【完結】煌めくままに恋しよう

天田れおぽん

文字の大きさ
11 / 40

第11話 自炊の夏 寮の夏

しおりを挟む
 陸の孤島学園には寮母の消える時期が、夏に三日、冬に三日ある。
 寮母が消えるとどうなるか?
 自炊が始まるのだ。

 いつも通り朝の支度を終えて食堂にやってきた真城は、食材を前にして頬をポリポリとかいた。

「料理なんて、おれやったことねー」
「オレもー」

 坂下もニコニコしながら答えた。

「俺もないが……なんとかなるだろ」

 黒江は用意されていたエプロンを手にとった。

「今年の一年生は前向きだなー」

 八雲が笑顔で言うのを、真城たちは真顔でジロリと睨む。
 今年の居残り教師の1人が八雲で、食堂での作業の監視役なのだ。

「八雲ティーチャー、寮母さんに媚び売りたすぎだろ?」
「そこぉー、なんか言ったかぁー⁉」

 真城がブツブツ呟いたのを耳ざとく聞きつけた八雲が突っ込む。

「なんでもないでーす」
「よろしー。早く作るぞー。朝食が夕食になっちまう。ご飯はもうじき炊けます。あとは味噌汁の仕上げと、卵焼きですねー。料理したくないなら、海苔とか並べる係をしてくださーい。魚を焼こうという猛者はいますかー⁉」

 八雲の言葉に皆、首を振った。

 運動部の生徒も今の時期は帰宅している者が多いため、一年生は十人足らず、二年生も数人で三年生に至ってはゼロだ。
 総勢でも20人足らずの男子ばかりの厨房に、朝っぱらから魚を焼こうという猛者はいなかった。

「ではそれぞれに分かれて調理開始してくださーい」

 あちらこちらで、あーでもないこーでもないという声が上がっている。
 真城たちは卵焼き作りだ。

「オレ、甘いのがいいー」

 真城が溶いた卵のなかに砂糖をぶちこもうとするのを黒江が止める。

「俺は出し巻き派だな?」
「早くも意見が分かれておりまーす」

 坂下はキャラキャラと笑っている。

 食堂内では、たくさんあるテーブルのあちらこちらにガスコンロが置かれていて、グループに分かれた生徒たちがそれぞれに調理を行っていた。

「うおっ、鍋がっ!」
「おいおい、味噌汁作るだけなのに、そんなに沸騰させてどうするっ。うおぉぉぉ、危ないっ」

 慌てる八雲のほうが危ないと真城たちは思ったが、自分たちもそれどころではない。

「オレはオレ好みの卵焼きを作るぜっ! って、うおっ⁉ 卵がボッコボコ沸騰してるぞ⁉」
「熱過ぎるところに卵液を入れすぎるから……あれ? 俺のは形にならねぇ」
「盛り上がってまいりましたっ!」
 
 真城が大騒ぎするよこで、黒江は首を傾げている。
 坂下は口だけ忙しく動かして2人の間をチョロチョロしていた。

「んー、なんでこうなった?」

 真城は卵焼き用の長方形になったフライパンの上で黒く焦げている、いい匂いなの不快な匂いなのか分からない匂いのする卵の残骸焼きを覗き込んだ。

「俺も分かんねぇ」

 黒江のフライパンのなかでは、焦げなかった代わりに、まとめることが出来なくて形にならなかった卵液が、スクランブルエッグのようになっていた。

 卵焼き作りに見事失敗した真城と黒江の横で、杉田が美しいだし巻き卵を作り上げ、坂下が拍手しながら褒め称えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】恋い慕うは、指先から〜ビジネス仲良しの義弟に振り回されています〜

紬木莉音
BL
〈策士なギャップ王子×天然たらし優等生〉 学園の名物コンビ『日南兄弟』は、実はビジネス仲良し関係。どんなに冷たくされても初めてできた弟が可愛くて仕方がない兄・沙也は、堪え切れない弟への愛をSNSに吐き出す日々を送っていた。 ある日、沙也のアカウントに一通のリプライが届く。送り主である謎のアカウントは、なぜか現実の沙也を知っているようで──? 隠れ執着攻め×鈍感受けのもだキュンストーリー♡ いつもいいねやお気に入り等ありがとうございます!

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。 一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。 もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。 ルガルは生まれながらに選ばれし存在。 国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。 最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。 一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。 遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、 最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。 ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。 ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。 ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。 そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、 巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。 その頂点に立つ社長、一条レイ。 冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。

恋と脅しは使いよう

makase
BL
恋に破れ、やけ酒の末酔いつぶれた賢一。気が付けば酔っぱらいの戯言を弱みとして握られてしまう……

処理中です...