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阿木口説く

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「じゃ、お世話になっちゃおうかな」
「うん。いらっしゃ~い。一緒にはたらこ」

 こんなカジュアルな感じで私は何でも屋になることにした。

 もうさ。難しく考えるのは止めだ。
 いつ命を無くすか、どんな形で無くすか、なんてわかんないよね。

 私は神じゃない。

 まぁ、あやかしにはなったけど。

 我慢してたって仕方ない。
 推しのためには我慢も必要だと思ってたけど。
 どうとでもなるよね。
 稼ぐのは。

 でもさぁ。

 命は無くしたら、もうどうしようもないじゃん。
 私は、たまたま神さまに助けて貰えたけどさ。
 そんなんマレだし。

 次は私だってどうなるか分からないよねぇ。

「ねぇ、萌子」

 おっ。阿木クン。
 呼び捨てだ。
 呼び方で距離詰める作戦?
 なら、私は阿木呼びするよ?

「一緒に仕事することだし……僕たち付き合っちゃう?」

 お。阿木の積極性が発現しましたよ。

「ん? でもさ……私でいいの?」
「なんで?」
「言っちゃあなんだが私……あやかしだよ?」
「ボクは……萌子がいいんだ」 

 横に居た阿木がスッと真正面に来たなぁと思ったら。

 唇を何かがかすめていきましたよ。

「あ、キスどろぼう」

 思わず出た言葉に、ポンと耳まで赤くなった阿木を見て、私の耳もポンと熱くなった。

 ……まぁ、32歳の恋の始まりなんて、こんなもんですかねぇ?
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