花言葉を俺は知らない

李林檎

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ハイドの行方

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翌日、目を覚ましたのは夕方くらいの時間だった。
かなり寝てしまっていて、ボーッとしながら起き上がる。

そうだ、イブを探さないと…ノロノロと起き上がって洗面所の鏡に映る自分の姿を見つめる。
神がボサボサで、眠たそうな目をしている自分と睨めっこする。

大きな欠伸をして、髪を整えてスッキリするために顔を洗う。

よし、いつもの自分だ。

そのまま寝たからシワになった服を脱いで、シャワーを浴びる事にした。
いつ何処でハイドに出会えるか分からないから、ちゃんと身だしなみはしとかないと…

「これでよし」

新しい服に着替えて、気持ちを切り替えて家を出た。
すると、店の前でしゃがんでいる人がいた。
あの小さな身体はイブだろう。

イブには励まされたり、いろいろと助けてもらった…感謝してもしきれない。

「イブくん」と言うと、イブは伏せていた顔を上げた。
イノリと目が合って、とても驚いた顔をしていた。

「……」

「ずっと待ってたの?」

「……」

「えっと、どうしたの?」

「なんか、雰囲気変わった?」

自分では自覚がなくて、イブに言われてもいまいちピンとこなかった。
明るくなったと言われて、それはきっとロイスとスカーレットのおかげだろうなと思った。
二人のおかげで、ハイドの愛を…守る強さを教えてくれた。

後は本人と直接会うだけだ。
会って話して、そして今後どうするのか考えよう……今度は一人じゃなくて、二人で…

イノリは迷いのないまっすぐな瞳でイブを見つめていた。

「イブくん、ハイドさんに会いたいんだけど」

「…あー、その…ハイド様が一人になる時探してたんだけどずっとリチャードがくっ付いてて無理みたい」

「いいよ、一緒でも…リチャードさんにも聞いてほしいから」

リチャードはハイドの親友、だからこそイノリの…瞬の…今の気持ちを知ってほしい。
別れるなんて手紙、本人と話し合っていないのに出したくない。
もう、すれ違いたくない。

イノリの気持ちは揺るがない…しかし、イブは困っていた。
ハイドとリチャードが一緒にいるだけが問題ではないのだろうか。
イノリも不安になり、イブの言葉を聞いた。

「…ハイドさん、実は昨日からイズレイン帝国から出てて…」

「……え?」

「リチャードは行き先教えてくれないし」

そう言ったイブは拗ねたような感じで、ため息を吐いた。

今、ハイドはこの街にいない…それだけを聞いてイノリは肩を落とした。
実はイブがここに来た理由はハイドの話ではなかった。

イノリも明日から仕事でイズレイン帝国を出るそうだ。
しかも、しばらくは帰ってこれないからお別れを言いに来てくれたらしい。

イブになにか力になりたい、カップケーキを作って明日見送りに行くと伝えた。
でもイブは首を横に振った。

「いいよ見送りなんて、それより…これからどうする気?ハイド様はいつ帰ってくるか分からないんだよ」

「…待ってるよ」

「無駄な時間を過ごすの?」

「だって、俺にはハイドさんが何処にいるのか分からないし」

ハイドの行方を知っているのはきっとリチャードだけだ。
ハイドはリチャードを連れていかなかったそうだ。
リチャードがイズレイン帝国を離れるとまたハーレー国の生き残りが街にやって来るかもしれない。
だからリチャードにイズレイン帝国を守るように言われたとイブは言っていた。

リチャード自身は不満そうだったみたいだけど…

リチャードが街にいても、イブが教えてくれなかったハイドの情報を教えてくれるだろうか。
いや、可能性はかなり低い…ゼロに近いだろう。

だったら、帰りを待つしか出来ない。

「あの、さ…もし、良かったら僕と一緒に行く?」

「え?何処に?」

「ラウラの街っていう小さな街、僕達騎士は仕事だけど果物とか美味しい街だよ」

「ハイド様をずっと待ってても仕方ないし、気分転換にどう?」と言われた。

イノリはイズレイン帝国の外というと、精霊の森や魔物山しか行った事がなく他の街は一つも知らなかった。
確かに行ってみたい、この街で手に入らない食材もあるかもしれない。
ここに居ても、ハイドはしばらく帰って来ないだろう。

イブは帰りたくなったら帰ればいいからと言っていた。
イブは仕事だから、きっと帰りは一人だろう。

「そうそう、恋の果物も豊富にあるんだって」

「恋の…本当!?」

「う、ん…名産地なんだって有名な話だよ」

きっと精霊の森で取れるものとは違うだろうが興味があった。
いっぱい買えば新作のお菓子になれるし、ハイドは自然の甘さなら平気だから食べてくれるかもしれない。

イノリはイブに「連れてって!」とお願いした。
イノリの必死さに驚きつつもイブは頷いてくれた。

ラウラの街はとても暑い砂漠地帯にあるらしく、当日は肌をなるべく見せない格好で来てと言われた。
肌が見えると、火傷をしてしまう恐れがあり…特に今の季節は暑いらしい。

「瞬はラウラの街でなにかしたいの?」

「いっぱい果物を買って新作のお菓子に使うんだ」

「…瞬って頭の中お菓子で出来てるわけ?」

「そ、そんな事ないよ」

「まぁ、ラウラの街って遊ぶところがないから買い物くらいしか楽しみはないんだけどね」

そう言ってイブは苦笑いをしていた。

イブに言われた通り、砂漠地帯で必要な物を買い出しして…邪魔にならない程度の量をカバンに詰める。
旅行なんて行った事なかったな、元の世界もそういうところに行く家族ではなかった。

気晴らしにとイブが誘ってくれたんだ、楽しまなくては損だ。

ハイドは今何処に居るのだろうか、一人でいるとそればかり気にしてしまう。
焦っても仕方ないのに気になってしまう。

上手くタイミングが合わないな、もっと早く魔物山から帰っていれば良かった。
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