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第1章
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しおりを挟む銃声が辺りに響く。それに伴って、爆発が各地で起きた。
「問題ないな、お疲れさん」
砲弾を遮ったその壁の記録を記載した上官が、ひとりの兵士に満足そうに告げる。
上官の視線にあった兵士が、嬉しそうに笑顔で大声に「ありがとうございます」と言い放った。
それにまた、上官は満足したのか目を和らげた。
「おう。また頼んだぞ」
「はい! お任せください。失礼致します!」
礼をし、姿勢を正したまま、彼はその場を離れる。その様子を見ていた他の兵士達は、ひそひそとその兵士の噂話を語り始めていた。
彼の仕事は、妖術で新たな兵器を発明することだ。生まれ持った想像力と、それを実行する実力、そして信頼性に問われる職業である。その為か、枕営業だ、天才だから、生まれがいい等言う他人に対し、もう彼は戯言にしか聞こえなくなっていた。それもそのはずだ。元々は気の弱い男だったが、上官に認めてもらう度に自信をつけ、今では少佐までのし上がった努力家なのだ。
努力すれば報われるのに。
そんな思考の持ち主からか、噂話をする彼らに彼は悲しさを覚える程だった。
「アキラ」
更なる国家のための兵器の発明に取り組もうと、過去の記録書に目を通していれば、久々に聞く声が自分の名前を呼んだ。はっとしてその声の場所へ顔を向ける。
「———……涼太」
「よっ」
片手を上げ、そう言った涼太は、にこりと微笑みながら「まだ時間大丈夫か」とアキラに問う。それに、あきらが頷けば、彼はまた笑顔し、「あっち行こうぜ」と後ろを親指で指した。
「おう」
書類を閉じた。そして、片手で持った後に、涼太の背中を見つめた。
涼太は前戦で戦う事を命じられた、いわば人間兵器だ。涼太たちのいる人間兵器の部隊は「4087分隊」という。改造された体は、見た目は本当の人間のようだが、触れば一目瞭然。硬い肉体に、首から浮き出る機械。それを見るたびに、あきらは胸が苦しくなった。
元々、涼太は孤児だった。霊力も常人と比べて少なく、うまく錬金術の融合体になれなかった彼は、あわよくばと政府の口車に乗せられ、器械の兵器と化した。彼自身もそれを望み、「元々必要のない人間だった」と逆に笑っている程。
それを思い出す度に、アキラは何故止めれなかったのか、必要な人間だと言えなかったのかと罪の意識を高めている。
「仕事はうまくいってるか?」
「え、あ、うん」
その問いに、どう答えればいいか、アキラは一瞬迷ってしまった。それに気づかれただろうかと不安になったが、ヘラヘラと笑う様子からして、そこまで気にしてはいないようだった。
それにほっと肩を撫で下ろし、会話を続けるための問いを涼太に尋ねた。
「涼太は?」
実験体だとも言える涼太の職種でも、自分の兵器は使っているのだろうか。その疑問は、前々からアキラの中に存在していた。しかし、涼太には兵器を発明する仕事をしていることを隠していた為、そう容易には聞けなかった。
「俺のとこは、最近は新型兵器使って実戦ばっかしてるな」
そう言って、涼太はヘラリと笑う。
“実戦”という言葉に、アキラの心臓は心拍数を上げた。ヘラヘラと笑いながら「結構使いやすい」と言う彼に、アキラはますます不安を覚える。
アキラが創造する新型兵器は、当たれば一瞬で人を殺傷するだけでなく、生気を奪う。それなりに扱うにも集中しなければならないし、爆発力もある。一歩使い方を誤れば数百人を死に陥りさせる代物なのだ。
実際にアキラは涼太の実戦姿を見たわけではなかったが、それを聞いた途端の不安はなかなか消えるものではなかった。
「実戦て……」
そう言葉にしたアキラに涼太は「嗚呼」と言葉をもらす。
「実弾とかは使わねえよ。妖術の兵器は結構キツイけど、壊れたら壊れたでも一日で元どおりだからな。それに、痛みもねえから心配すんな」
