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朝食の皿を空にしてオレンジジュースを飲みほした時、再び笹野絵里子さんがトレイを持ってやって来て、白磁器のティーカップを木製テーブルに置いた。
「食後の紅茶よ。熱いから気をつけてね」
「はい」
ちょうど良いタイミングで置かれた、できたての紅茶に頬がゆるむ。琥珀色の熱い紅茶から白い湯気が立ち昇るのを見ながら少し冷めるのを待ちつつ、ふと昨晩のことを思い出す。
人語を理解し、話す巨大な怪鳥。あの妖怪、以津真天の言葉を信じるならエゾ鹿の傍で死んでいたオオワシやカラスは鳥インフルエンザなどではなく、人間が鹿の死肉に毒を仕込んだのが原因で死亡した。
オオワシやカラスの死骸を専門機関が回収して検査すれば、あの鳥たちの死因。つまり毒で死んだのだとすれば、どんな毒物が使用されたのかも判明するのだろうか?
兄は金森さんがエゾ鹿の狩猟をすることから、鹿の死骸に毒物を仕込んだのが金森さんではないかと疑っていたけれど、わざわざ毒物を使って不特定多数の野生生物を殺害する意図が不明すぎる。
そういえばペンションのオーナー、金森さんの婚約者である沖原沙織さんは自分と金森さんの仲に嫉妬したペンションの従業員、笹野絵里子さんが犬を殺害したのではないかという疑念を抱いてウチの兄に『飼っていた北海道犬が三匹連続で死亡した件』の捜査を依頼してきたのだ。
昨晩、エゾ鹿の周囲でオオワシやカラスが死んでいたことを話した時、笹野絵里子さんの顔色が変わり、明らかに動揺しているように思えた。笹野絵里子さんは、やっぱり何か心当たりがあるんじゃないだろうか。私はちょうど良い熱さになった紅茶を飲み干すと空になった白磁器のソーサーとティーカップを持って食堂のカウンターに向かった。
「笹野さん。ごちそうさまでした。ティーカップ、ここに置いておいたら良いですか?」
「あら、わざわざありがとう。助かるわ」
笑顔を浮かべる笹野絵里子さんが流し台でティーカップを洗い始めるのを見ながら、今がチャンスに違いないと私は確信した。
「いえ、この位は……。ところでオーナーの金森さんってカッコイイですね」
「ふふ。そうね。あの容姿で独身だから女性客からも人気があるわ」
「やっぱりそうですよね! もしかして笹野さんもオーナーのこと?」
「え、私?」
笹野絵里子さんは驚きに目を見開いた。そんな笹野さんに私は満面の笑みで頷く。
「はい。あれだけカッコイイ人と一緒に働いてるんですから、好きになっちゃうんじゃないですか?」
「ちょっと待って、それは無いわ」
「本当に?」
「私、恋人がいるのよ」
「え」
思いもよらない返答に私は唖然としたが、笹野絵里子さんは苦笑して肩をすぼめた。
「今は病気で来てないけど、ここで一緒に働いてるの。だからオーナーと私はそういうのじゃないわ」
「そうなんですか……。あ、そういえば金森さんが男性従業員が急病でいないから人手不足って言ってたような……?」
「うん。その急病になった男性従業員が私の恋人なの。それにオーナーには美人の婚約者がいるから誤解されてしまったらオーナーも困ると思うわ」
苦笑いする笹野絵里子さんの表情には、オーナーの婚約者である沖原沙織さんに対する嫉妬などの感情は一切、無いように思える。どうやら金森さんと沖原沙織さんの仲に嫉妬して、笹野絵里子さんが何かしたということは無さそうだ。
「食後の紅茶よ。熱いから気をつけてね」
「はい」
ちょうど良いタイミングで置かれた、できたての紅茶に頬がゆるむ。琥珀色の熱い紅茶から白い湯気が立ち昇るのを見ながら少し冷めるのを待ちつつ、ふと昨晩のことを思い出す。
人語を理解し、話す巨大な怪鳥。あの妖怪、以津真天の言葉を信じるならエゾ鹿の傍で死んでいたオオワシやカラスは鳥インフルエンザなどではなく、人間が鹿の死肉に毒を仕込んだのが原因で死亡した。
オオワシやカラスの死骸を専門機関が回収して検査すれば、あの鳥たちの死因。つまり毒で死んだのだとすれば、どんな毒物が使用されたのかも判明するのだろうか?
兄は金森さんがエゾ鹿の狩猟をすることから、鹿の死骸に毒物を仕込んだのが金森さんではないかと疑っていたけれど、わざわざ毒物を使って不特定多数の野生生物を殺害する意図が不明すぎる。
そういえばペンションのオーナー、金森さんの婚約者である沖原沙織さんは自分と金森さんの仲に嫉妬したペンションの従業員、笹野絵里子さんが犬を殺害したのではないかという疑念を抱いてウチの兄に『飼っていた北海道犬が三匹連続で死亡した件』の捜査を依頼してきたのだ。
昨晩、エゾ鹿の周囲でオオワシやカラスが死んでいたことを話した時、笹野絵里子さんの顔色が変わり、明らかに動揺しているように思えた。笹野絵里子さんは、やっぱり何か心当たりがあるんじゃないだろうか。私はちょうど良い熱さになった紅茶を飲み干すと空になった白磁器のソーサーとティーカップを持って食堂のカウンターに向かった。
「笹野さん。ごちそうさまでした。ティーカップ、ここに置いておいたら良いですか?」
「あら、わざわざありがとう。助かるわ」
笑顔を浮かべる笹野絵里子さんが流し台でティーカップを洗い始めるのを見ながら、今がチャンスに違いないと私は確信した。
「いえ、この位は……。ところでオーナーの金森さんってカッコイイですね」
「ふふ。そうね。あの容姿で独身だから女性客からも人気があるわ」
「やっぱりそうですよね! もしかして笹野さんもオーナーのこと?」
「え、私?」
笹野絵里子さんは驚きに目を見開いた。そんな笹野さんに私は満面の笑みで頷く。
「はい。あれだけカッコイイ人と一緒に働いてるんですから、好きになっちゃうんじゃないですか?」
「ちょっと待って、それは無いわ」
「本当に?」
「私、恋人がいるのよ」
「え」
思いもよらない返答に私は唖然としたが、笹野絵里子さんは苦笑して肩をすぼめた。
「今は病気で来てないけど、ここで一緒に働いてるの。だからオーナーと私はそういうのじゃないわ」
「そうなんですか……。あ、そういえば金森さんが男性従業員が急病でいないから人手不足って言ってたような……?」
「うん。その急病になった男性従業員が私の恋人なの。それにオーナーには美人の婚約者がいるから誤解されてしまったらオーナーも困ると思うわ」
苦笑いする笹野絵里子さんの表情には、オーナーの婚約者である沖原沙織さんに対する嫉妬などの感情は一切、無いように思える。どうやら金森さんと沖原沙織さんの仲に嫉妬して、笹野絵里子さんが何かしたということは無さそうだ。
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