神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

文字の大きさ
50 / 62

50

しおりを挟む
「ここで鉛弾を使っていた奴にはクギを刺しておいた……。二度と鉛弾を使用しないように、関係各所にも目を光らせるように連絡も入れる」

 そういえば兄はエゾ鹿に仕込まれた毒によって、鳥獣たちが死んでいることを以津真天イツマデに訴えられ、鹿の遺体に毒を仕込んでいる相手に毒のせいで生き物が死んでることを伝えると約束していた。

 ペンションを経営している金森さんにしてみたら妙な噂が立ったり、警察などから目を付けられたくはないだろうからこれ以上、鉛弾を使うのはきっと辞めてくれるはずだ。それに調理担当の笹野絵里子さんも念押ししてくれると言ってたから、鉛弾に関しては大丈夫だろう。

「もう、この山で鉛弾が使われることはないはずよ! つまり、エゾ鹿に鉛の毒が仕込まれることもないわ。良かったわね!」

「……シカシ、他の場所では変わらずに鳥獣の屍肉に鉛の毒を仕込んデ、人間は無為に生き物を殺し続けるのダロウ?」

「それは……」

 以津真天イツマデに問いかけられ、返答に窮する。鉛弾を使っていた金森さんは、この場所で鉛弾を使用するのをやめてくれると思うが、確かに他の場所では変わらず鉛弾を使用するハンターがいるのだろう。

 そしてまた死ななくて良いはずの生物が鉛中毒になり死んでいくのを分かっていながら、私にはどうすることもできない。言葉に詰まった私たちを見据えた怪鳥、以津真天イツマデは遠い空の向こうに視線を向けると大きな翼を羽ばたかせ周囲に冷たい風を巻き起こす。

「イツマデ……。イツマデ……!」

 怪鳥、以津真天イツマデは高い声で鳴くと巨大な翼を広げて、傾いた日差しを浴びながら蒼穹の彼方へと飛び去っていった。私と兄は以津真天イツマデの翼から落ちたいくつもの黒い羽が風に吹かれて舞い上がるのを視認しながら、徐々に遠くなっていく怪鳥の姿を茫然と見送った。

 初めて会った時、以津真天イツマデは、鉛の毒で死んだカラスやオオワシの死骸を見ながら嘆いていた。また、どこかの空の下で鉛弾の二次被害で鉛中毒になり苦しみながら死んでいく生き物たちの死体に寄り添い「イツマデ、イツマデ……」といつになったら鉛の毒で生き物が死ななくなるのかと鳴き続けるのだろうか。

 前に兄が『太平記』や江戸時代の妖怪絵師、鳥山石燕の妖怪画集『今昔画図続百鬼』について話してくれた時、以津真天イツマデという妖怪は、打ち捨てられたままの遺体の怨念が変異して妖怪になった物なのだという趣旨のことを話していた。

 ならば鉛の毒によって死んだ鳥獣たちの死を悼んでいた怪鳥、以津真天イツマデは人間が安易に使った鉛弾によって鉛中毒になり、苦しみながらゆっくりと時間をかけて命を失った生き物の慣れの果てなのか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

処理中です...