男前女子、美少女だと思って助けた鬼と契約結婚する羽目になる

天田れおぽん

文字の大きさ
11 / 20

第11話  鬼 

しおりを挟む
「いったい何事⁉」

 大きな音が庭の方から響いてきて、驚いた桜は庭に向かって体をねじりながら腰を浮かせた。

(地面まで揺れている。地震? それにしてはおかしい)

 動揺する桜に対し、他の人たちは事情を分かっているようだ。
 大人たちはそれぞれに身構えて反応している。
 母だけが口を大きく開けて驚きの表情を浮かべ固まっていた。

 魁はスッと背筋を伸ばした。

「来たか」
「そのようです」

 魁の言葉に反応しながら真鬼まきも庭の側を見ながら右膝を軽く上げて腰を浮かせいている。
 大柄の運転手兼護衛も、両膝を上げてつま先立ちでいつでも立ち上がれる体勢を整えた。
 桜の祖父や父も庭の側に体をひねって備えた。
 そして次の瞬間。
 変化は一気にやってきて、桜の母だけを残して皆は一斉に立ち上がった。

「わっ⁉」

 ドーンという衝撃と共に縁側と庭とを仕切る掃き出し窓がガシャーンと割れた。
 家を揺るがす衝撃と怒号と共に庭側にある襖を押し倒しながら、着流し姿で日本刀を手にする鬼の群れが応接間へと雪崩れ込んできた。

「鬼っ⁉」

 桜は勢いよく立ち上がったが、その場で固まったように動けなかった。
 鬼と言っても魁が額に角を出したような、なよやかな姿ではない。
 ただならぬ禍々しい雰囲気をかもしだす形相。
 角は一本だったり二本だったりするが皆、大柄だ。
 体の色も青かったり赤かったり様々で、この世のものとは思えない異様な姿をしていた。

 時代遅れの着流し姿だが、突っ込むべきはそこではない。
 大きな体からニョキッと生えた太い腕には、物騒にギラギラと光る刃が握られていた。

(腕の筋肉すごっ。日本刀も、あれは真剣だよね? 模造刀じゃない。え⁉ この鬼たちは、わたしたちを殺しに来たの⁉)

「逃げなさい、桜っ」

 祖父の声が聞こえはしたが、体が動かない。

(鬼だ……)

「何事だっ! 魁さまがいらっしゃることを分かっての狼藉か⁉」

 真鬼まきの怒声が飛び、魁が鋭い視線を鬼たちに投げてキッと睨んでいるが、相手が怯む様子はない。

「その婚姻、待った!」
「魁さまの決断でも許せんっ!」
「そうだ、そうだ! ニンゲンなんかと未来の長が結婚なんてっ!」

 鬼たちは口々に何か叫んでいる。

(事情があるのは分かるけど、それは里で決めてから来て―。我が家で暴れないで―)

 桜は心の中で突っ込むが、口も、足も、動かない。
 ギラギラ光る日本刀が応接間で振り回される非現実な状況を、桜は呆然と見ていた。

(え⁉)

 異様な音に視線を向ければ、護衛だという運転手の大きな体がメリメリと音を立てて人間から鬼の体になっていくのが見えた。

(すごっ、変身⁉ 服は裂け……ないっ! 最新のストレッチ素材、すごっ)

「危ないっ、桜さんっ」

 和服の袂を翻しながら、魁が桜の前に立つ。
 細身で小柄な体のまま、額に二本の角をひょこっと生やしている。

(あ、つよ。日本刀を素手で受ける勢いっ。実際に抑えているのは鬼の手元だけど……えーつよーい)

 和服美人が軽やかに身を翻しながら、我が家の応接間でデカい鬼をひっくり返していくのを、桜は目を見開いて眺めていた。

 現実感が全くない。
 そこに騒ぎを聞きつけたがくがやってきて、応接間の襖をあけた。

「ちょっ、何の騒ぎ?」
「危ないっ!」

 叫ぶ母が弟の前に立つのが見えた。
 ギラギラと光る刃が空を切るのを見て、桜はようやく正気に返った。

がく! お母さんっ!」

 父の体がひらりと舞って、母と弟の前に立つ。

「逃げなさいっ!」
「台所が一番結界が強いっ! 台所へ行けっ!」

 叫ぶ父と祖父の声にコクリと頷いた母が、がくの体を抱くようにして駆けだしたのが桜の視界の端に見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

最後に、お願いがあります

狂乱の傀儡師
恋愛
三年間、王妃になるためだけに尽くしてきた馬鹿王子から、即位の日の直前に婚約破棄されたエマ。 彼女の最後のお願いには、国を揺るがすほどの罠が仕掛けられていた。

魔法のいらないシンデレラ 3

葉月 まい
恋愛
魔法のいらないシンデレラVol.3 『魔法のいらないシンデレラ』シリーズ Vol.3 ー幸せな家族の形とは?ー 可愛い子どもに恵まれた瑠璃と一生は、 また新たな赤ちゃんを迎えようとしていた。 幸せを感じながら、少しずつ 家族の絆を深めていく二人。 そして、二人の近くで始まった 新たな恋の物語とは… 『魔法のいらないシンデレラ』 『魔法のいらないシンデレラ 2』に続く シリーズ第3弾 どうぞお楽しみください! *・゜゚・*:.。..。.:*・'登場人物'・*:.。. .。.:*・゜゚・* 神崎 瑠璃 (29歳)… 一生の妻 神崎 一生 (35歳)… ホテル 総支配人 高岡 小雪 (24歳)… 保育士

処理中です...