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なるほど。ただ婚約者の家で買われていた犬というだけでなく、自分の家族同然である飼い犬たちから産まれた仔犬が立て続けに三匹も亡くなったというのは他人ごとではないと感じたのだろう。沖原沙織さんは沈痛そうな表情で睫毛を伏せた。
「最初に実紀夫さんから『もらった犬が二匹、死んでしまった』って聞いた時はとても悲しかったけど不運な事故だったんだろうと思ったわ。そして彼は狩猟をやっていて猟犬が必要だって言ってたし、実家でまた仔犬が産まれたから北海道犬の仔犬を三匹あげたの。でもあげた仔犬の一匹が一週間前に死んでしまって……」
つまり沖原沙織さんは実家で産まれた犬を合計五匹、婚約者である金森実紀夫に渡したがその内、三匹はすでに死んでいるということになる。
「それは悲しいですね……。でも死んだ犬に外傷は無かったんですよね?」
「ええ、実は亡くなった犬の遺体は私も見てるの。三匹とも外傷は無くて外で死んでいたから凍死してしまったんだろうって実紀夫さんも言ってたし、実は警察にも相談したんだけどやっぱり『凍死したんでしょう』って言われたわ」
「あの、非常に言いにくいんですけど。私や兄が現地に行ってもあまりお役に立てないかと……」
「そんなことはないと思うわ。逆にナオミちゃんが真宮くんと言ってくれることはチャンスだと思うの!」
「え?」
「実は真宮くんにも話して無かったんだけど、実紀夫さんが経営しているペンションには笹野絵里子っていう若い女が料理担当として住み込みで雇われてるの。私の勘なんだけど、その笹野絵里子っていう女。すごく怪しいと思う」
「怪しいと言うと、どんな風に?」
隣にいる兄が問いかければ沖原沙織さんは自身の両手をギュッと握りしめ視線を鋭くした。
「以前、私が休暇を利用して実紀夫さんのペンションに宿泊して彼と一緒にジビエのディナーを食べてたんだけど、笹野絵里子は自分の分だけラーメンを作ってスタッフルームで食べてたのよ! 普通、住み込みの従業員って、まかない料理を食べるにしても客に出してるのと同じような物を食べるんじゃない!? 怪しいわ!」
「いや、どの程度のディナーだったのかよく分らないですが、高級料理を出してるスタッフが必ずしも常にまかないで高級料理を食べてるとは限らないような……」
「それだけじゃないわ! 犬が死んだ時、私が泣きながら遺体にすがってたら笹野絵里子は私と目があった途端、気まずそうに視線をそらしたの!」
「えぇっと……。怪しいというのは、それが根拠なんですか?」
「女のカンよ! きっと笹野絵里子は実紀夫さんに片思いして嫉妬のあまり、私がプレゼントした犬を殺したのよ!」
にこやかな美人お嬢さまといった印象だった沖原沙織さんは、セミロングの黒髪を激しく揺らして大理石のテーブルを叩き、笹野絵里子に対する怒りで声を荒げた。その剣幕に私は兄と共に唖然とした。
「あの、それこそ警察案件なんじゃ? もしペットを三匹も殺したんだったら笹野絵里子さんを罪に問えると思いますよ」
「それが実紀夫さんが『死んだモノのことをとやかく言っても仕方ない』ってすぐに、遺体を埋葬してしまって……。笹野絵里子についても怪しいんじゃないかとそれとなく伝えたんだけど笑って全然、本気にしてもらえなかったわ」
「じゃあ、私が行く事で沙織さんが『チャンス』と感じたというのはもしかして?」
「ええ。本来なら真宮くんだけにお願いしようかと思っていたんだけど、ペンションの従業員である笹野絵里子が『東京から犬の死因を調べるために探偵がやってくる』って聞けばきっと、すごく警戒するわ。でも真宮くんとナオミちゃんが兄妹で卒業旅行に来たということで北海道のペンションに宿泊するなら自然でしょう? 笹野絵里子がどんな風に実紀夫さんに接してるか、何か怪しい所がないか観察して欲しいの!」
「はぁ」
ヒートアップする沖原沙織さんの話を聞き相づちを打ちながら私は若干、引いていた。そして横を見れば兄も私と同様の顔をしていた。これはアレだ。恋愛トラブルってヤツだ。痴情のもつれ的なアレだと。
「まぁ、そういうことなら事情は分かった……」
「分かってくれたのね! 真宮くん!」
「しかし、仮にだ。金森実紀夫が笹野絵里子と恋愛関係である可能性もある訳だが、要するに浮気の証拠があれば掴んでほしいという依頼だな?」
「もし、実紀夫さんが私以外の女と浮気していたら、結果的にそうなるわね」
「これは本来、ウチのような迷子ペットの捜索専門じゃなく、男女間のトラブル案件に強い探偵に浮気の証拠を調査させるという依頼案件なんだがな……」
「もちろん。今回の件は交通費、宿泊費、食費に加えて通常の料金もお支払いするし。犬の死因や万が一、浮気の証拠が見つかれば別途で成功報酬をはずむわ!」
「しかし、調査に全力を尽くしても犬の件にしろ、男女間のことにしろ調べても何も無い。分からないというケースもあるぞ? それでも経費や報酬は貰うが良いのか?」
「構わないわ。実紀夫さんは、結婚を前提に婚約してる相手ですもの。むしろ、何もない方が喜ばしいわ。でも結婚する相手だからこそ不安の芽は消してしまいたいの!」
「分かった。引き受けよう」
