花言葉を俺は知らない

李林檎

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ハイドとロイス

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ーハイドsideー

昨日はよく寝たから疲れが治ったと思ったら頭が痛くなった。

上を見上げると星空が輝いていて、広場のベンチに座る。

何故、外にいるのか分からない…仕事を終えて部屋に戻ろうとしていた筈だ。
最近はカーニバルの準備でこうして記憶がなくなる事はなくなったと思ったのに…

それに今日は特に酷い、頭が割れるように痛い。
胸も苦しくて切なくて…まるで、瞬を失ったあの時のようだ。
瞬はいる、生きているのに…なにが悲しいのか分からない。

息を吐くと、胸の痛みはそのままだが頭の痛みは和らいでいく。
まだしんどくて、しばらくベンチで休もう。

「あれ、こんなところで何してるんだ?」

声が聞こえて、視線だけ向けると暗闇の中街灯に照らされた人物の顔が見えた。

騎士団長になってから、忙しくてあまり顔を合わせていなかった弟のロイスだ。
士官学校の帰りなのか、制服姿だった。
こんな時間まで残っていたなんて驚いた。

ロイスは家族にだけ見せる、柔らかい表情を向けていた。
ハイドは今疲れていて素っ気ない態度しか出来なかった。

「……あぁ」

「今、仕事の帰り?」

「まぁ…そんなところだ」

「そういえば昨日倒れたって聞いたけど、大丈夫だった?」

リチャードめ、ロイスにまで言ったのかと空を見上げて居ない奴を思い浮かべて睨む。
「大丈夫だ」と言うと、ロイスはそれ以上言わなかった。

学生は早く帰れと言いたいが、その前にロイスはハイドの隣に座った。

そういえば、今朝…リチャードが街でロイスを見たと言っていた。
空を見上げて誰かと花火を楽しんでいたらしい。
リチャードはロイスの恋人だと言うが、ロイス本人に聞いたわけではないから断言するわけにもいかない。
それにロイスの性格からして、あまりプライベートの話はしない方がいいだろう。

「兄さん、瞬さんのお墓参り行ってる?」

「当たり前だろ、街を出る前は必ず行ってる」

「そっか、この前瞬さんの友人って人と瞬さんのお墓の前で会ったんだ」

「…瞬の友達?」

瞬は城の中に閉じこもっていたわけではない、街の人達にも慕われていた。
だから、瞬が死んで悲しんだ人も少なくなかった。
だから友達くらい居て、お墓参りに来るだろうと思った。

それより、ロイスが瞬のお墓参りに行っていた事に驚いた。
ロイスに直接瞬を会わせた事はなかった。

瞬という恋人がいる事を話して、会わせようとしたがロイスが断った。
「遠くから見ているだけでいい、直接会うのは結婚式がいいな」とよく分からない事を言っていた。
遠くで見るより、会って話した方がいい筈なのに変だなと思った。

「ロイスー!!ローイスー!!」

「呼んでるぞ」

「知らない人だからほっといていい」

知らない人って、明らかにロイスの名前を言ってこちらに向かって走ってくるんだが…

スカーレットは息を切らしながらロイスの名前をまだ呼んでいた。
同じ制服だ、士官学校のロイスの知り合いだろう。

ロイスは鬱陶しそうにスカーレットを手で軽く追い払っていた。
いつもの事なのかヘラヘラと笑うスカーレットに奇妙な関係だなと思った。

スカーレットはハイドの存在に今更ながら気付いたのか、背筋をまっすぐ伸ばしていた。

「は、ハイド様!?」

「はじめまして」

「兄さん、こんなのに挨拶しなくていいから」

「ほ、本物だ…ロイスって本当にハイド様の弟だったんだ」

「あ?」

ロイスはスカーレットを睨みつけていて、ハ今にも掴みかかりそうなところをハイドが止める。
こういう反応初めてではないから珍しくもない。

今はちょっと体調が優れないからロイスの友人に構ってあげる事は難しいが、ロイスが裏表なく感情むき出しで怒っている姿を見ると良い友人に巡り会えたんだと思う。
昔のロイスは、昔のハイドとは言わなくても兄であるハイドにしか懐かなかった。

常に一歩引いた状態で遠くから眺めている。

そんなロイスがここまで誰かと会話をするのを見た事がない。
もしかしたら、リチャードが見たロイスの恋人って彼なのかと思った。

これは、恋人なのだろうか…そう言う愛はあるだろうがハイドには分からなかった。

ロイスに友人が迎えに来たみたいだから、ロイスの頭を撫でてベンチから立った。

「じゃあな、ロイス」

「あっ、うん…」

「お前が騎士団に入るのを楽しみにしてるからな」

「うん!」
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