55 / 64
ロイスの兄
しおりを挟む
ロイスはさっきこそ不審そうな顔をしていたが、敵意を露わにするように睨まれた。
なにか気に触るような事を言ってしまったのだろうか。
「好き?瞬さんを?」
「えっ…ちがっ」
「瞬さんを好きならやめとけよ、瞬さんと兄さんは付き合ってるんだから」
「付き合ってるって…でも、今は婚約者がいるし」
「何も知らないくせに!!」
ロイスに胸ぐらを掴まれて、驚いた。
スカーレットはロイスを止めようと、ロイスの腕を掴んだがすぐに振り払われた。
ロイスは自分の兄が浮気したと言われたと思い込んでいるのだろうか。
そうじゃなくて、瞬が死んだ後の話をしている。
恋人が死ねば関係ないだろうと思った。
そう言ってもイノリの言葉をロイスは全く聞いていなかった。
「何処で婚約の話を聞いたか知らないが、兄さんはちゃんと婚約破棄したんだ!」
「……えっ、破棄?」
そんな話、聞いていなかった…婚約破棄って本当?
だとしたら、いったいなにに嫉妬していたんだろう。
言いたくなさそうだったが、ハイドの汚名を晴らすために嫌々話してくれた。
ロイスは両親からハイドが婚約する話を聞いていた。
ハイドには恋人がいる事を知っていたから、最初はロイスも驚いていた。
そして、すぐにハイドが実家に帰ってきた。
ただいまと言う前にハイドは両親に婚約破棄を伝えた。
「結婚したいほどに好きな人がいる」と言って、両親には申し訳ないと頭を下げていた。
両親に許してもらって、ハイドは自分で婚約者に話をつけると言っていた。
「兄さんは、瞬さんを本当に愛してるんだ…瞬さんがいなくたって、兄さんの中で瞬さんの愛は絶対なんだ…だから諦めて」
ロイスがそこで言葉を止めて、イノリを見て驚いていた。
何も喋らず、静かに涙を流していた。
ハイドが瞬を愛していたのは分かっていた。
でも、婚約破棄の事は知らなかった。
イノリは、ハイドがずっと死んだ人を想っているなんて思わなかった。
同じ気持ち、そう思っていていいのだろうか。
早くハイドに会いたい、ここにいるって教えたい。
「早く帰ろう!」
「兄さんになにかしたら、許さないからな」
「酷い事なんてしないよ!」
すっかり、ロイスに嫌われてしまったようだ。
ハイドに会いたい、それだけだった。
三人で再び歩き出して、空気は頂上を降りる時よりもギスギスしていた。
主にイノリとロイスが……
さっきまでスカーレットがはしゃいでいたが、すっかり黙ってしまっていた。
魔物山を降りると、朝日が眩しかった。
「お兄さん、今日は手伝ってくれてありがとう」
「いいよ、俺も聞きたい事が聞けたから」
「………」
ロイスは無言でイノリを睨んでいる。
スカーレットは「ロイスを探すの手伝ってくれたんだし、ロイスもお礼…」と言っていたから、イノリは大丈夫だと断った。
ロイスを怒らせてしまったのは自分で、無理に言う事ではない。
正直嬉しかった、ロイスも瞬を認めてくれたという事だから…
それが分かっただけで、充分だ。
早くハイドに会いたいが、ハイドは騎士団長でどうやって会えばいいか分からない。
イブに頼んで見ようかなと思っていた。
街に戻ってきて、スカーレットとロイスは頂上で手にしていた美し草を先生に届けるために別れた。
イノリは思ったより長く休んでしまった店に戻った。
まだ朝早くて、イノリは店を開けようかどうしようか考えていた。
すぐにハイドに会いたい気持ちが高まっていく。
楽しみにしていた人には悪いけど、もう少し休もう…今日の分のお菓子のストックがない。
家の中に入って、敷いたままだった布団に倒れ込んだ。
寝ないで二日経ったんだ、眠気が限界だった。
そのまま気絶するように眠りについた。
起きたらイブを探そう…そして…そして…
ハイドさん…
ーハイドsideー
「ハイド、また行くのか?」
「これ以上放置にするわけにもいかないし、向こうから招待状が来たからな」
「婚約破棄なんてしないで婚約者と結婚しちゃえばいいのに」
「何度も言ってるだろ、俺には瞬しかいないんだ」
「…ったく、なんでそんなにお前は」
リチャードがなにか言おうとしたが、飲み込んでいた。
ハイドはこれから再びヴァイデル国に訪れる事になっていた。
婚約破棄を言いに行く事が目的だが、招待状をハイド宛に届いたからそれも理由だった。
招待状とはいえ、内容からして決していいものではなく…ミゼラからのSOSだった。
ヴァイデル国にハーレー国の亡霊がいた、きっと同盟国のイズレイン帝国の騎士団長に用があるのだろう。
ミゼラはヴァイデル国の王族だから不自然ではない。
リチャードは呆れながらも、ハイドの意思を尊重した。
なにか気に触るような事を言ってしまったのだろうか。
「好き?瞬さんを?」
「えっ…ちがっ」
「瞬さんを好きならやめとけよ、瞬さんと兄さんは付き合ってるんだから」
「付き合ってるって…でも、今は婚約者がいるし」
「何も知らないくせに!!」
ロイスに胸ぐらを掴まれて、驚いた。
スカーレットはロイスを止めようと、ロイスの腕を掴んだがすぐに振り払われた。
ロイスは自分の兄が浮気したと言われたと思い込んでいるのだろうか。
そうじゃなくて、瞬が死んだ後の話をしている。
恋人が死ねば関係ないだろうと思った。
そう言ってもイノリの言葉をロイスは全く聞いていなかった。
「何処で婚約の話を聞いたか知らないが、兄さんはちゃんと婚約破棄したんだ!」
「……えっ、破棄?」
そんな話、聞いていなかった…婚約破棄って本当?
