花言葉を俺は知らない

李林檎

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ロイスの兄

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ロイスはさっきこそ不審そうな顔をしていたが、敵意を露わにするように睨まれた。

なにか気に触るような事を言ってしまったのだろうか。

「好き?瞬さんを?」

「えっ…ちがっ」

「瞬さんを好きならやめとけよ、瞬さんと兄さんは付き合ってるんだから」

「付き合ってるって…でも、今は婚約者がいるし」

「何も知らないくせに!!」

ロイスに胸ぐらを掴まれて、驚いた。
スカーレットはロイスを止めようと、ロイスの腕を掴んだがすぐに振り払われた。

ロイスは自分の兄が浮気したと言われたと思い込んでいるのだろうか。
そうじゃなくて、瞬が死んだ後の話をしている。
恋人が死ねば関係ないだろうと思った。

そう言ってもイノリの言葉をロイスは全く聞いていなかった。

「何処で婚約の話を聞いたか知らないが、兄さんはちゃんと婚約破棄したんだ!」

「……えっ、破棄?」

そんな話、聞いていなかった…婚約破棄って本当?
だとしたら、いったいなにに嫉妬していたんだろう。

言いたくなさそうだったが、ハイドの汚名を晴らすために嫌々話してくれた。

ロイスは両親からハイドが婚約する話を聞いていた。
ハイドには恋人がいる事を知っていたから、最初はロイスも驚いていた。
そして、すぐにハイドが実家に帰ってきた。
ただいまと言う前にハイドは両親に婚約破棄を伝えた。

「結婚したいほどに好きな人がいる」と言って、両親には申し訳ないと頭を下げていた。
両親に許してもらって、ハイドは自分で婚約者に話をつけると言っていた。

「兄さんは、瞬さんを本当に愛してるんだ…瞬さんがいなくたって、兄さんの中で瞬さんの愛は絶対なんだ…だから諦めて」

ロイスがそこで言葉を止めて、イノリを見て驚いていた。

何も喋らず、静かに涙を流していた。
ハイドが瞬を愛していたのは分かっていた。
でも、婚約破棄の事は知らなかった。
イノリは、ハイドがずっと死んだ人を想っているなんて思わなかった。

同じ気持ち、そう思っていていいのだろうか。

早くハイドに会いたい、ここにいるって教えたい。

「早く帰ろう!」

「兄さんになにかしたら、許さないからな」

「酷い事なんてしないよ!」

すっかり、ロイスに嫌われてしまったようだ。

ハイドに会いたい、それだけだった。

三人で再び歩き出して、空気は頂上を降りる時よりもギスギスしていた。
主にイノリとロイスが……

さっきまでスカーレットがはしゃいでいたが、すっかり黙ってしまっていた。
魔物山を降りると、朝日が眩しかった。

「お兄さん、今日は手伝ってくれてありがとう」

「いいよ、俺も聞きたい事が聞けたから」

「………」

ロイスは無言でイノリを睨んでいる。

スカーレットは「ロイスを探すの手伝ってくれたんだし、ロイスもお礼…」と言っていたから、イノリは大丈夫だと断った。
ロイスを怒らせてしまったのは自分で、無理に言う事ではない。

正直嬉しかった、ロイスも瞬を認めてくれたという事だから…
それが分かっただけで、充分だ。

早くハイドに会いたいが、ハイドは騎士団長でどうやって会えばいいか分からない。
イブに頼んで見ようかなと思っていた。

街に戻ってきて、スカーレットとロイスは頂上で手にしていた美し草を先生に届けるために別れた。

イノリは思ったより長く休んでしまった店に戻った。

まだ朝早くて、イノリは店を開けようかどうしようか考えていた。
すぐにハイドに会いたい気持ちが高まっていく。

楽しみにしていた人には悪いけど、もう少し休もう…今日の分のお菓子のストックがない。

家の中に入って、敷いたままだった布団に倒れ込んだ。
寝ないで二日経ったんだ、眠気が限界だった。
そのまま気絶するように眠りについた。

起きたらイブを探そう…そして…そして…

ハイドさん…






ーハイドsideー

「ハイド、また行くのか?」

「これ以上放置にするわけにもいかないし、向こうから招待状が来たからな」

「婚約破棄なんてしないで婚約者と結婚しちゃえばいいのに」

「何度も言ってるだろ、俺には瞬しかいないんだ」

「…ったく、なんでそんなにお前は」

リチャードがなにか言おうとしたが、飲み込んでいた。

ハイドはこれから再びヴァイデル国に訪れる事になっていた。
婚約破棄を言いに行く事が目的だが、招待状をハイド宛に届いたからそれも理由だった。
招待状とはいえ、内容からして決していいものではなく…ミゼラからのSOSだった。

ヴァイデル国にハーレー国の亡霊がいた、きっと同盟国のイズレイン帝国の騎士団長に用があるのだろう。
ミゼラはヴァイデル国の王族だから不自然ではない。

リチャードは呆れながらも、ハイドの意思を尊重した。
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