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名医耆婆
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今は昔インドのマガダ国の王舎城には五天竺第一の名医がいた。その名は耆婆である。
彼は若き日より東奔西走して古今東西の医学書を読み漁っては実践し、病人が居ると聞けば駆けつけ治療して医学を極めた。薬の調合もお手の物で薬草を拾い集めては丸薬を作って自分の身を削って製薬した。インドのマガダ国の王であったビンビサーラ王は彼の功績を聞きつけるや直ちに王宮に招いて病気の臣下を治療させて彼の腕を確かめるや、彼の医術の技量に感激した王は直ちに侍医とした。
時は流れ季節は変わりビンビサーラ王の息子アジャータシャトルが王位に就いた。その話の裏には血なまぐさい忌避すべき事件があったがここでは述べないことにしよう。たびたびアジャータシャトルが腹痛や熱病に魘されたときには耆婆が調合した丸薬を飲むことで早々に治癒したものだった。
そんなある日王舎城に仏陀と呼ばれる聖者が立ち寄った。ビンビサーラ王のご在世は毎月のようにやってきては法を説いていたが、仏陀を憎むアジャータシャトルの時代になってからは仏陀が来ることはめっきり減っていた。ただ仏陀を師と仰ぐ耆婆は違った。仏陀を自室に招いてはこれを薬でもって供養した。
そんなある日仏陀の弟子たちが皆で王宮近くの寝所に泊まっていた時に耆婆はふと彼らに医学の講義をすることを思い立った。それを仏陀に伝えると快く承諾されたので、適当な日を選んで開催する運びとなった。当日マガダ王宮の広間は仏陀を筆頭とした修行僧たちで満たされていた。それは蒼々たる顔ぶれであった。十大弟子をはじめとして賓頭盧や難陀などがいた。ところがどこを見渡しても周梨槃特尊者の姿がなかった。これを怪しんだ仏陀は耆婆に詰問した。「ところで耆婆よ、素晴らしい講義であったがなぜチューラパンタカを招かなかったのかな?」と。すると耆婆の答えはこうであった。「彼は愚鈍で自分の名前すら覚えられないという。だから彼はこの講義にはふさわしくないと思い招かなかった。」と。
これを聞いた仏陀は突然閻魔のような厳しい表情になり彼を叱った。
時は流れ仏陀が出世の目的である法華経を説いた後のことである。日々の悪業が祟ったアジャセ王の全身に悪いできものが噴出した。それは死に至るほどで直ちに耆婆を召して治療にあたらせたが無駄であった。藁にもすがる思いで仏陀のもとにはせ参じた彼は仏陀の説いた涅槃経という教えによって吹き出物が治っただけではなく、なんと40年も寿命が延びた。
ところで仏には治せない病はないが耆婆などの名医には身体的な不調で治せない病はないと言われる。そんな彼の医術をもってしても仏教に敵対するという病は治し難かったのである。
彼は若き日より東奔西走して古今東西の医学書を読み漁っては実践し、病人が居ると聞けば駆けつけ治療して医学を極めた。薬の調合もお手の物で薬草を拾い集めては丸薬を作って自分の身を削って製薬した。インドのマガダ国の王であったビンビサーラ王は彼の功績を聞きつけるや直ちに王宮に招いて病気の臣下を治療させて彼の腕を確かめるや、彼の医術の技量に感激した王は直ちに侍医とした。
時は流れ季節は変わりビンビサーラ王の息子アジャータシャトルが王位に就いた。その話の裏には血なまぐさい忌避すべき事件があったがここでは述べないことにしよう。たびたびアジャータシャトルが腹痛や熱病に魘されたときには耆婆が調合した丸薬を飲むことで早々に治癒したものだった。
そんなある日王舎城に仏陀と呼ばれる聖者が立ち寄った。ビンビサーラ王のご在世は毎月のようにやってきては法を説いていたが、仏陀を憎むアジャータシャトルの時代になってからは仏陀が来ることはめっきり減っていた。ただ仏陀を師と仰ぐ耆婆は違った。仏陀を自室に招いてはこれを薬でもって供養した。
そんなある日仏陀の弟子たちが皆で王宮近くの寝所に泊まっていた時に耆婆はふと彼らに医学の講義をすることを思い立った。それを仏陀に伝えると快く承諾されたので、適当な日を選んで開催する運びとなった。当日マガダ王宮の広間は仏陀を筆頭とした修行僧たちで満たされていた。それは蒼々たる顔ぶれであった。十大弟子をはじめとして賓頭盧や難陀などがいた。ところがどこを見渡しても周梨槃特尊者の姿がなかった。これを怪しんだ仏陀は耆婆に詰問した。「ところで耆婆よ、素晴らしい講義であったがなぜチューラパンタカを招かなかったのかな?」と。すると耆婆の答えはこうであった。「彼は愚鈍で自分の名前すら覚えられないという。だから彼はこの講義にはふさわしくないと思い招かなかった。」と。
これを聞いた仏陀は突然閻魔のような厳しい表情になり彼を叱った。
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ところで仏には治せない病はないが耆婆などの名医には身体的な不調で治せない病はないと言われる。そんな彼の医術をもってしても仏教に敵対するという病は治し難かったのである。
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