だとしたら、いったいなにに嫉妬していたんだろう。
言いたくなさそうだったが、ハイドの汚名を晴らすために嫌々話してくれた。
ロイスは両親からハイドが婚約する話を聞いていた。
ハイドには恋人がいる事を知っていたから、最初はロイスも驚いていた。
そして、すぐにハイドが実家に帰ってきた。
ただいまと言う前にハイドは両親に婚約破棄を伝えた。
「結婚したいほどに好きな人がいる」と言って、両親には申し訳ないと頭を下げていた。
両親に許してもらって、ハイドは自分で婚約者に話をつけると言っていた。
「兄さんは、瞬さんを本当に愛してるんだ…瞬さんがいなくたって、兄さんの中で瞬さんの愛は絶対なんだ…だから諦めて」
ロイスがそこで言葉を止めて、イノリを見て驚いていた。
何も喋らず、静かに涙を流していた。
ハイドが瞬を愛していたのは分かっていた。
でも、婚約破棄の事は知らなかった。
イノリは、ハイドがずっと死んだ人を想っているなんて思わなかった。
同じ気持ち、そう思っていていいのだろうか。
早くハイドに会いたい、ここにいるって教えたい。
「早く帰ろう!」
「兄さんになにかしたら、許さないからな」
「酷い事なんてしないよ!」
すっかり、ロイスに嫌われてしまったようだ。
ハイドに会いたい、それだけだった。
三人で再び歩き出して、空気は頂上を降りる時よりもギスギスしていた。
主にイノリとロイスが……
さっきまでスカーレットがはしゃいでいたが、すっかり黙ってしまっていた。
魔物山を降りると、朝日が眩しかった。
「お兄さん、今日は手伝ってくれてありがとう」
「いいよ、俺も聞きたい事が聞けたから」
「………」
ロイスは無言でイノリを睨んでいる。
スカーレットは「ロイスを探すの手伝ってくれたんだし、ロイスもお礼…」と言っていたから、イノリは大丈夫だと断った。
ロイスを怒らせてしまったのは自分で、無理に言う事ではない。
正直嬉しかった、ロイスも瞬を認めてくれたという事だから…
それが分かっただけで、充分だ。
早くハイドに会いたいが、ハイドは騎士団長でどうやって会えばいいか分からない。
イブに頼んで見ようかなと思っていた。
街に戻ってきて、スカーレットとロイスは頂上で手にしていた美し草を先生に届けるために別れた。
イノリは思ったより長く休んでしまった店に戻った。
まだ朝早くて、イノリは店を開けようかどうしようか考えていた。
すぐにハイドに会いたい気持ちが高まっていく。
楽しみにしていた人には悪いけど、もう少し休もう…今日の分のお菓子のストックがない。
家の中に入って、敷いたままだった布団に倒れ込んだ。
寝ないで二日経ったんだ、眠気が限界だった。
そのまま気絶するように眠りについた。
起きたらイブを探そう…そして…そして…
ハイドさん…
ーハイドsideー
「ハイド、また行くのか?」
「これ以上放置にするわけにもいかないし、向こうから招待状が来たからな」
「婚約破棄なんてしないで婚約者と結婚しちゃえばいいのに」
「何度も言ってるだろ、俺には瞬しかいないんだ」
「…ったく、なんでそんなにお前は」
リチャードがなにか言おうとしたが、飲み込んでいた。
ハイドはこれから再びヴァイデル国に訪れる事になっていた。
婚約破棄を言いに行く事が目的だが、招待状をハイド宛に届いたからそれも理由だった。
招待状とはいえ、内容からして決していいものではなく…ミゼラからのSOSだった。
ヴァイデル国にハーレー国の亡霊がいた、きっと同盟国のイズレイン帝国の騎士団長に用があるのだろう。
ミゼラはヴァイデル国の王族だから不自然ではない。
リチャードは呆れながらも、ハイドの意思を尊重した。
11
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
発情薬
寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。
製薬会社で開発された、通称『発情薬』。
業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。
社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる