51 / 56
第51話 土曜日の説教
しおりを挟む
わたしは執筆をお休みして、無事に1週間の仕事を終えた。
月曜日から金曜日まで、ノー残業デーの呑気なお仕事です。
シゴデキお姉さまが、少し難易度の高い仕事は引き取ってくれたので、わたしは雑用係寄りの事務員として頑張った。
頑張ったのは本当です。
信じてください。
そんなこんなで1週間のお勤めを終えたわたしは、当たり前のような顔をして久美子の家へと来ていた。
「もうっ。聞いたわよ、明日香。倒れたんですって⁉」
美香が目を吊り上げて言う横で、久美子も心配そうな表情を浮かべている。
「大丈夫なの? 体が資本なのにっ」
玄関あけたら二歩でわたしは、久美子と美香に挟まれてしまった。
わたしは2人に比べると身長が少し低い。
両手に花、両側におっぱいである。
ぎゅうぎゅうに挟まれて、撫でまわされた。
わたしは猫か⁉
とは思いつつも、悪い気はしないのが人間の弱いところだ。
いい匂いがして、柔らかくて、温かいものは良いものだ。
「あれだけ無理しちゃダメって言ったのに」
美香に軽くペンッとデコピンされてしまった。
「本当にそうよ。倒れたらお小遣い稼ぎどころじゃないでしょ?」
久美子には頬っぺたをムニッと両手でつかまれてしまった。
「心配かけてごめんなしゃい」
頬っぺたをムニムニされながら言ったので変な発音になってしまったが、わたしは2人に謝った。
せっかく協力してもらったのに、心配をかけたのはよくない。
「無理したつもりはなかったんだけど……」
わたしの言い訳じみた言葉を聞いた美香が、綺麗に整えた眉毛を跳ね上げる。
「無理したつもりがなくてもダメ。それは無理していたってことよ。いつもとは違う生活パターンだったんだから」
「はい……」
美香の言う通りだ。
無理をしているつもりがなくても、生活パターンが普段とは違ってしまう。
わたしは、もっと用心するべきだったのだ。
「執筆って意外と体を使うから、疲れちゃうのよ。頭も使うし、目も疲れるし。文字を書けば肩も凝るし、集中していると椅子から立ち上がることもなく1時間、2時間と時間が経っていたりするから。普段よりも多く休むようにしないとね」
「あい……」
久美子の言うとおりである。
もう少し余分に休んでいれば、倒れることもなかったかもしれない。
「動画見たり、漫画読んだりしている時間は、休んだうちに入らないからね? 体力付けるといっても、すぐにマッチョになれるわけじゃない。ちゃんと休息をとらないと」
「そうよ、明日香。私たちはあなたが寿命を縮めていい、なんて思ってないから。楽しく生きるために協力しているのだから、そこは忘れないで」
美香と久美子に畳みかけるように言われて、わたしはコクリとうなずいた。
2人の協力がなければ、書籍化作業なんて物珍しいものに携わることもなかっただろう。
わたしが倒れたことは、恩を仇で返すようなものだ。
心の底からわたしは反省した。
「心配かけてごめんなさい」
わたしは2人に頭を下げた。
下げた頭を2人がかりでグチャグチャに髪の毛を混ぜるように撫でられて、ようやくわたしは解放された。
そしていつものようにお茶をする。
わたしはお詫びの品として、いつもよりも豪華にフルーツの盛られたケーキをテーブルの上に出す。
久美子が美味しい紅茶を入れてくれた。
美香は高級なチョコレートを持参していた。
「チョコレートはお薬だから。ほら、明日香。お家でも食べてね」
私は美香から、テーブルに置かれた物より少し小さな箱を渡された。
わたしは2人から小説家の体調管理の方法などを伝授されながら、いつものように楽しい土曜日を過ごしたのだった。
月曜日から金曜日まで、ノー残業デーの呑気なお仕事です。
シゴデキお姉さまが、少し難易度の高い仕事は引き取ってくれたので、わたしは雑用係寄りの事務員として頑張った。
頑張ったのは本当です。
信じてください。
そんなこんなで1週間のお勤めを終えたわたしは、当たり前のような顔をして久美子の家へと来ていた。
「もうっ。聞いたわよ、明日香。倒れたんですって⁉」
美香が目を吊り上げて言う横で、久美子も心配そうな表情を浮かべている。
「大丈夫なの? 体が資本なのにっ」
玄関あけたら二歩でわたしは、久美子と美香に挟まれてしまった。
わたしは2人に比べると身長が少し低い。
