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第三十一話 未来へ
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結婚式と同時に王位の継承の儀も行うという慌ただしいスケジュールとなったが、若い二人にとっては大した問題ではない。
「なるべく簡素に、それでいて見栄えよく。使える物は使いまわして、スピーディに事を進めてくれ」
クロイツは部下たちにそう命じた。
彼にとって道具立ての細かなことは、どうでもよかったからだ。
「もちろん、外から見て貧相に見えないことは重要だ。他国や国内の有力者たちに見くびられるのは危険だからね。だからってお金をかけて贅を尽くせばよいというものでもない。煌びやかなだけなのは、アホっぽいだろ? ぼくは若い。侮られないのが絶対条件だ」
彼の周囲にいる優秀な人材たちも、それは心得ていた。
宝物庫をあさって使える物を見繕い、最大限の威圧を与えられるよう細かなところまで気配りされた。
しかしクロイツには、ひとつだけ希望があった。
「レイチェル。ちょっとこれを見て」
「なんですか? クロイツさま」
クロイツの手には一枚のデザイン画があった。
「母上は、本当にお洒落が大好きで……ドレスのデザインをするのも好きだった」
「そうなのですね」
クロイツは手元のデザイン画を懐かしそうに見た。
「それで結婚式でぼくが着る衣装と、妻となる女性の着る衣装まで、デザインしていてね。できれば、母のデザインを使いたいのだが、どうかな?」
「えっ⁉ 本当ですかっ! そうしていただけたら、わたしも嬉しいですっ!」
(亡きクロエさまデザインのドレスっ! しかも、わたしのために仕立てられるドレス!)
レイチェルの気分は上がった。
クロイツはホッと息を吐いて安心したように言う。
「ごめんね、マザコンって言われそうで心配しちゃった」
「ふふ、そんなことはありませんよ。クロエさまはセンスのよい方ですもの。わたしにデザインはわかりませんから、似合いそうなものを選んでください」
「うん、君に似合いそうなものを選んできたよ。コレなんてどうかな?」
クロイツはデザイン画の中の一着を指さした。
「素敵ですっ!」
そのデザイン画は、十年以上昔に描かれたモノとは思えないほど、古臭さが無くて美しいデザインだった。
しかも若い女性に似合いそうな若々しいデザインだ。
「えっと……結婚式の衣装は、これをもとに作って、いいかな?」
「ええ。いいですね、ええ」
照れくさそうに言うクロイツの隣で、レイチェルはポロポロと涙をこぼした。
突然の涙にクロイツは焦った。
「えっとレイチェル? 嫌だった? 嫌なら別のを……」
「ちが……違います……」
レイチェルは首を横に振って否定した。
「う……うれしく……て……とても、うれしくて……」
時間的な余裕はなくとも、2人の間には愛があり、その周りにも愛はある。
今は故人となった人たちにも見守られて、幸せを作るのだ。
(国王も、王妃も、いざとなれば戦う夜伽聖女も、大変な役目ではあるけれど……)
「レイチェル」
困ったように名前を呼ぶ愛しい人は、完璧ではないけれど素敵な男性。
クロイツにふさわしいのは自分だと胸を張って言えるほどの自信は、レイチェルにはない。
それでも隣にいることができる幸せに、レイチェルの胸は一杯になった。
「ああ、泣かないで。困ったな……」
クロイツは戸惑いながら、レイチェルを自分の腕の中に収めた。
(大丈夫。わたしたちなら、大丈夫)
レイチェルは強くそう思いながら、自分を抱きしめるクロイツに体を預けた。
◇◇◇
バタバタと時は過ぎて。
王位継承と2人の結婚の準備は、さしたる問題もなく進んでいき――――儀式に先立ち、レイチェルの避妊紋は外されたのだった。
◇◇◇
2人のお披露目の場である結婚式も、戴冠式もつつがなく終了した。
「国外からのお客さまにも、上手にアピールできたかしら? わたしは聖女としてなら自信があるけれど、1人の淑女としての振る舞いには不安だらけよ」
「ああ。君は立派だったよ。何よりも綺麗だったし」
クスクス笑うクロイツから額にキスを落とされて、レイチェルは人生で一番の幸せを感じていた。
後は結婚後、初の夜伽となる初夜を迎えるのみである。
◇◇◇
