神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

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 不安は拭えなかったが、捜査としてはもうやることが無いならば当初の目的通り、卒業旅行として雪山でスキーやスノボを楽しんでみたり、山を下り海岸から他の観光客と共に流氷観光砕氷船に乗って北国特有の深い藍色の海を渡り、猛禽たちの群れがいる白い流氷に近づいた。

 流氷観光砕氷船からは船を操縦しているガイドの人がエサの魚を海に向かってまいているおかげで、あっという間に珍しい猛禽類たちが遠くからも集まってくる。

 近距離で絶滅危惧種であると同時に、国の天然記念物でもあるという黄金色の立派なクチバシを持つオオワシや茶褐色のオジロワシたちが、鋭い両脚の爪で捕獲した海魚をガッチリと抑えながら魚肉をついばんでいる様子などを見ることができた。

 ほかにも頭から腹にかけて純白の羽毛に覆われ翼は灰色のワシカモメ、灰色の翼に風切り羽が黒いのが特徴のセグロカモメ、薄灰色の翼に頭から胸にかけて褐色の斑点模様があるシロカモメ、黒く短い冠のような頭の羽と赤い目が特徴的なカンムリカイツブリなど、この時季にこの場所でしか見ることができない渡り鳥を見て兄と共にバードウォッチングを堪能する。

 流氷や雪塊の上で冷たい海風に煽られながらも、たくましく生きている鳥たちの姿はとても美しい。都会暮らしだと中々、お目にかかれない北の渡り鳥たちの姿を私は目に焼き付け、スマホでもたっぷりと撮影した。

「それにしても、なんでオオワシやオジロワシたちは群れで流氷の上にいるのかしら? 真っ白な雪塊の上で大きな猛禽がたたずんでる姿って、見る分にはすごく絵になるけど……」

「流氷の下には『アイスアルジー』という藻の一種が付着している。それを狙ってオキアミのようなプランクトンが流氷に集まって来る。さらにそのプランクトンを狙って魚たちが集まる。オオワシやオジロワシは集まって来る魚を捕獲する為に群れで流氷にいるんだ」

「どうしてあんな所にオオワシやオジロワシが群れで居るのか分からなかったけど、そんな理由があったのね」

「傍目には分からなくても、何にでも相応の理由があるということだな」

 強い北風に吹かれながら極寒の流氷に乗って生きるなんて一見、全くメリットが無いように見えるけどオオワシやオジロワシのような魚をエサにしている種にしてみればエサの捕獲、確保という実に合理的な理由があったのだ。私は感心した。

「今いるこの鳥たちは、春になると飛び去って行くのよね?」

「ああ、温かくなれば繁殖地に向かう」

「北の安全な場所で卵を産んで子供を作るのね」

 春から夏にかけてはここより北でつがいになった鳥が営巣して卵を産み、親鳥が卵を温めやがて可愛らしいヒナが産まれるのだろう。そして、親鳥たちは産まれたヒナに毎日、エサを運んで大事に育て成鳥になった個体はまた秋から冬にかけて日本へやって来るのだ。その光景を脳内に思い描き、私はほっこりした。

「安全だと良いがな……」

「なによ? なんだか引っかかる言い方ね」

 含みを持たせるような言葉に眉を潜めれば、兄は流氷の上で翼を羽ばたかせるオオワシたちを黒髪の前髪ごしに見つめながら瞳に影を落とした。
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