花言葉を俺は知らない

李林檎

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出会い

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早川はやかわしゅんが異世界にやってきたのは1年前の事だった。
声に誘われて歩いていたら、気付いたらそこは知らない世界が広がっていた。
綺麗なアイリスの花畑の真ん中にぽつんと立っていた。

ボーッと青い空を眺めていたら草を掻き分ける音が聞こえた。
状況が読み込めてなかった瞬はそちらを見て目を見開いた。

まるで囚われてしまったかのように…一瞬で目を奪われたのだった。

青みがある銀色の髪にどんな芸能人も足元に及ばないほどの美しい容姿、吸い込まれるような赤い瞳。
こんな綺麗な人が存在するのかと驚いて、開いた口が塞がらなかった。
彼は異国の言葉を話した…瞬には理解出来なくて落ち込んだ。
理解出来たらきっと言葉も美しいのだろう、だって声がとても美しい。

青年は戸惑う瞬を見て、何人か言葉が通じない人の行動を知っていた青年はすぐに分かり、瞬に手を差し伸ばした。
瞬は迷ったが、こんなところで一人でいても仕方ないと思い青年の手を掴んだ。
それに青年はさっきまで無表情だったのにとても綺麗な笑みを向けていた。

青年に付いて行くまま歩いていると、フィクションの中でしか見たことがない城下町が見えた。
出店の前で大きな声で呼び込む人達や剣を腰に下げた人が街の人と話していた。

賑やかな街の人達を見つめて、全てが新鮮に感じて瞬は目を輝かせた。
それを青年が愛しげに見ていた事は夢中で見ていた瞬は気付かなかった。
城下町の人達は青年を見て頭を下げたりなにか話しかけていた。

青年は一人一人に向き合い話していて瞬は青年がとても慕われ優しい人なんだと、知らない場所に来たばかりで不安だったが…この人なら信頼出来るかも…と思った。
元の世界にいた時はこんな感情にならなかった。
瞬は周りにも両親にもいらない子だと言われていた。
だからか大人しく目立たない容姿で空気のような存在だった。

この世界に来たきっかけになったあの時も生きる気力がなかった。
あそこには、瞬の居場所なんて何処にもなかった。

…今思えば、これが運命の出会いで瞬の初恋だった。
瞬はまだ恋をした事がなくまだその気持ちが恋だと知らなかった。

青年が瞬を連れてきたのは城下町の中心にあるお城だった。
間近で見る迫力に驚いて固まっていると青年に優しく腕を引かれ城の中に入った。

中心にある豪華な扉が開かれて瞬が見たのは真っ白い髭がよく似合う王様だった。
青年は王様に頭を下げるから瞬も真似して頭を下げた。
言葉は分からないが王様は明るい人で笑ってくれた。
青年がなにかを言うと、王様は深く頷いてなにかを言っていた。

よく分からず再び青年に腕を引かれてその場を後にした。
城の中の廊下を歩いているとさっきまでメイドさんと多くすれ違ったのにこの場所は青年と同じ白い軍服の人が多く見えた。
そして一つの部屋の前で立ち止まり、青年は鍵を懐から取り出してカチッと開けた。

部屋の中に入ると、必要最低限のものしかない殺風景な部屋だった。
瞬から離れて青年は机の引き出しを探っているから、きっと青年の部屋なのだろう。
そこで取り出したのは虹色の飴が一つ入った小瓶だった。
青年は小瓶を持ち瞬のところに行き唇を親指で触れられた。
ドキドキしながら口を開ければいいのだろうかと口を開けるとコロンと小瓶の中の飴を口の中に入れられた。

甘い砂糖のような味が口の中で広がりコロコロ転がす。
美味しくてすぐになくなってしまい残念に思った。

「俺の言葉が分かるか?」

突然瞬ではない、誰かの声が聞こえて青年を見つめた。

言葉が分かるとこんなに通じるのが嬉しく感じるなんて初めてだった。
あの飴が瞬と青年を言葉で繋げてくれたのだろうか。
瞬が頷くと青年はさっきまでのクールな微笑みじゃなく、少し子供っぽく笑った。