「あぁっ、緊張するっ」
レイチェルは青い部屋の続きにある夜伽聖女の部屋で支度をしてながら、耐え切れずに呟いた。
クロイツは国王になっても、幼少時から使っていた青い部屋をそのまま使うと決めた。
だから、その隣にある夜伽聖女の部屋は、そのままお妃さまの支度部屋として利用されることになったのだ。
「ふふふ。王妃さまになられたのに、レイチェルさまはレイチェルさまですね」
「本当にそのままで……とても可愛らしいです」
侍女たちやメイドたちは、くすくす笑いながらレイチェルが髪を下ろしたり、ドレスを脱ぐのを手伝っていた。
今日は結婚式や戴冠式のために、何度も着替えて何度も化粧直しをした。
「お疲れではないですか?」
「マッサージもいたしましょうか?」
使用人たちはレイチェルの体を気遣っていたが、本人はそれどころではない。
「大丈夫よ。いざとなったら自分で回復をかけるから。あぁ、落ち着かない」
(初めてだけど初めてではないところが、また緊張するっ! 逃げたいっ! 逃げたいけど、クロイツさまに会いたいっ! なんなのこの気持ち⁉)
白いウエディングドレスを脱がせてもらいながら百面相をするレイチェルを見て、お付きの侍女たちはうふふと笑った。
「わたくしたちにお任せください」
「そうですわ、レイチェルさま。いえ、王妃さま」
「ピカピカに磨き上げて、国王さまを惚れ直させてしまいましょう」
(惚れ直す……え~、わたしのほうこそ、惚れ直しまくっているわ。今日だけでも何度クロイツさまに惚れ直したことかっ。あぁ、あの方がわたしの伴侶なのよぉ~。もう、鼻血吹きそうっ。でも……わたしも惚れ直してもらいたいっ)
「ん、お任せするわっ」
レイチェルは力強く依頼した。
もっとも今日のレイチェルは、普段にも増してツヤツヤだ。
結婚式までの間、たっぷりと手を入れてもらった髪や肌は、レイチェルの人生史上最良のコンデションと言っていい。
「今日は素敵でしたわ、レイチェルさま」
「ええ、そうですわ。ウエディングドレスも、戴冠式の赤いローブも、とてもお似合いでしたわ」
「ふふふ。ありがとう」
(クロイツさまのお母さまのデザインだもの。本当に素敵だったわ)
レイチェルは、足元に落ちて広がるウエディングドレスを見ながら思った。
「国王陛下とおなりになったクロイツさまも、凛々しくて神々しかったです」
「もちろん、王妃殿下になられたレイチェルさまも、輝いておりましたわ」
使用人たちは口々にレイチェルを褒めそやした。
「ふふふ。ありがとう」
(頑張った甲斐があったわ。あの冠は綺麗だけと重たいのよね。クロイツさまは、重くないといっていたけど。もう今日のクロイツさまは、服はもちろん王冠も似合っていたし、キラキラしっぱなしで素敵だったぁ~)
レイチェルが思い返してうっとりしていると、侍女たちがからかうように言う。
「ふふ。昨日は違うベッドて寝られたのでしょう? レイチェルさま」
「それはお寂しかったでしょう、王妃さま」
侍女にからかわれて、レイチェルの白い肌はポッと朱に染まる。
「それは、避妊紋を取ったから一晩は間をあけるようにと、大神官さまが……」
「まぁ!」
「一晩間を空けるために、寝室を別に⁉」
侍女たちに思いのほか大声を出されて、レイチェルは戸惑った。
「え……どういう意味?」
「いえ、レイチェルさま。一晩と空けずに求められるとか……」
「ええ。やはり国王殿下となられる方は、違いますわね……」
頬を赤く染める侍女たちのモゾモゾとした答えを聞いて、レイチェルは更に赤くなった。
(あ、クロイツさまに付けられた跡は浄化のついでに消してしまうから……え、あれ? アレって毎晩するものでは? あれ、違った? クロイツさまが『みんなこんなものだよ』と言っていたのを真に受けてたわ。本当に、本当に……笑顔のクロイツさまは信用ならない……)
侍女たちの反応に、自分の常識が間違っていることに感づいたレイチェルであった。
「ああ、でも、そうなのであれば。すぐに御子さまも授かりそうですね」
「御子さま! お2人の御子さまであれば、さぞや可愛いことでしょう。楽しみですわぁ~」
侍女たちはキャッキャウフフとはしゃぎ始めた。
「それに避妊紋を取ると感度が上がるという噂ですし」
「わたくし、感度以外にも色々と変わると聞きましたわ」
(ん? 感度? 色々と変わる?)
