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第15話 夫は夫の秘密を暴く
(ラファーガが、変だ)
イーリスはシャイン伯爵家に来た時から気付いていた。
(服を着ていると分かりにくいけど……。軍神と呼ばれ、パレードで馬上にいた時の見事な筋肉は失われている。肌色が褐色だから分かりにくいが血色も悪い。ギラギラして見えるほどだった黒い瞳からも力強さが消えているし、戦場とは違って手入れがしっかりなされているはずの黒い髪もパサパサだ)
イーリスは、執務室の椅子の上で1人膝を抱え、唇を噛む。
(オレだって、人並みに【軍神】さまのことは知ってるんだ。しかもあのラファーガだぞ? 何も気付かないわけがないじゃないか)
イーリスにとってラファーガは特別だ。
鍛錬場の片隅で泣いていた弱々しい痩せっぽちの少年は、イーリスの気を引いた。
(守ってやりたいタイプだったのが、あっという間に逞しくなって……あげく【軍神】さまになっちまったが。中身は、あんま変わってないな)
だから自分が動くとイーリスは決めた。
(なんも言わずに倒れやがって。オレはそんなに頼りないか? これでも未来を期待されてる宰相補佐だぞ? まぁ【軍神】さまには敵わないけどな!)
じっと見つめる先にあるのは、書棚を装った隠し扉だ。
そこがパカーンと開いて、中から金髪をなびかせた国王と白髪の老医師が入ってきた。
「うわっ⁉ イーリス・ストーム侯爵令息⁉」
驚いて仰け反りながら声を上げたオラノスに、イーリスは鋭い一瞥を投げて椅子からトンッと下りた。
そして背筋を伸ばしてオラノスの前に立つと、わざとらしいほどうやうやしく跪いた。
「ご機嫌麗しゅうございます、国王さま」
「う、うむ」
イーリスの美しい顔は、真面目な表情を浮かべただけで妙な迫力がある。
しかも身長はラファーガと変わらないほど高い。
威圧感を感じたオラノスは、たじたじとなった。
スッと立ち上がったイーリスは医師に向かって笑みを見せた。
「医師、こんにちは。ラファーガの部屋には執事が案内します。エタンセル、医師をラファーガの部屋へ」
老医師は大人しく執事の後に続いて執務室を出ていった。
あとにはイーリスとオラノスだけが残された。
「さて、国王陛下。詳しい事情をお伺いしましょうか」
「え? ぁ、うん」
「こちらの椅子をお使いください。さぁ、どうぞ」
イーリスは笑顔でオラノスに椅子を勧めた。
国王陛下が着席したのを確認すると、イーリスは応接セットの小さなテーブルを挟んだ反対側へ腰をおろす。
「それで国王陛下。ラファーガさまには何が起こっているのですか?」
「あー……どこから説明したものか」
オラノスは大きな体を縮み込ませながら、魔王討伐時に漏れ聞こえた話をイーリスに伝えた。
説明を聞いていたイーリスは、話が進めば進むほど眉間のシワを深くした。
「と、いうわけなのだ」
「なんですかソレは⁉ 私は呪いのことなど聞いてませんよっ⁉」
オラノスが説明を終えると、イーリスはテーブルを叩く勢いで国王陛下に食って掛かった。
「ぇ……いや、そんな……いちいち言わなくても、どうにかなると……」
「どうもなってませんっ!」
冷や汗をダラダラかいているオラノスを、イーリスは一喝した。
「あぁ、なんてことだ。私とラファーガさまは清い関係だというのに……」
「えっ⁉」
今度はオラノスが驚く番だった。
「28歳と30歳が結婚したのに、何もなかったのか⁉」
「そういうことに、年齢は関係ありませんっ! 第一、ラファーガさまは、紳士なのです! 私の意志に関係なく事に及んだりしませんっ」
「いや、ただの根性なし……」
「国王陛下っ!」
イーリスがバンッとテーブルを叩いて、オラノスがビクッと椅子から飛び上がった。
「ラファーガさまは【軍神】。我が王国の守り神ですっ。ラファーガさまに万が一のことがあったら、我が王国が困ったことになるではありませんかっ!」
「万が一というか……このままなら、アイツは死ぬな?」
「国王陛下っ!」
イーリスはキッとオラノスを睨んだ。
「我が王国がいかに大国であっても、魔王軍との戦いで疲弊していることは一目瞭然。明らかに弱っている王国から守りの要であるラファーガさまが消えたら、他国の餌食になりますっ。ただでさえ国王が若いオラノスさまに代わって、他国から見くびられているというのにっ」
「うっ……」
魔王軍との戦いに勝利した王国であったが、他国とのバランスという点においては微妙な状態だ。
「この状態でラファーガさまが亡くなりでもしたら、とんでもないことになりますっ」
「そ、そうだな」
オラノスはイーリスのあまりの迫力に、ちょっと引いていた。
イーリスのほうはラファーガのため、王国のために決意を固めた。
(ここは、オレがどうにかするしかないっ!)