「真宮くん! ありがとう! 実紀夫さんには大学時代の同級生である真宮くんが妹と卒業旅行で北海道に行くからって部屋を取ってるの。真宮くんの職業についても内々に伝えてるわ。犬の死因について不信な点が無いか真宮くんに協力してもらって調べてほしい旨も実紀夫さんには伝えてあるから」
「最初に実紀夫さんから『もらった犬が二匹、死んでしまった』って聞いた時はとても悲しかったけど不運な事故だったんだろうと思ったわ。そして彼は狩猟をやっていて猟犬が必要だって言ってたし、実家でまた仔犬が産まれたから北海道犬の仔犬を三匹あげたの。でもあげた仔犬の一匹が一週間前に死んでしまって……」
つまり沖原沙織さんは実家で産まれた犬を合計五匹、婚約者である金森実紀夫に渡したがその内、三匹はすでに死んでいるということになる。
「それは悲しいですね……。でも死んだ犬に外傷は無かったんですよね?」
「ええ、実は亡くなった犬の遺体は私も見てるの。三匹とも外傷は無くて外で死んでいたから凍死してしまったんだろうって実紀夫さんも言ってたし、実は警察にも相談したんだけどやっぱり『凍死したんでしょう』って言われたわ」
「あの、非常に言いにくいんですけど。私や兄が現地に行ってもあまりお役に立てないかと……」
「そんなことはないと思うわ。逆にナオミちゃんが真宮くんと言ってくれることはチャンスだと思うの!」
「え?」
「実は真宮くんにも話して無かったんだけど、実紀夫さんが経営しているペンションには笹野絵里子っていう若い女が料理担当として住み込みで雇われてるの。私の勘なんだけど、その笹野絵里子っていう女。すごく怪しいと思う」
「怪しいと言うと、どんな風に?」
隣にいる兄が問いかければ沖原沙織さんは自身の両手をギュッと握りしめ視線を鋭くした。
「以前、私が休暇を利用して実紀夫さんのペンションに宿泊して彼と一緒にジビエのディナーを食べてたんだけど、笹野絵里子は自分の分だけラーメンを作ってスタッフルームで食べてたのよ! 普通、住み込みの従業員って、まかない料理を食べるにしても客に出してるのと同じような物を食べるんじゃない!? 怪しいわ!」
「いや、どの程度のディナーだったのかよく分らないですが、高級料理を出してるスタッフが必ずしも常にまかないで高級料理を食べてるとは限らないような……」
「それだけじゃないわ! 犬が死んだ時、私が泣きながら遺体にすがってたら笹野絵里子は私と目があった途端、気まずそうに視線をそらしたの!」
「えぇっと……。怪しいというのは、それが根拠なんですか?」
「女のカンよ! きっと笹野絵里子は実紀夫さんに片思いして嫉妬のあまり、私がプレゼントした犬を殺したのよ!」
にこやかな美人お嬢さまといった印象だった沖原沙織さんは、セミロングの黒髪を激しく揺らして大理石のテーブルを叩き、笹野絵里子に対する怒りで声を荒げた。その剣幕に私は兄と共に唖然とした。
「あの、それこそ警察案件なんじゃ? もしペットを三匹も殺したんだったら笹野絵里子さんを罪に問えると思いますよ」
「それが実紀夫さんが『死んだモノのことをとやかく言っても仕方ない』ってすぐに、遺体を埋葬してしまって……。笹野絵里子についても怪しいんじゃないかとそれとなく伝えたんだけど笑って全然、本気にしてもらえなかったわ」
「じゃあ、私が行く事で沙織さんが『チャンス』と感じたというのはもしかして?」
「ええ。本来なら真宮くんだけにお願いしようかと思っていたんだけど、ペンションの従業員である笹野絵里子が『東京から犬の死因を調べるために探偵がやってくる』って聞けばきっと、すごく警戒するわ。でも真宮くんとナオミちゃんが兄妹で卒業旅行に来たということで北海道のペンションに宿泊するなら自然でしょう? 笹野絵里子がどんな風に実紀夫さんに接してるか、何か怪しい所がないか観察して欲しいの!」
「はぁ」
ヒートアップする沖原沙織さんの話を聞き相づちを打ちながら私は若干、引いていた。そして横を見れば兄も私と同様の顔をしていた。これはアレだ。恋愛トラブルってヤツだ。痴情のもつれ的なアレだと。
「まぁ、そういうことなら事情は分かった……」
「分かってくれたのね! 真宮くん!」
「しかし、仮にだ。金森実紀夫が笹野絵里子と恋愛関係である可能性もある訳だが、要するに浮気の証拠があれば掴んでほしいという依頼だな?」
「もし、実紀夫さんが私以外の女と浮気していたら、結果的にそうなるわね」
「これは本来、ウチのような迷子ペットの捜索専門じゃなく、男女間のトラブル案件に強い探偵に浮気の証拠を調査させるという依頼案件なんだがな……」
「もちろん。今回の件は交通費、宿泊費、食費に加えて通常の料金もお支払いするし。犬の死因や万が一、浮気の証拠が見つかれば別途で成功報酬をはずむわ!」
「しかし、調査に全力を尽くしても犬の件にしろ、男女間のことにしろ調べても何も無い。分からないというケースもあるぞ? それでも経費や報酬は貰うが良いのか?」
「構わないわ。実紀夫さんは、結婚を前提に婚約してる相手ですもの。むしろ、何もない方が喜ばしいわ。でも結婚する相手だからこそ不安の芽は消してしまいたいの!」
「分かった。引き受けよう」
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