両手に花、両側におっぱいである。
ぎゅうぎゅうに挟まれて、撫でまわされた。
わたしは猫か⁉
とは思いつつも、悪い気はしないのが人間の弱いところだ。
いい匂いがして、柔らかくて、温かいものは良いものだ。
「あれだけ無理しちゃダメって言ったのに」
美香に軽くペンッとデコピンされてしまった。
「本当にそうよ。倒れたらお小遣い稼ぎどころじゃないでしょ?」
久美子には頬っぺたをムニッと両手でつかまれてしまった。
「心配かけてごめんなしゃい」
頬っぺたをムニムニされながら言ったので変な発音になってしまったが、わたしは2人に謝った。
せっかく協力してもらったのに、心配をかけたのはよくない。
「無理したつもりはなかったんだけど……」
わたしの言い訳じみた言葉を聞いた美香が、綺麗に整えた眉毛を跳ね上げる。
「無理したつもりがなくてもダメ。それは無理していたってことよ。いつもとは違う生活パターンだったんだから」
「はい……」
美香の言う通りだ。
無理をしているつもりがなくても、生活パターンが普段とは違ってしまう。
わたしは、もっと用心するべきだったのだ。
「執筆って意外と体を使うから、疲れちゃうのよ。頭も使うし、目も疲れるし。文字を書けば肩も凝るし、集中していると椅子から立ち上がることもなく1時間、2時間と時間が経っていたりするから。普段よりも多く休むようにしないとね」
「あい……」
久美子の言うとおりである。
もう少し余分に休んでいれば、倒れることもなかったかもしれない。
「動画見たり、漫画読んだりしている時間は、休んだうちに入らないからね? 体力付けるといっても、すぐにマッチョになれるわけじゃない。ちゃんと休息をとらないと」
「そうよ、明日香。私たちはあなたが寿命を縮めていい、なんて思ってないから。楽しく生きるために協力しているのだから、そこは忘れないで」
美香と久美子に畳みかけるように言われて、わたしはコクリとうなずいた。
2人の協力がなければ、書籍化作業なんて物珍しいものに携わることもなかっただろう。
わたしが倒れたことは、恩を仇で返すようなものだ。
心の底からわたしは反省した。
「心配かけてごめんなさい」
わたしは2人に頭を下げた。
下げた頭を2人がかりでグチャグチャに髪の毛を混ぜるように撫でられて、ようやくわたしは解放された。
そしていつものようにお茶をする。
わたしはお詫びの品として、いつもよりも豪華にフルーツの盛られたケーキをテーブルの上に出す。
久美子が美味しい紅茶を入れてくれた。
美香は高級なチョコレートを持参していた。
「チョコレートはお薬だから。ほら、明日香。お家でも食べてね」
私は美香から、テーブルに置かれた物より少し小さな箱を渡された。
わたしは2人から小説家の体調管理の方法などを伝授されながら、いつものように楽しい土曜日を過ごしたのだった。
8
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】25年の人生に悔いがあるとしたら
緋水晶
恋愛
最長でも25歳までしか生きられないと言われた女性が20歳になって気づいたやり残したこと、それは…。
今回も猫戸針子様に表紙の文字入れのご協力をいただきました!
是非猫戸様の作品も応援よろしくお願いいたします(*ˊᗜˋ)
※イラスト部分はゲームアプリにて作成しております
もう一つの参加作品「私、一目惚れされるの死ぬほど嫌いなんです」もよろしくお願いします(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
【完結】初めてアルファポリスのHOTランキング1位になって起きた事
天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのHOTランキング一位になった記念のエッセイです。
なかなか経験できないことだろうし、初めてのことなので新鮮な気持ちを書き残しておこうと思って投稿します。
「イケオジ辺境伯に嫁げた私の素敵な婚約破棄」がHOTランキング一位になった2022/12/16の前日からの気持ちをつらつらと書き残してみます。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる