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第4話 鬼頭家
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鬼頭家は山の上にある。
バス停からも距離があり、桜は木刀片手にトコトコとアスファルトの上を歩いて自宅へと向かう。
母屋が見えてきた、と思っても油断はできない。
そこから更に斜面を上がっていかないと辿り着かないからだ。
砂利道が見えたらそこからが本番。
桜は友人たちに家の場所を聞かれたときには、そう答えるようにしている。
だが緑豊かな田舎道を歩くのは、アスファルトとコンクリートで固められた街を歩くよりはマシだ。
(街に比べたら、こっちは暑さがマシな分、楽だな。こっちは自然の暑さだけど、街は殺しに来ているような人工的な暑さを感じるもん)
セミの大合唱を聞きながら桜は玄関を開けた。
「ただいまー」
「お帰り、桜」
ちょうど母が玄関から繋がる廊下に収穫した野菜を抱えて台所へと向かうところだった。
ナスやキュウリ、オクラにさやいんげん、シソやズッキーニなどが母の抱えるカゴの中で輝いている。
桜はスニーカーを脱ぎながら聞く。
「おー、美味しそう。今日のお昼ご飯は何?」
「お素麺にでもしようと思って。天ぷらによさそうなものが沢山あるし」
母の薫は行き過ぎた家庭菜園をする人だ。
広い敷地を活用して、ナスなどの野菜はもちろん何でも作る。
収穫した物は売り物にもしていて、去年の収入は会社勤めをしている父を超えたらしい。
「お、桜。帰ってきたな」
「あ、じーちゃん。いいの買えたよ」
桜はニッと笑って右手に持った木刀を差し出した。
祖父はしわくちゃの顔を笑みに染める。
「おお。そうか、そうか」
「見て見てー」
桜はゴソゴソと包み紙を剥がして今日の戦利品を祖父に見せた。
祖父は木刀を受け取りながら感嘆の声を上げる。
「ほぉ、これはよき木刀だ」
「いいでしょぉ~」
桜は得意げに胸を張った。
「では命名の儀だな」
「じーちゃん、いつもそれだね」
桜の祖父である鬼頭悠は、なぜか毎回のように木刀へ名前を付けるのだ。
ちなみに祖父の持つ木刀の名前は、第十二代真之介だ。
「ん。少ない年金からお前に資金を授けたじーちゃんには、コレの命名権があると思うぞ?」
「はっ。命名よろしくおねがいしますっ」
桜は調子よく祖父に向かって頭を下げた。
資金源は常に絶対なのだ。
「んん~、これは……」
「これは?」
「この木刀の名は、護身丸和人だ!」
「また護身丸?」
桜は腹を抱えて笑った。
「ん、和人がついているからいいじゃろ。でも、ま。護身丸だな」
祖父は両手で木刀を持つと、軽く目を閉じて名を呟く。
すると軽く木刀が光ったように桜には見えた。
(毎回のこの儀式。ちょい不思議)
「さぁこれでいい。あとで振りにいくか?」
「うんっ!」
桜の師匠は祖父だ。
剣道のようにキチンとしたものではなくてチャンバラ遊びのようなものだが、広い敷地を飛び回って木刀を振り回すのはかなり楽しいので桜は気に入っている。
「まずは先に腹ごしらえだ。さっきから旨そうな匂いがしている」
「そうだね。天ぷら、楽しみ」
祖父と桜はキャッキャしながらダイニングへと向かった。
鬼頭家の屋敷は古くて新しい。
山の上に広い敷地を持つ鬼頭家の母屋は、古いわりに大きい平屋だ。
外側は古いままだが、内装はリフォームを施していて現代的になっている。
だから鬼頭家のダイニングは古民家カフェのようにお洒落だ。
フローリングの床は桜材で出来ている。
といっても金をかけたわけではない。
山に生えていた桜の木を伐採して知り合いのところで加工してもらったから、さほど現金は動いていない。
その代わりに、別のものが動いている。
田舎の通貨は現金とは限らないのだ。
桜を伐採して果樹園を広げた母は、そこで採れた果物をご近所さんに貢いでいる。
「天ぷら美味しそう~」
「ん、美味しいよ。食べて食べて。沢山作ったからね」
母が満面の笑みを浮かべて、天ぷらの山を差し出す。
大き目のテーブルの上には、そうめんも人数分並んでいた。
桜の弟である楽が、口をとがらせて文句を言う。
「ねーちゃん遅いよ。そうめんが伸びちゃうよ」
「ごめん、ごめん。先に食べててよかったのに」
「だってねーちゃんとじーちゃんの声は聞こえてんだから、待つに決まってんじゃん」
モニュモニュ言い訳のようにいいながら、楽は箸を手に持った。
(愛いねぇ、愛いねぇ、私たちを待ってるなんて、可愛いねぇ~)
小学六年生になって背も随分伸びたが、弟は甘えん坊のカワイ子ちゃんの片りんを残したままだ。
(そのまま大きくなっておくれ)
桜は若干ブラコンだった。
楽の隣の左側に腰を下ろした桜は、斜め右前に座っている父に気付いた。
「あ、お父さん。今日は会社休んだの?」
「桜、今日は土曜日だから最初から休みだよ?」
「あ、そうか」
(夏休みって曜日感覚が狂うよねぇ~)
「 蒼君にはいっぱい稼いでもらわないといけないから、今日も仕事へ行ってくれても構わないんじゃが」
「ハハハ。嫌だなぁ、お義父さん」
桜の父、 蒼は婿養子である。
少し茶色味がかった髪を1つにくくり後ろへ流している 蒼は、色白で細身なうえ顔立ちも優美で女性的だ。
「もう嫌ね、お父さん。まだ婿イビリをする気なの?」
対して桜の母、薫は真っ黒な髪をショートカットにしていて、真っ黒な瞳をしている。
薫とその父である悠はよく似た顔立ちをしていた。
薫の子どもである桜と楽はよく似ているため、 蒼だけ浮いて見える。
「んそうだな。稼ぎも薫が勝ったしな。イビる価値もないか」
「ハハハ。お義父さん。冗談キツイなー」
そう言いながらもヘラヘラしている 蒼に、傷付いている様子はない。
鬼頭家の五人は、だだっ広い敷地のなかで平和に暮らしていた。
バス停からも距離があり、桜は木刀片手にトコトコとアスファルトの上を歩いて自宅へと向かう。
母屋が見えてきた、と思っても油断はできない。
そこから更に斜面を上がっていかないと辿り着かないからだ。
砂利道が見えたらそこからが本番。
桜は友人たちに家の場所を聞かれたときには、そう答えるようにしている。
だが緑豊かな田舎道を歩くのは、アスファルトとコンクリートで固められた街を歩くよりはマシだ。
(街に比べたら、こっちは暑さがマシな分、楽だな。こっちは自然の暑さだけど、街は殺しに来ているような人工的な暑さを感じるもん)
セミの大合唱を聞きながら桜は玄関を開けた。
「ただいまー」
「お帰り、桜」
ちょうど母が玄関から繋がる廊下に収穫した野菜を抱えて台所へと向かうところだった。
ナスやキュウリ、オクラにさやいんげん、シソやズッキーニなどが母の抱えるカゴの中で輝いている。
桜はスニーカーを脱ぎながら聞く。
「おー、美味しそう。今日のお昼ご飯は何?」
「お素麺にでもしようと思って。天ぷらによさそうなものが沢山あるし」
母の薫は行き過ぎた家庭菜園をする人だ。
広い敷地を活用して、ナスなどの野菜はもちろん何でも作る。
収穫した物は売り物にもしていて、去年の収入は会社勤めをしている父を超えたらしい。
「お、桜。帰ってきたな」
「あ、じーちゃん。いいの買えたよ」
桜はニッと笑って右手に持った木刀を差し出した。
祖父はしわくちゃの顔を笑みに染める。
「おお。そうか、そうか」
「見て見てー」
桜はゴソゴソと包み紙を剥がして今日の戦利品を祖父に見せた。
祖父は木刀を受け取りながら感嘆の声を上げる。
「ほぉ、これはよき木刀だ」
「いいでしょぉ~」
桜は得意げに胸を張った。
「では命名の儀だな」
「じーちゃん、いつもそれだね」