「避妊紋を取ると、何がそんなに変わるの?」
レイチェルは気になって聞いてみた。
「それは当たり前に色々と変わりますわ、レイチェルさま。だって避妊されていたわけですし」
「ええ、そうですわよね。避妊紋は妊娠しない代わりに感度が鈍くなったり、精液の量が減ったりすると聞いたことがありますわ」
「えっ⁉ わたしについている避妊紋が、クロイツさまにも影響を⁉」
「ふふふ。もうレイチェルさまってば、お可愛らしい」
「そりゃ避妊紋ですもの。殿方にも影響がないと妊娠してしまいますわ。特に夜伽聖女さまの避妊紋は性病対策もバッチリで、精子の色まで変わると聞いたことがあります」
「えっ⁉」
「ふふふ。これは今夜が楽しみですわね、レイチェルさま」
「本当ですわね。楽しみですね、レイチェルさま」
「もう、揶揄わないで」
レイチェルは全身を赤らめた。
「ふふふ。やはり特別な夜ですわね。それでしたら、レイチェルさま。今夜は、私どもも張り切らせていただきますわ」
「ええ、そうですわ。何かご希望がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
侍女たちはメイドたちに目配せをして、急いでレイチェルのメイクを落とし、髪をほぐして下着まで脱がせた。
湯あみをして、体や髪をお手入れして、整えて。
やることは沢山ある。
全てを終えて素っ裸になったレイチェルは、差し出された下着を見て戸惑った。
「下はコレだけ?」
(この後に行うことはアレだけといえばアレだけだけど……これはあまりにあからさまでは⁉)
赤面して困惑するレイチェルに対して、年上の侍女たちは意味深に笑う。
「ええ、これだけです」
「だって初夜ですもの、ふふふ」
(こんな薄い絹で出来た下着。ピンク色のアンダーヘアが透けてしまうのでは?)
「大丈夫ですよ、レイチェルさま」
「ええ、そうですよ。すぐに脱ぐものですから、大丈夫です」
侍女たちはレイチェルの両側に立ち、屈んで両サイドのリボンをそれぞれちょうちょ結びにしてはかせた。
(やっぱり透けてる……いいの? 本当にこれで?)