イーリスは目を閉じて天を仰ぎ、両手を握り込んで拳にした。
そしてガッと目を見開くと、オラノスに勢いよく聞いた。
「私がラファーガさまに抱かれれば、呪いは解けるのですね⁉」
「あ、ああ。話が全部聞こえたわけではないが、そういう話だと……」
オラノスは体を震わながら答えた。
イーリスは険しい表情を浮かべた。
(強引にラファーガがオレの体を開こうものなら「けだもの」の一言くらいくれてやろうと思っていたが、それもなかった。生死がかかっているというのに、バカなヤツだ。オレに何にも言わないで……)
イーリスはキュッと口の端を引き締めた。
(呪いが解けるのなら、オレのケツくらい……)
イーリスは腹を決めた。そして自分の尻をさすった。
イーリスはシャイン伯爵家に来た時から気付いていた。
(服を着ていると分かりにくいけど……。軍神と呼ばれ、パレードで馬上にいた時の見事な筋肉は失われている。肌色が褐色だから分かりにくいが血色も悪い。ギラギラして見えるほどだった黒い瞳からも力強さが消えているし、戦場とは違って手入れがしっかりなされているはずの黒い髪もパサパサだ)
イーリスは、執務室の椅子の上で1人膝を抱え、唇を噛む。
(オレだって、人並みに【軍神】さまのことは知ってるんだ。しかもあのラファーガだぞ? 何も気付かないわけがないじゃないか)
イーリスにとってラファーガは特別だ。
鍛錬場の片隅で泣いていた弱々しい痩せっぽちの少年は、イーリスの気を引いた。
(守ってやりたいタイプだったのが、あっという間に逞しくなって……あげく【軍神】さまになっちまったが。中身は、あんま変わってないな)
だから自分が動くとイーリスは決めた。
(なんも言わずに倒れやがって。オレはそんなに頼りないか? これでも未来を期待されてる宰相補佐だぞ? まぁ【軍神】さまには敵わないけどな!)
じっと見つめる先にあるのは、書棚を装った隠し扉だ。
そこがパカーンと開いて、中から金髪をなびかせた国王と白髪の老医師が入ってきた。
「うわっ⁉ イーリス・ストーム侯爵令息⁉」
驚いて仰け反りながら声を上げたオラノスに、イーリスは鋭い一瞥を投げて椅子からトンッと下りた。
そして背筋を伸ばしてオラノスの前に立つと、わざとらしいほどうやうやしく跪いた。
「ご機嫌麗しゅうございます、国王さま」
「う、うむ」
イーリスの美しい顔は、真面目な表情を浮かべただけで妙な迫力がある。
しかも身長はラファーガと変わらないほど高い。
威圧感を感じたオラノスは、たじたじとなった。
スッと立ち上がったイーリスは医師に向かって笑みを見せた。
「医師、こんにちは。ラファーガの部屋には執事が案内します。エタンセル、医師をラファーガの部屋へ」
老医師は大人しく執事の後に続いて執務室を出ていった。
あとにはイーリスとオラノスだけが残された。
「さて、国王陛下。詳しい事情をお伺いしましょうか」
「え? ぁ、うん」
「こちらの椅子をお使いください。さぁ、どうぞ」
イーリスは笑顔でオラノスに椅子を勧めた。
国王陛下が着席したのを確認すると、イーリスは応接セットの小さなテーブルを挟んだ反対側へ腰をおろす。
「それで国王陛下。ラファーガさまには何が起こっているのですか?」
「あー……どこから説明したものか」
オラノスは大きな体を縮み込ませながら、魔王討伐時に漏れ聞こえた話をイーリスに伝えた。
説明を聞いていたイーリスは、話が進めば進むほど眉間のシワを深くした。
「と、いうわけなのだ」
「なんですかソレは⁉ 私は呪いのことなど聞いてませんよっ⁉」
オラノスが説明を終えると、イーリスはテーブルを叩く勢いで国王陛下に食って掛かった。
「ぇ……いや、そんな……いちいち言わなくても、どうにかなると……」
「どうもなってませんっ!」
冷や汗をダラダラかいているオラノスを、イーリスは一喝した。
「あぁ、なんてことだ。私とラファーガさまは清い関係だというのに……」
「えっ⁉」
今度はオラノスが驚く番だった。
「28歳と30歳が結婚したのに、何もなかったのか⁉」
「そういうことに、年齢は関係ありませんっ! 第一、ラファーガさまは、紳士なのです! 私の意志に関係なく事に及んだりしませんっ」
「いや、ただの根性なし……」
「国王陛下っ!」
イーリスがバンッとテーブルを叩いて、オラノスがビクッと椅子から飛び上がった。
「ラファーガさまは【軍神】。我が王国の守り神ですっ。ラファーガさまに万が一のことがあったら、我が王国が困ったことになるではありませんかっ!」
「万が一というか……このままなら、アイツは死ぬな?」
「国王陛下っ!」
イーリスはキッとオラノスを睨んだ。
「我が王国がいかに大国であっても、魔王軍との戦いで疲弊していることは一目瞭然。明らかに弱っている王国から守りの要であるラファーガさまが消えたら、他国の餌食になりますっ。ただでさえ国王が若いオラノスさまに代わって、他国から見くびられているというのにっ」
「うっ……」
魔王軍との戦いに勝利した王国であったが、他国とのバランスという点においては微妙な状態だ。
「この状態でラファーガさまが亡くなりでもしたら、とんでもないことになりますっ」
「そ、そうだな」
オラノスはイーリスのあまりの迫力に、ちょっと引いていた。
イーリスのほうはラファーガのため、王国のために決意を固めた。
(ここは、オレがどうにかするしかないっ!)
イーリスは目を閉じて天を仰ぎ、両手を握り込んで拳にした。
そしてガッと目を見開くと、オラノスに勢いよく聞いた。
「私がラファーガさまに抱かれれば、呪いは解けるのですね⁉」
「あ、ああ。話が全部聞こえたわけではないが、そういう話だと……」
オラノスは体を震わながら答えた。
イーリスは険しい表情を浮かべた。
(強引にラファーガがオレの体を開こうものなら「けだもの」の一言くらいくれてやろうと思っていたが、それもなかった。生死がかかっているというのに、バカなヤツだ。オレに何にも言わないで……)
イーリスはキュッと口の端を引き締めた。
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イーリスは腹を決めた。そして自分の尻をさすった。
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