桜の祖父である鬼頭悠は、なぜか毎回のように木刀へ名前を付けるのだ。
ちなみに祖父の持つ木刀の名前は、第十二代真之介だ。
「ん。少ない年金からお前に資金を授けたじーちゃんには、コレの命名権があると思うぞ?」
「はっ。命名よろしくおねがいしますっ」
桜は調子よく祖父に向かって頭を下げた。
資金源は常に絶対なのだ。
「んん~、これは……」
「これは?」
「この木刀の名は、護身丸和人だ!」
「また護身丸?」
桜は腹を抱えて笑った。
「ん、和人がついているからいいじゃろ。でも、ま。護身丸だな」
祖父は両手で木刀を持つと、軽く目を閉じて名を呟く。
すると軽く木刀が光ったように桜には見えた。
(毎回のこの儀式。ちょい不思議)
「さぁこれでいい。あとで振りにいくか?」
「うんっ!」
桜の師匠は祖父だ。
剣道のようにキチンとしたものではなくてチャンバラ遊びのようなものだが、広い敷地を飛び回って木刀を振り回すのはかなり楽しいので桜は気に入っている。
「まずは先に腹ごしらえだ。さっきから旨そうな匂いがしている」
「そうだね。天ぷら、楽しみ」
祖父と桜はキャッキャしながらダイニングへと向かった。
鬼頭家の屋敷は古くて新しい。
山の上に広い敷地を持つ鬼頭家の母屋は、古いわりに大きい平屋だ。
外側は古いままだが、内装はリフォームを施していて現代的になっている。
だから鬼頭家のダイニングは古民家カフェのようにお洒落だ。
フローリングの床は桜材で出来ている。
といっても金をかけたわけではない。
山に生えていた桜の木を伐採して知り合いのところで加工してもらったから、さほど現金は動いていない。
その代わりに、別のものが動いている。
田舎の通貨は現金とは限らないのだ。
桜を伐採して果樹園を広げた母は、そこで採れた果物をご近所さんに貢いでいる。
「天ぷら美味しそう~」
「ん、美味しいよ。食べて食べて。沢山作ったからね」
母が満面の笑みを浮かべて、天ぷらの山を差し出す。
大き目のテーブルの上には、そうめんも人数分並んでいた。
桜の弟である楽が、口をとがらせて文句を言う。
「ねーちゃん遅いよ。そうめんが伸びちゃうよ」
「ごめん、ごめん。先に食べててよかったのに」
「だってねーちゃんとじーちゃんの声は聞こえてんだから、待つに決まってんじゃん」
モニュモニュ言い訳のようにいいながら、楽は箸を手に持った。
(愛いねぇ、愛いねぇ、私たちを待ってるなんて、可愛いねぇ~)
小学六年生になって背も随分伸びたが、弟は甘えん坊のカワイ子ちゃんの片りんを残したままだ。
(そのまま大きくなっておくれ)
桜は若干ブラコンだった。
楽の隣の左側に腰を下ろした桜は、斜め右前に座っている父に気付いた。
「あ、お父さん。今日は会社休んだの?」
「桜、今日は土曜日だから最初から休みだよ?」
「あ、そうか」
(夏休みって曜日感覚が狂うよねぇ~)
「 蒼君にはいっぱい稼いでもらわないといけないから、今日も仕事へ行ってくれても構わないんじゃが」
「ハハハ。嫌だなぁ、お義父さん」
桜の父、 蒼は婿養子である。
少し茶色味がかった髪を1つにくくり後ろへ流している 蒼は、色白で細身なうえ顔立ちも優美で女性的だ。
「もう嫌ね、お父さん。まだ婿イビリをする気なの?」
対して桜の母、薫は真っ黒な髪をショートカットにしていて、真っ黒な瞳をしている。
薫とその父である悠はよく似た顔立ちをしていた。
薫の子どもである桜と楽はよく似ているため、 蒼だけ浮いて見える。
「んそうだな。稼ぎも薫が勝ったしな。イビる価値もないか」
「ハハハ。お義父さん。冗談キツイなー」
そう言いながらもヘラヘラしている 蒼に、傷付いている様子はない。
鬼頭家の五人は、だだっ広い敷地のなかで平和に暮らしていた。
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