「レイチェルさま。ナイトドレスは、こちらの淡いピンク色の薄絹のものでよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いするわ」
「ピンク色のリボンを可愛く結びますね」
「ええ、お願い」
透ける薄絹の上に、透ける薄絹を重ねても、やはり透けるものである。
着ているほうがエッチなナイトドレスを身に着けたあと、これまたツルツルスベスベの薄くて白っぽいガウンを羽織った。
濃いピンクをした布のベルトはリボン風に巻いてもらった。
「素敵ですわ」
「可愛くて魅力的です」
(これは……とてもエッチな仕上がり……)
侍女たちに褒められて、恥ずかしいが嬉しいレイチェルであった。
「ふふふ。これなら国王陛下も大満足ですわ」
「きっと素敵な夜になりますよ」
侍女たちに励まされ、レイチェルは今、決戦の場へと向かう――――
「なるべく簡素に、それでいて見栄えよく。使える物は使いまわして、スピーディに事を進めてくれ」
クロイツは部下たちにそう命じた。
彼にとって道具立ての細かなことは、どうでもよかったからだ。
「もちろん、外から見て貧相に見えないことは重要だ。他国や国内の有力者たちに見くびられるのは危険だからね。だからってお金をかけて贅を尽くせばよいというものでもない。煌びやかなだけなのは、アホっぽいだろ? ぼくは若い。侮られないのが絶対条件だ」
彼の周囲にいる優秀な人材たちも、それは心得ていた。
宝物庫をあさって使える物を見繕い、最大限の威圧を与えられるよう細かなところまで気配りされた。
しかしクロイツには、ひとつだけ希望があった。
「レイチェル。ちょっとこれを見て」
「なんですか? クロイツさま」
クロイツの手には一枚のデザイン画があった。
「母上は、本当にお洒落が大好きで……ドレスのデザインをするのも好きだった」
「そうなのですね」
クロイツは手元のデザイン画を懐かしそうに見た。
「それで結婚式でぼくが着る衣装と、妻となる女性の着る衣装まで、デザインしていてね。できれば、母のデザインを使いたいのだが、どうかな?」
「えっ⁉ 本当ですかっ! そうしていただけたら、わたしも嬉しいですっ!」
(亡きクロエさまデザインのドレスっ! しかも、わたしのために仕立てられるドレス!)
レイチェルの気分は上がった。
クロイツはホッと息を吐いて安心したように言う。
「ごめんね、マザコンって言われそうで心配しちゃった」
「ふふ、そんなことはありませんよ。クロエさまはセンスのよい方ですもの。わたしにデザインはわかりませんから、似合いそうなものを選んでください」
「うん、君に似合いそうなものを選んできたよ。コレなんてどうかな?」
クロイツはデザイン画の中の一着を指さした。
「素敵ですっ!」
そのデザイン画は、十年以上昔に描かれたモノとは思えないほど、古臭さが無くて美しいデザインだった。
しかも若い女性に似合いそうな若々しいデザインだ。
「えっと……結婚式の衣装は、これをもとに作って、いいかな?」
「ええ。いいですね、ええ」
照れくさそうに言うクロイツの隣で、レイチェルはポロポロと涙をこぼした。
突然の涙にクロイツは焦った。
「えっとレイチェル? 嫌だった? 嫌なら別のを……」
「ちが……違います……」
レイチェルは首を横に振って否定した。
「う……うれしく……て……とても、うれしくて……」
時間的な余裕はなくとも、2人の間には愛があり、その周りにも愛はある。
今は故人となった人たちにも見守られて、幸せを作るのだ。
(国王も、王妃も、いざとなれば戦う夜伽聖女も、大変な役目ではあるけれど……)
「レイチェル」
困ったように名前を呼ぶ愛しい人は、完璧ではないけれど素敵な男性。
クロイツにふさわしいのは自分だと胸を張って言えるほどの自信は、レイチェルにはない。
それでも隣にいることができる幸せに、レイチェルの胸は一杯になった。
「ああ、泣かないで。困ったな……」
クロイツは戸惑いながら、レイチェルを自分の腕の中に収めた。
(大丈夫。わたしたちなら、大丈夫)
レイチェルは強くそう思いながら、自分を抱きしめるクロイツに体を預けた。
◇◇◇
バタバタと時は過ぎて。
王位継承と2人の結婚の準備は、さしたる問題もなく進んでいき――――儀式に先立ち、レイチェルの避妊紋は外されたのだった。
◇◇◇
2人のお披露目の場である結婚式も、戴冠式もつつがなく終了した。
「国外からのお客さまにも、上手にアピールできたかしら? わたしは聖女としてなら自信があるけれど、1人の淑女としての振る舞いには不安だらけよ」
