花言葉を俺は知らない

李林檎

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手がかり

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一気に緊張が解けたような疲れが押し寄せてきた。

「終わりました」

「もう?」

意外と早く終わり、驚いてミゼラを見ると身体が大きく揺れて倒れそうになりハイドが支える。
何分ぐらいしか経ってないと思うがハイド達は酷く疲れていた。
キョロキョロ周りを見ると何も変わってはいない。
ミゼラを見ると不思議そうな顔をして首を傾げていた。

今回はハイドも疲れを感じていたから手応えがあったが…もしかして、また失敗か?

これで会えなかったらもう一生会えない気がして冷や汗を流す。
ミゼラは儀式の力のせいか床に落ちている緑色だったのに黒ずんだ葉を片付けていた。

「死んだ方が行くのが黄泉の国です、私は葉を通して黄泉の国を見ました」

「…そんな事が出来るのですか?」

「えぇ、それが巫女の役目の一つです…しかし、貴方の会いたい方は貴方の想いに反応していません」

「…それって、会いたくないという事ですか?」

「……そうですね、想いを無視する事も出来ます…全く貴方に対して想いは感じていないようでした」

ミゼラは自分が感じた事を言っているのだと分かっている。
それでもハイドにはショックだった…瞬はハイドを何とも思っていないと言われたようなものだからだ。
今まで一緒に過ごしていた時間はなんだったのか、ハイドの独りよがりだったのか。

もう未練がなくて瞬は応えないとなると…成仏したという事か?

…じゃあ、もう瞬には二度と会う事が出来ないのか?

何もかもが遅すぎたのだろうか…ハイドは絶望して膝を床に付いて崩れた。

「アイツは、成仏したんでしょうか」

「その方との関係や何故死んでしまったのかを教えて下さい」

ハイドは瞬とは恋人同士で、ハーレー国の騎士に殺された事を話した。
まだ婚約破棄していないのに恋人の話をしたら失礼だろうかと思っていたが、やはり原因は知りたい。
今のハイドを婚約者としてじゃなく霊媒を必要とするお客様ぐらいにしか思ってないのかミゼラからは何の感情もない。

あの絶望的な光景が思い出されて拳を握りしめた。
ミゼラは痛みに共感して瞳を閉じて考えていて、やがてこちらを見た。

ミゼラに瞬が殺された事や恋人だった事を話して、ミゼラは首を横に振った。

「…成仏の可能性は低いと思います、殺された霊は病気や寿命で死んだ方より未練が強いです…それに貴方がその方にとても執着しているように感じます、そんな貴方を置いて成仏出来る恋人はまずいないと思いますよ」

「じゃあ、何故俺に会いに来ないんですか?」

「愛しい者同士なら喧嘩別れをしても、何も感じなくなるとは思えません」

「では、他になにか…」

「そもそも黄泉の国にいないとなれば話は別です」

「……どういう事ですか?」

「生きている、可能性です」

瞬が生きている?…そんな筈はない、絶対にありえない。

だって瞬の死体を見たし、何度も何度も生死の確認をした。
その度に言葉にならない恐怖と絶望を味わった。

そんな筈はないとミゼラに言いかけて口を閉じる。

一言、勝手な事を言わないでくれと言えば済む。

しかし、それにしては心当たりがいくつかあった。

『目の前に瞬がいるのに諦めるバカが何処にいる!?俺は絶対に諦めない!瞬が再び死んだ時のために地獄で待っている!!そしたら今度こそ…』

ロミオの言葉、ずっと瞬の死体の事を言ってると思っていた。
しかしもしロミオが瞬に会っていたら再び死ぬ意味も分かってくる。
都合のいい事だとは思う、頭の可笑しい奴の言葉を鵜呑みにするなんて…

それに森であったあの青年は瞬と瓜二つだと感じた。
瞬なのではないかと思ったが確証はなかった。
そう、ミゼラに霊媒してもらうまでは…そんな奇跡みたいな事…

…まさかと思い、ミゼラに希望の眼差しを向ける。

「ミゼラ様、もし生きてるとして…別の人の身体になる事はあるんですか?」

「…転生はあります、その方が亡くなって一年なら今は生まれたばかりの赤ん坊ですか」

「…大人の姿になっているって事は…」

「例外を知らないので何とも…」

例外がない、それはつまり…可能性がない訳ではないという事か。
だとしたら、自分でその可能性を探すしかない。

ハイドは静かにミゼラに向かって頭を下げた。
今まで薄っぺらい事しか言わなかった霊媒師の中で、彼女は本物だと確信した。
瞬に会えなかったが、新たな可能性を教えてくれた。
精霊の森で会った彼をまずは探す、話していないからなにか分かるかもしれない。

彼が瞬でなくても、瞬の事をなにか知っているかもしれない。

そして重要な婚約破棄の事をミゼラに話そうと思った。
はっきりと終わらせよう、俺の一年前から止まった時間をゆっくり動かすために…一歩ずつ踏み出そう。
しかし、今のミゼラは霊媒で疲れているから休ませようと応接室のドアを開けてリチャードを呼んだ。

リチャードは聞き耳を立てている事にハイドが気付いていた事に驚いていた。
長年一緒にいるんだ、リチャードの性格は分かっている。

リチャードにメイドを呼ぶように頼んでミゼラを空いている寝室で休ませる事にした。
さすがに男に運ばれるのはミゼラだって嫌だろう。

すぐにメイドが二人やって来て、ミゼラを連れて応接室を出た。

応接室にはハイドとリチャードだけになった。

「よく聞こえなかったけど、何話してたんだ?」

「瞬の話だ」

「えっ!?瞬様来たのか!?」

ハイドは静かに首を横に振り、リチャードは肩を落とした。
でも、瞬はもしかしたら別人になっているかもしれない。

リチャードには絶対に笑われるから言わない。

ー姿形が変わっても、俺が君を愛しているのは変わらないー

ー必ず君を見つけ出す、そう心に誓ったー
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