神楽坂探偵社の妖怪事件簿

中野莉央

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「絶滅危惧種の鳥獣が鉛弾の二次被害を受けて死亡するのを防ぐ為にも、鉛弾の使用を日本国内で完全に無くそうとしている動きもある。海外では日本よりも銃で害獣を駆除している数が多い。その結果、間接的に鉛弾の毒で鳥獣が死亡する例が後を絶たない。特に死肉を食べるコンドルなど猛禽の被害は深刻だ。希少な鳥獣を保護するため、鉛弾を全面規制している国や地域もある」

「……北海道では鉛弾を使うのが本来は禁止されてるのよね?」

「ああ」

「鉛弾が禁止されているのに、どうして金森さんは鉛弾を使っていたの? 罪に問われることなんじゃないの?」

「北海道で禁止とはいえ現行犯で鉛弾を使用、所持してる現場を押さえないといけないから、抑止が難しいというのが現状だ。仮に現行犯で鉛弾の所持が発覚しても『3月以下の懲役又は30万円以下の罰金』だからな。猟銃を所有し、保持できるハンターなら払えない罰金ではないというのも鉛弾の使用に歯止めがかからない要因の一つだろうな」

「鉛弾を使えば、間接的にたくさんの生き物が苦しんで死んでしまうのに、発覚しても軽い処罰で済んでしまうなんて、あんまりだわ……。なんで鉛弾みたいな毒になる物をもっと強く規制しないのよ……!」

 お金に余裕がある人なら罰金だけ払えば、いくらでも鉛弾を使えるということなのか。鉛弾を利用しているハンターが鉛弾の方が銅弾や鉄弾よりも殺傷能力が高いと信じて愛用し続けていれば、使えば使うほど関係のない生き物も被害に遭う可能性が高くなっていくではないか。

 仮にマナーを守るハンターで狩った鹿の遺体を丸ごと持って帰るとしても、鹿の身体を貫通した鉛の弾丸が他の生き物に当たる可能性や、地面に落ちた鉛弾を何も知らない生き物が誤飲してしまうという可能性だってあるんじゃないだろうか。

 鉛弾のような毒性の強い金属を使用し続けるなんて、百害あって一利なしとはまさにこのことじゃないかと腹立たしい気持ちでいっぱいになる。私はこぶしを強く握りしめた。

「強く規制しない理由か……。そもそも北海道で鉛弾の使用と所持について条例で罰則がついたのが、つい最近だからこれでも改善はされているんだがな……。結局、人間は自分に直接影響する事象でなければ強く規制しようなどとは思わないからだろうな」

「人間に直接、影響するなら強く規制されるの?」

「ああ、紀元前の古代ローマでも鉛が使用されていたと言ったが、日本でも鉛は古くから盛んに利用されていた。人体に悪影響が出る例としては、女性などが化粧に使う白紛おしろい鉛白えんぱくという白い鉛粉が含まれていたため連日、白粉を顔に塗っていた江戸時代の歌舞伎役者が慢性的な鉛中毒になっていたという話が有名だ」

「慢性的な鉛中毒……」

「1876年、明治9年から舞台で活躍した歌舞伎役者、五代目中村歌右衛門ごだいめなかむらうたえもんが白紛に入っていた鉛毒のせいで鉛中毒となり苦しみながらも舞台に上がり続けたという逸話もある。しかし、鉛白を含む白紛を使用した妊婦の産んだ子供が重い障害を抱えていたケースなどもあり、人体に有害であることが明白なため1934年、昭和9年には白紛に鉛を使用するのは完全に禁止されるようになった」
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