに嬉しいのでしたら、玄関ホールでイーリスさまをお待ちになればよろしいのに」
「いやいや、それは……まだ到着には時間があるし、早すぎるだろう?」

 ラファーガは精悍な太い眉を情けなく下げた。

「そんな待ち構えていました、みたいな雰囲気を出したら、イーリスさまから気持ち悪がられそうだ」
「ふふ。歓迎の意を表すのは何の問題もございませんよ」
「そうか?」

 信頼する執事の言葉に、ラファーガはせっかく座った椅子から腰を浮かせた。
 だが続く言葉を聞いて固まった。

「だって旦那さまの奥方さまになられる方なのですから……」
「そこが問題なんだっ」

 ラファーガは大きな声を上げるとエタンセルから顔をそむけて椅子にドカリと座った。
 
(私の気持ちを、知られたくない。これ以上、イーリスさまに嫌われたくないから……)

 鍛錬場であっという間に自分を追い越した後輩を、イーリスは気に入らなかったのだろう。
 挨拶もなしに鍛錬場へ来なくなったイーリスと再び顔を合わせるようになっても、よそよそしい態度をとられた。
 武官と文官では、活動する場所が異なる。
 だから再会できた頃には、ラファーガは既に【軍神】と呼ばれる立場になっていた。
 そのせいか木で鼻をくくったような冷淡な態度を取られたり、殊更に距離をとる丁寧な態度を取られたりして以前のような気さくな雰囲気はない。

(私は軍神などという存在ではなく……鍛錬場で初めて会ったときのように、イーリスさまと再会したかった)

 それは叶わない望みだとラファーガは知っていた。

(時間は戻らない。イーリスさまにとって軍神と呼ばれる私は憧れの対象のようだが……。男に欲望の眼差しを向けられると激怒するという噂は私でも知っている。私の欲望を知られたらダメだ)

 窓の外へと視線を向けた執事が、何かに気付いて主人へと告げる。

「おや、旦那さま。イーリスさまがいらしたようですよ」
「え⁉ もう⁉」

 執務室は2階にある。
 ラファーガは驚いて椅子から立ち上がると、窓から外を見下ろした。
 玄関前にストーム侯爵家の家紋の入った白い馬車が止まっているのが見えた。

「ああ、そのようだ」

 ラファーガが馬車を眺めていると、中からイーリスが現れた。
 銀色の髪を1つにくくり、青いリボンをつけている。
 手足が長くてスラリとした体には、シルバーフォックスのマントを羽織っていた。
 
(イーリスさまは、今日も綺麗だ)

 強い風に煽られてマントがはためく。
 下に着ている銀刺繍のたっぷり入った青い生地の貴族服や、その袖口から覗くレースをふんだんに使った白いブラウスがチラリと見えた。

(そう言えば。イーリスさまは女性的に見えるからと、レースやフリルといったものを嫌っていたな。よくお似合いになるのに……)

 無理矢理に着せられたのだろうと想像して、ラファーガの表情が思わず緩む。
 その瞬間、顔を上げたイーリスと目が合った。

 ドキリとラファーガの心臓が跳ねる。

 イーリスは睨むようにこちらへ一瞥をくれると、不機嫌そうにプイッと視線をそらした。
 
(やはりイーリスさまは、王命に納得してはいない)

 当たり前だと頭では納得していても、ラファーガの心はチクリと痛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の (本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である) 異世界ファンタジーラブコメ。 魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、 「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」 そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。 魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。 ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。 彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、 そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』 と書かれていたので、うっかり 「この先輩、人間嫌いとは思えないな」 と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!? この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、 同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」 とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑) キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、 そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。 全年齢対象です。 BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・ ぜひよろしくお願いします!

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

英雄の溺愛と執着

AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。 転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。 付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。 あの時までは‥。 主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。 そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。 そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

処理中です...