男前女子、美少女だと思って助けた鬼と契約結婚する羽目になる

天田れおぽん

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第10話 契約結婚の申し込み 3

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「契約結婚ですから、契約内容はしっかりと取り決めしますのでご安心ください」

 かいは穏やかな声で言ったが、桜の父と祖父の心の内は穏やかとはいかない。
 それは表情にあらわれ、眼光鋭く魁に向けられている。
 だが魁がその視線にたじろぐ様子はない。

(笑顔で美人がギャーギャー言ってる大人の男たちをいなしている。カッコいい)

 桜内魁株さくらないかいかぶは上昇の一途を辿った。
 雰囲気で察している男性陣は、ギャーギャー大人げなく騒ぐ。

「契約とはいえ結婚ですよ⁉」
「そうだ! 桜はまだ18歳。ピチピチの女子高生じゃ。そう簡単に結婚などさせんっ!」

 父と祖父は同じような表情を浮かべ、魁に殴りかからんばかりの勢いで反対している。
 言葉以前に表情がうるさい。

「桜っ! お前は何か言うことはないのかっ!」
「は、ははは。契約結婚……なんだか漫画か小説みたいっすねー」

 祖父に迫られ、桜は頬をポリポリと掻きながら困ったように笑った。

「いいじゃない。別に桜は、好きな人も今はいないんでしょ? 人類の平和のために、契約婚しちゃいなよ」

 妙にノリノリな母だけが、鬼頭家側では浮いている。
 魁は味方の言葉に乗っかるように、準備してきたモノを提示し始めた。

「もちろん鬼頭家に損のない契約内容にさせていただきます。真鬼まき、例のものを」
「はい、魁さま」

 真鬼まきは脇に置いた黒いブリーフケースから書類ケースを取り出した。

「こちらをご覧になってください」

 書類ケースからピンッとした書類を取り出した真鬼まきは、それを祖父の前にスススッと差し出した。
 祖父はチラッと横目でそれを確認したが内容を読もうとはしない。
 それを横から桜の母が「ちょっと失礼」と言いながら書類を開いて確認し始めた。

「あら」とか「まぁ」とか声を上げながら中身を読んでいる薫の横から桜も書類を覗き込んで「おおっ」と声を上げた。

「契約結婚でこんなに貰っちゃっていいんですか⁉」
「はい。桜さんには、それだけの価値があります」

 にっこりする魁の顔に見惚れながら、桜は首を傾げて考える。

(わたしの価値って?)

 そして改めて思う。

(誰もわたしの役割というか、鬼頭家の役割というか、魁さんがわたしに契約結婚を持ちかけてきた理由を言わないな?)

 桜は何となく理由を聞きそびれたまま、祖父と父の顔色を窺っていた。
 涼しい表情の魁や真鬼まきと比べると、明らかに祖父と父の表情は不穏だ。

「儂は反対だ」
「僕もです」

 厳しい表情で反対している。

(別にいいじゃん。本当に結婚するわけじゃないんだし)

 桜も契約書を覗いてみたが、鬼の里と人間の社会では結婚のシステムが違うため、婚姻届けを出すようなことはしなくていいようだ。

(戸籍に傷もつかないし、肉体関係も結ぶ必要がない。形式的な結婚式を挙げる必要はあるみたいだけど、それならお芝居するのと変わらないもん)

 契約結婚だから、同居も別にしなくていいようだ。

(なんかこう、巫女さん的な? 儀式的な何かがあるのかな?)

 桜としては、鬼頭家と鬼の関係性のほうが気になった。

(誰かわたしに説明してくれないか?)

 気持ちを察して欲しい桜の横では、魁たちが祖父たちの説得活動にいそしんでいた。
 真鬼まきは運転手から細長いものを受け取ると、それを祖父へと差し出した。

「お爺さまにはコチラを……」
「こっ、これは⁉」

 祖父の目の色が変わった。
 魁がにっこりと笑って言う。

「鬼の隠れ里の木で作った木刀です」
「これは……あ、いや……」

(じーちゃん、しっかり物につられてんじゃん)

 桜が冷たい視線を投げる後ろから、父が叫ぶ。

「お義父さんっ、物につられないでくださいっ!」
「いや、でもコレは……」

 祖父は真鬼まきから木刀をしっかり受け取って眺めている。

「お義父さんっ!」

 祖父と違って父は物につられないようだ。

(うわぁ~、じーちゃんとお父さんが揉めている……あぁ、それよりもねぇ、誰か、鬼頭家と鬼の関係の説明を……誰かぁ~)

 桜はそう思いつつも、魁の顔を見てはポーとしてしまって言い出せない。
 
「で、どうなの? 桜。あなたはどうしたい?」

 母に問われて改めて桜は考える。

(契約結婚とはいえ、この和服美人と結婚できちゃうわけでしょ? これだけ綺麗な顔をした男性なんて滅多にいない……というか、人類にはゼロだな。それに色々と物とか、現金とか貰えるらしいし。本当の結婚は高校生のわたしには早いけど、これだけ綺麗な顔をした男性と契約とはいえ結婚する機会なんて、これから先の人生、ある気はしない。だからわたしに損はないような気がする……)

 桜は面食いだったようだ。
 和服の似合う美人が男性という脳のバグる状況で、既に半落ちしている。

(相手は鬼だけど。別に怖くないし。事情はよく分からないけど、契約結婚だし、細かい事情は知らなくていいなら、知らないままでもいいし。ちょっと面白い経験が出来ちゃう上に、現金とか貰えるならお得では?)

 現実感のない状況だが、バグっている桜の脳は、既に状況を受け入れていた。

「わたしは――――」

 その時だ。
 鬼が鬼頭家の応接間に雪崩れ込んできた。
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