花言葉を俺は知らない

李林檎

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ヴァイデル国の用心棒

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ーハイドsideー

パーティーが始まり、外から騒がしい声が聞こえる。

人質がいる部屋の騎士達は、見張りを任されているからパーティー会場には行かない。
武力がないヴァイデル国の王妃を殺す作戦だ、滅多な事では失敗しないだろうという考えだ。

とはいえ、ヴァイデル国がハーレー国のものになる記念すべき日を見たいと思うのは愛国心が強いハーレー国民なら当然思う事だ。
だから人質の見張りが少数になるのは仕方ないが、少人数でもヴァイデル国の王族には女しかいないから負ける事はない。
呼んだ婚約者の男は顔こそ見えないが、国に入れたという事は武器を所有していないから一般人に負けるハーレー国の騎士ではないと自信満々だった。

三人の騎士の真ん中に、肩まで長い髪を緩くカールした知的な美女が縄で拘束されていた。
ヴァイデル国がハーレー国のものになった暁には是非ともお近づきになりたいが、気が強いのか睨みつけていた。

強気な女こそ燃えるとニヤニヤと騎士は美女を見つめていた。

コンコンとドアがノックされて、騎士の一人が部屋を出てドアの前に立っていたメイド服の女性を部屋に入れた。

どうやら食事を運んできたらしく、ワゴンを部屋の真ん中に止めた。

メイド服の女性と拘束されている美女は目が合い、それが誰なのか気付いた。

料理をテーブルに並べて、騎士達は美味しそうな料理に釘付けだった。

料理を全てテーブルに置き終わり、メイドはワゴンを引いて部屋を出ようとしていた。
その時、ワゴンから大きな音を立てて何かが出てきた。

ワゴンの下のレースのカーテンに隠れていたハイドは、一番近くにいた騎士に向かってワゴンを蹴り飛ばした。
短い悲鳴を上げて、飛んできたワゴンにぶつかり砂になって消えた。

「やっぱり亡霊だったか…」

「き、貴様!!誰だ!!」

「…っ」

ハイドは驚きが隠せない騎士達の言葉に答える事はせず、砂になった騎士の剣を引き抜いた。
身体は消えても武器までは消えないようで良かった。

メイド服を着たミゼラは拘束されている姉を安全な場所に避難してハイドは剣を振り、残りの騎士達を冥界に送った。
全て砂になり、剣を持ちハイドは部屋を出た。

部屋には見張りの騎士が一人いる、仲間を呼ぶ前に倒したから騒ぎには気付いていないようだ。
物音にも気付かないなんて、随分舐めた警護をしていると感じた。

ドアを思いっきり開けて、見張りを始末してミゼラ達に振り返った。

「ミゼラ様の部屋に避難して下さい」

「分かりました、母様を頼みます」

そう言ってミゼラと姉は客室から出ていった。

人質が居なくなったから、動きやすくなった。
これでヴァイデル国の王妃を守ればハーレー国の作戦は失敗に終わる。

二つの国だけじゃなく、イズレイン国の名誉も掛かっている。
ハーレー国は絶対に許さない、イズレイン国の騎士として亡霊だろうがなんだろうが戦う。

ハイドは会場に向かって走っていく、正面から行ったら間に合わない。
王妃を殺す瞬間を周りに見せる事が目的なら、地図で見たパーティー会場の見取り図を思い出す。
確かあそこに大きなステージがあった、あそこの天井には確か道があった。

記憶を頼りに、奥の部屋のドアを開ける。

中は倉庫になっていて、上には通気口があった。

後で弁償しようと思いながら、壁に掛かっていた梯子を使い上に上る。

腕を伸ばして力任せに通気口の蓋を開けて、中に入った。
ハイドの身体ギリギリの通気口を進む、もしもう一回り小さい通気口だったらパーティー会場に入るには、正面突破しかなかっただろう。

奥に光が漏れていて、あそこがパーティー会場なのだと分かる。

そして、光が漏れている通気口の蓋を覗くとヴァイデル国の王妃が見えた。
そこにハーレー国の騎士が近付いているところだった。

ギリギリのタイミングで、考えている暇はなく通気口の蓋を足で蹴りそのままステージ上に落下した。

驚き悲鳴が聞こえる中、ハイドは王妃暗殺を狙った騎士の剣を剣で受け止めた。
激しくぶつかる音が聞こえて、裏切り者の騎士を見て眉を寄せた。

「……ハイド…様」

「お前が裏切り者か」

その騎士はリチャードの部下だった男で、騎士という仕事を誇りに思っていた筈だった。
しかし、その誇りも敵国の味方するという裏切りで消えてしまったか。
せめて、騎士団長自らの手で終わらそうと剣を振り下ろした。

一瞬だけ、騎士の力が緩んだような気がしたが血を流して倒れた。

リチャードは部下を大切にしていた、聞いたらショックを受けるだろう。
共にハーレー国と戦ったというのに、何故寝返ったのかもう知る事はない。
裏切り者だ、捕まえたとしても決して口を割らないと判断して楽にさせた。

ヴァイデル国の王妃を背にして、ハーレー国の騎士の方を見た。

「貴様、何故ここにいる!?」

「ヴァイデル国に無償で用心棒をしている、というところだ」

「同じ志の騎士を殺して、反逆罪になるぞ!ハイド・ブラッド!!」

「我が国を陥れ、敵に寝返ったのなら…この男はイズレイン帝国の騎士ではない」

そう騎士に言うと、数人の騎士がステージに向かって走ってくる。
逃げる人とこちらにやって来る人達でパーティー会場はパニックになっていた。
後ろから「お母様!!」という声が聞こえて、後ろを一瞬振り返るともう一人のミゼラの姉が王妃に駆け寄っていた。

ハイドは王妃をミゼラの姉に任せて逃げる国民に混じって避難してくれとお願いした。
国民に紛れればハーレー国の騎士も王妃達を見失うだろう。
幸いパーティー会場に来ているのは貴族ばかり、派手な服を着ている。

ハイドは目の前の男に向かって剣を向けていた。

「アレフ様」と周りに言われている鎧姿の男。
顔は鎧で見えないが、本物のアレフを見た事があるハイドは分かっていた。

こんな殺気も憎悪も薄い男があの男なわけがない。

ハーレー国の王であるアレフは、ハイドでも呑まれそうになるほどの強い殺気と人を跪かせるオーラをまとっていた。
ハイドが倒したアレフが、他の騎士のように亡霊になっているとしたらおぞましい事だ。
二度と戦いたくないと思うほど、ハイドにとってもギリギリの戦いだった。

剣を振り上げて鎧に当たるが、安物の剣では傷一つ付けられない。
ハイドの本来の武器なら鎧くらい粉々に出来るが今はハーレー国の騎士が残した剣だった。

視界の端に別のハーレー国の騎士が見えて、大砲を担いでいた。
まさか、会場ごと消し飛ばす気なのかと驚いた。
仲間が死んでも目的を達成出来ればいい……ハーレー国が考えそうな事だ。
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感想 11

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みんなの感想(11件)

ひら
2022.07.15 ひら

更新をきっかけに最初から読み直しました!何度読んでも変わらず面白かったです!
次のお話も楽しみにしてます (* ´ ▽ ` *)

解除
まこと
2021.10.03 まこと

切なくてとても好きな作品です…!!
続き楽しみにしてます…♡

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無糸
2021.07.29 無糸

うぅ……最高過ぎて一気読みしてしまいました!
続き楽しみにしてます!

解除

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