「ああ。君は立派だったよ。何よりも綺麗だったし」
クスクス笑うクロイツから額にキスを落とされて、レイチェルは人生で一番の幸せを感じていた。
後は結婚後、初の夜伽となる初夜を迎えるのみである。
◇◇◇
「あぁっ、緊張するっ」
レイチェルは青い部屋の続きにある夜伽聖女の部屋で支度をしてながら、耐え切れずに呟いた。
クロイツは国王になっても、幼少時から使っていた青い部屋をそのまま使うと決めた。
だから、その隣にある夜伽聖女の部屋は、そのままお妃さまの支度部屋として利用されることになったのだ。
「ふふふ。王妃さまになられたのに、レイチェルさまはレイチェルさまですね」
「本当にそのままで……とても可愛らしいです」
侍女たちやメイドたちは、くすくす笑いながらレイチェルが髪を下ろしたり、ドレスを脱ぐのを手伝っていた。
今日は結婚式や戴冠式のために、何度も着替えて何度も化粧直しをした。
「お疲れではないですか?」
「マッサージもいたしましょうか?」
使用人たちはレイチェルの体を気遣っていたが、本人はそれどころではない。
「大丈夫よ。いざとなったら自分で回復をかけるから。あぁ、落ち着かない」
(初めてだけど初めてではないところが、また緊張するっ! 逃げたいっ! 逃げたいけど、クロイツさまに会いたいっ! なんなのこの気持ち⁉)
白いウエディングドレスを脱がせてもらいながら百面相をするレイチェルを見て、お付きの侍女たちはうふふと笑った。
「わたくしたちにお任せください」
「そうですわ、レイチェルさま。いえ、王妃さま」
「ピカピカに磨き上げて、国王さまを惚れ直させてしまいましょう」
(惚れ直す……え~、わたしのほうこそ、惚れ直しまくっているわ。今日だけでも何度クロイツさまに惚れ直したことかっ。あぁ、あの方がわたしの伴侶なのよぉ~。もう、鼻血吹きそうっ。でも……わたしも惚れ直してもらいたいっ)
「ん、お任せするわっ」
レイチェルは力強く依頼した。
もっとも今日のレイチェルは、普段にも増してツヤツヤだ。
結婚式までの間、たっぷりと手を入れてもらった髪や肌は、レイチェルの人生史上最良のコンデションと言っていい。
「今日は素敵でしたわ、レイチェルさま」
「ええ、そうですわ。ウエディングドレスも、戴冠式の赤いローブも、とてもお似合いでしたわ」
「ふふふ。ありがとう」
(クロイツさまのお母さまのデザインだもの。本当に素敵だったわ)
レイチェルは、足元に落ちて広がるウエディングドレスを見ながら思った。
「国王陛下とおなりになったクロイツさまも、凛々しくて神々しかったです」
「もちろん、王妃殿下になられたレイチェルさまも、輝いておりましたわ」
使用人たちは口々にレイチェルを褒めそやした。
「ふふふ。ありがとう」
(頑張った甲斐があったわ。あの冠は綺麗だけと重たいのよね。クロイツさまは、重くないといっていたけど。もう今日のクロイツさまは、服はもちろん王冠も似合っていたし、キラキラしっぱなしで素敵だったぁ~)
レイチェルが思い返してうっとりしていると、侍女たちがからかうように言う。
「ふふ。昨日は違うベッドて寝られたのでしょう? レイチェルさま」
「それはお寂しかったでしょう、王妃さま」
侍女にからかわれて、レイチェルの白い肌はポッと朱に染まる。
「それは、避妊紋を取ったから一晩は間をあけるようにと、大神官さまが……」
「まぁ!」
「一晩間を空けるために、寝室を別に⁉」
侍女たちに思いのほか大声を出されて、レイチェルは戸惑った。
「え……どういう意味?」
「いえ、レイチェルさま。一晩と空けずに求められるとか……」
「ええ。やはり国王殿下となられる方は、違いますわね……」
頬を赤く染める侍女たちのモゾモゾとした答えを聞いて、レイチェルは更に赤くなった。
(あ、クロイツさまに付けられた跡は浄化のついでに消してしまうから……え、あれ? アレって毎晩するものでは? あれ、違った? クロイツさまが『みんなこんなものだよ』と言っていたのを真に受けてたわ。本当に、本当に……笑顔のクロイツさまは信用ならない……)
侍女たちの反応に、自分の常識が間違っていることに感づいたレイチェルであった。
「ああ、でも、そうなのであれば。すぐに御子さまも授かりそうですね」
「御子さま! お2人の御子さまであれば、さぞや可愛いことでしょう。楽しみですわぁ~」
侍女たちはキャッキャウフフとはしゃぎ始めた。
「それに避妊紋を取ると感度が上がるという噂ですし」
「わたくし、感度以外にも色々と変わると聞きましたわ」
(ん? 感度? 色々と変わる?)
「避妊紋を取ると、何がそんなに変わるの?」
レイチェルは気になって聞いてみた。
「それは当たり前に色々と変わりますわ、レイチェルさま。だって避妊されていたわけですし」
「ええ、そうですわよね。避妊紋は妊娠しない代わりに感度が鈍くなったり、精液の量が減ったりすると聞いたことがありますわ」
「えっ⁉ わたしについている避妊紋が、クロイツさまにも影響を⁉」
「ふふふ。もうレイチェルさまってば、お可愛らしい」
「そりゃ避妊紋ですもの。殿方にも影響がないと妊娠してしまいますわ。特に夜伽聖女さまの避妊紋は性病対策もバッチリで、精子の色まで変わると聞いたことがあります」
「えっ⁉」
「ふふふ。これは今夜が楽しみですわね、レイチェルさま」
「本当ですわね。楽しみですね、レイチェルさま」
「もう、揶揄わないで」
レイチェルは全身を赤らめた。
「ふふふ。やはり特別な夜ですわね。それでしたら、レイチェルさま。今夜は、私どもも張り切らせていただきますわ」
「ええ、そうですわ。何かご希望がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
侍女たちはメイドたちに目配せをして、急いでレイチェルのメイクを落とし、髪をほぐして下着まで脱がせた。
湯あみをして、体や髪をお手入れして、整えて。
やることは沢山ある。
全てを終えて素っ裸になったレイチェルは、差し出された下着を見て戸惑った。
「下はコレだけ?」
(この後に行うことはアレだけといえばアレだけだけど……これはあまりにあからさまでは⁉)
赤面して困惑するレイチェルに対して、年上の侍女たちは意味深に笑う。
「ええ、これだけです」
「だって初夜ですもの、ふふふ」
(こんな薄い絹で出来た下着。ピンク色のアンダーヘアが透けてしまうのでは?)
「大丈夫ですよ、レイチェルさま」
「ええ、そうですよ。すぐに脱ぐものですから、大丈夫です」
侍女たちはレイチェルの両側に立ち、屈んで両サイドのリボンをそれぞれちょうちょ結びにしてはかせた。
(やっぱり透けてる……いいの? 本当にこれで?)
「レイチェルさま。ナイトドレスは、こちらの淡いピンク色の薄絹のものでよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いするわ」
「ピンク色のリボンを可愛く結びますね」
「ええ、お願い」
透ける薄絹の上に、透ける薄絹を重ねても、やはり透けるものである。
着ているほうがエッチなナイトドレスを身に着けたあと、これまたツルツルスベスベの薄くて白っぽいガウンを羽織った。
濃いピンクをした布のベルトはリボン風に巻いてもらった。
「素敵ですわ」
「可愛くて魅力的です」
(これは……とてもエッチな仕上がり……)
侍女たちに褒められて、恥ずかしいが嬉しいレイチェルであった。
「ふふふ。これなら国王陛下も大満足ですわ」
「きっと素敵な夜になりますよ」
侍女たちに励まされ、レイチェルは今、決戦の場へと向かう――――
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