それからベッドに二人並んで座り瞬は彼にいろいろ聞いた、この世界はディールという異世界だという事…勿論瞬がいた日本は何処にもない。
この異世界には別の世界から導かれて来る人間がいるらしく、瞬もそうだとすぐに分かったと話してくれた。
あの飴ももしも別の世界から来た人が来た時時に渡すために用意していたそうだ。

瞬は彼と最初に出会い…とても運が良かったらしい。

青年の名前はハイド・ブラッドだと名乗った。
瞬は日本で大学生だった事、声に導かれてやってきた事を隠さず話した。
ハイドは瞬の日本での出来事を一つも疑わず真剣に聞いてくれた。

それどころか「もっと瞬を知りたい」と言ってくれた。
瞬もハイドを知りたくなり、ハイドの事を聞いた。
ハイドはこの国…イズレイン帝国の王直属の騎士団長らしい。

「だからハイドさんは国民に愛されているんだね」と微笑むと頬を一撫でされた。
驚いてハイドを見るとハイドはジッと瞬を見つめていた。
ドキドキと高鳴る胸の音が聞こえない事を祈るばかりだ。

ハイドの男らしいが綺麗な形の唇がゆっくりと動いた。
その動きはとても魅力的に感じてボーッと魅入っていた。

「瞬も俺を愛してくれるか?」

一瞬愛の告白かと心臓が止まるほど驚いたが前の言葉を思い出し国民としてかと、勘違いした自分が恥ずかしくなった。
普通に考えたら分かる事なのに、なんで期待したんだろう。

自分で勘違いしただけなのに、何故かチクリと胸が痛んだ。

今日会ったばかりなのに、何故か惹かれてしまう。
ハイドには不思議な魅力がある、初めて優しくされたからかもしれないがそれだけじゃない。
真紅の瞳で見つめられると身体が縛られたように動かなくなりいろんな感情がパニックになる。

でも、この気持ちはきっと言っちゃいけないんだと本能が警告している。
瞬は秘めた気持ちを気付かれないように微笑んだ。

「異界から来た俺を国民と認めてくれるの?」

「瞬がこの世界を選んで俺の目の前に現れたならこれは運命だろう、俺が瞬を守ろう…誰からも」

そう言うのと同時にハイドは瞬を抱きしめた。
元の世界で認めてもらえなかった自分の存在を初めて認めてもらえた気がして、ハイドに顔を見せないように強く抱き締め返して静かに涙した。

ずっと、誰かの瞳に瞬という存在を映してほしかった。

たった一言でも、心の奥底に染み込んでいくのが分かる。

今の顔はぐちゃぐちゃになっているから、誰にも見せたくなかったけどハイドが離れていき離れるしかなかった。
さっきまであった温もりがなくなって、寂しい気持ちになった。

そう思うのは、ハイドにとって迷惑でしかないから隠さないといけない。
下を向いて、自分のシャツの袖で涙を擦ると手を掴まれた。

まだ見せられない顔だからとハイドに言おうとしたら、柔らかい布で涙の跡を優しく拭ってくれた。

言葉を飲み込んで何も言えなくなり、ハイドを見ている事しか出来なくなった。

「我慢しなくていい、俺の前では隠さなくていいから」

「でも、こんな顔…醜いから」

「何言ってるんだ?こんなに綺麗なのに…」

綺麗なはずはないのに、ハイドは瞬を綺麗だと言う。

その顔は、馬鹿にしたり笑ったりする顔ではなく真剣なものだった。
たとえ嘘でも何でも構わない、瞬が勝手に信じるだけで誰も迷惑しない。

ハイドの前では自分を隠さなくていいんだと思うだけで体が軽くなる。
でも、もう泣くのは止めよう…瞬も強くならないといけない。

まだ涙が出てくるが、もう大丈夫だと笑みを浮かべるとハイドも優しく微笑んでくれた。
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