故障。その言語の意味はひとつだ。涼太のような機械の生身になった者は内臓やなにならは人間そのものの機能をしているが、脳以外のそれらは機械となんら変わらない。腕がもげたとしてもすぐに直せるし、その為、彼らは人間ならば死んでいるその「死」そのものを自身で「故障」と称している。それを知っているアキラは、それはつまり、彼は何度も死んだという事ではないだろうかと考えた。アキラは、またドン底に突き落とされたような不安感に襲われた。
アキラの親友は涼太だけだった。友人も最初は涼太だ。元気で活発なムードメーカーだった彼と仲良くなるのにはそう時間はかからなかった。幼稚園から一緒だったことから、「幼馴染み」という関係も続いている。そんな彼が今、殺人兵器となり、自分の発明した新型兵器で実戦を重ねていると聞けば、不安になるのも当然のことだと言える。
大丈夫なのか。
そんな粋な言葉はアキラには使えず、「そうか、頑張れよ」と笑うことが精一杯だった。
その後、少しばかりの懐かし話をしていると、部下が「少佐!」と呼ぶ声が聞こえた。
「デルグレム大佐がお呼びです」
「分かった」
失礼します、そう告げた部下は足早にこの場を去った。
「じゃあ、またな」
立ち上がり、伸びをする。アキラが発したその言葉を聞いた涼太は若干の不満の顔をしたが、「嗚呼、またな」と続けた。
「また会えたら、な」
その場に背を向けて去って行くアキラに、涼太は悲しそうな顔をして呟いていた。
大佐からの呼び出しは珍しかった。しかも、あまり人と関わりを持たないデルグレムからと言われれば、更にアキラは疑問を浮かび上げる。
兵器の調子が悪かったか、発明に何か問題があったのか、そんなことばかり頭に浮かんでは消えていく。こんなことを想像していても仕方がないということは分かっているものの、想像せずにはいられなかった。
ついた扉に、軽くノックする。そうすれば、久々に聞く上官の声が鳴り響いた。
「瀬戸アキラ少佐であります!」
「入れ」
「失礼致します!」
深い礼をし、机に肘を付けてこちらを睨むように見つめるデルグレム大佐に肩を鳴らした。
「瀬戸少佐」
「はい!」
「ここに呼び出した要件を、心して聞いて頂きたい」
「承知致しました」
そう頷いた彼に、デルグレム大佐は、目を伏せて言葉を続ける。
「少佐はかなり成績が良い。信頼性にも長け、我々の中でも有名だ」
「ありがとうございます」
「だから、これを少佐が受け入れてくれることを願う」
そう言ったデルグレム大佐は、一息つき、そしてアキラに言い放った。
「王国封印監察部幹部へ、異動になった」
切って貼ったような配属先に、アキラは唖然と立ち尽くした。
王国封印監察部幹部というのは、その名の通り、罪の王国で名を知られる「神の王国」の監察部のことである。監察部というのは、年中王国を監視し、どんなに小さく細かい事でも報告し最善を尽くす職種だ。言えば前戦よりもいいと思う印象だが、裏を返せば王国に何かあった場合、一番最初に死ぬ職、ということになる。つまり、死と隣り合わせの仕事なのだ。
勿論、そのことは配属になる前の授業等で散々と習ったところ。最も人力不足である監察部に希望するものは数少なく、その多くは自殺希望のものばかりなイカれたところだ。
希望制なその仕事先に配属となったアキラは、その結果に満足出来ずに、弱に不満を募らせた。
「なぜ、私なのですか……?」
その質問は、最もなことだった。
監察部と発明部は接点など全くと言っていいほどなく、無関係な位置にあるものだ。
デルグレム大佐は、その言葉に目を伏せた。そして、震えた声でこう言った。
「決定事項だ」
「ですが、私は……!」
「決定事項なのだ!」
額に汗が滲んでいた。目元を隠す様子から、何か緊急があったのだと伺えた。
威厳に蹴落とされ、アキラはただ「承知」という快諾の言葉と礼しか出ずにいた。
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