花言葉を俺は知らない

李林檎

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瓜二つ

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そして数日経ったある日の事だった。

出来立ての焼き菓子を店に並べていると、来店を知らせる鈴が鳴った。
入り口を見ると派手なツンツン黒髪の青年が見えた。
この黒髪の青年はよく店に来る常連さんだ。
今は私服だが騎士の軍服の時もあるから騎士なのだろう。

イノリが知らない人だからきっと瞬が死んだ後に入ってきた人だと思った。

「いらっしゃいま…」

いつものように挨拶をしようとして固まった。

黒髪の青年だけだと思ったらもう一人いた事に気付き驚いた。
鼓動がうるさく鳴り響く、いつかこんな日が来るとは思っていた。
覚悟していた筈なのにあまりにも早すぎて心の準備が出来ていない。
手に持つ焼き菓子の袋が入ったカゴに自然と力が入る。

固まるイノリに気付かず黒髪の青年が店に入る…もう一人を引き連れて…

「マジ美味いんだよ、ここの菓子!お前も食ってみろよ!」

黒髪の青年はもう一人の青年にそう言い、もう一人の青年とイノリは目が合った。
お互い目を見開き固った。

…なんで、こんなに早くあの人に会うんだろう。

嬉しいと思う気持ちと悲しいという気持ちが胸を締め付ける。
でも向こうはイノリが瞬だと知らない筈だ。
不自然に思われないようになにか言わなきゃ、と口を開くとその前に黒髪の青年が口を開いた。

「何ボーッとしてんだよ、シヴァ」

「…え?」

それはあの人の名前ではなかった。
青みがある銀髪に美しい容姿、イノリが見間違う事はない。
…けど、黒い眼帯を右目にしている…これはなかった。

ハイド・ブラッド…イノリじゃない、瞬の大切な人。
その噂は常連客に聞いていたから知っていた。

敵国の生き残りの騎士の群れに一人で立ち向かい、無慈悲にも皆殺しをした氷の騎士。
…それを聞いた時、イノリは信じられないと思った。
だってハイドは、強くて優しくて…無駄な殺しはしない人だった。

英雄ではあるが、人々に恐れられているという。
なにが彼にそうさせたのか分からないがイノリはハイドが心配だった。
でも、一平民が騎士団長のハイドに会えるわけじゃないし正直…ハイドが別の誰かといるところを見たくなくて会いたくなかった。

そしてやっとハイドに会えたと思ったが、別人の名前だった。
…似てる人?今は私服だが黒髪の青年の知り合いなら騎士だろうがハイドにそっくりなら話題になってるだろうが聞いた事がなかった。
瞬が死んだ後に入ってきたなら知らなくて当たり前だけど…

シヴァと呼ばれた青年は黒髪の青年の言葉に金縛りが解けたようにハッと我に返り、ニッと笑った。
その笑みは氷の騎士には似つかわしくない子供っぽい笑みだった。
…どちらかと言うと、瞬といた時のハイドがたまにそんな顔をする。

だからかイノリはシヴァを見てドキドキと胸が高鳴った。

「このお店、君の?」

別人だって分かっているのにずっと聞きたかった彼の声にそっくりというか、もはや瓜二つで感情が一気に溢れてきてぽろぽろと涙を流した。
シヴァは驚きどうすればいいか黒髪の青年を見る。
彼は悪くないのに感情のコントロールが出来ない。

違うのに、ハイドにそう言われたような気がした。
頬も熱くなる。

黒髪の青年はシヴァを白い目で見ていた。

「あー、シヴァが弱いものイジメしてるー」

「してねぇよ!あー、えっと…」

泣き止まないと困らせてしまうと目を擦ろうとしたらその前にシヴァに両手で頬を包まれた。
キョトンとするイノリにシヴァの綺麗な顔が近付く。
無意識に目を閉じると目元に柔らかくて暖かい感触がしてすぐに離れた。

驚きシヴァを見ると、優しく微笑んでいた。
すぐに目元をキスされた事に気付いで全身真っ赤になった。
なんで、なんでハイドみたいな事を彼はするのだろうか。

「よかった、泣き止んだ」

その笑みはハイドと被り、懐かしく感じた。
もう涙は出ない…また困らせてしまうから…
シヴァに真っ赤な顔を見られないように下を向きシヴァの胸を軽く押す。

シヴァの後ろから黒髪の青年が「モテ男がフられる姿は面白いなぁ」と言っていた。
フるとかそういう話ではないし、近くにシヴァがいるだけで頭が沸騰するから少し距離を取りたかった。
気分を害されたかと不安でシヴァを見るとシヴァも不安そうな顔をしていた。

「突然キスしてごめんね、お詫びにこのお店の一番高いもの買うから!」

お詫びなんていらないと言おうとしたが「お詫びさせて」と真剣なシヴァの顔に言葉を飲み込んだ。
シヴァはキョロキョロ周りを見て、店の隅にあった金の招き猫を手に取る。
あれは元々店にあって置き場所に困ってお客さんを招いてくれるかな?と思って置いただけだ。
…そして売り物じゃない、欲しいならタダであげるけど…

天然なところはハイドと少し違うな。
なんか可笑しくてクスクス笑うとシヴァの頬が赤く染まった。

「貴方の食べたいお菓子を買って下さい、俺はそれが一番嬉しいです」

「…じゃあ、とびきり甘いお菓子をちょうだい」

…やはりシヴァはハイドじゃない、ハイドは甘いものが苦手だったから甘いシロップが掛かったカップケーキなんて食べない。
ちょっとだけ期待していた、ハイドかもと…
でも、別人と分かってもなんか惹かれてしまう…容姿だけじゃなく…なんというか魂が繋がったような気がする。

ハイド以外にこんな事思える人に初めて出会い何だか不思議だった。
シヴァにカップケーキを見せると目を輝かせていた…本当に甘いのが好きなんだろう。
じゃあとびきりトッピングしてサービスしよう。

「その、本当にごめん…嫌わないで」

「びっくりしただけで俺こそ失礼な態度をとってごめんなさい……また、店に来てくれますか?」

「勿論!」

シヴァが犬みたいに見えてカップケーキを渡してそう言うと顔を明るくさせたシヴァは満面の笑みを見せてイノリに手を振り、店を出た。
…また会える日を楽しみにしながらイノリは店の入り口を眺めていた。

瞬とはまた違った幸せの形だった。
お店を開き、お客さんとのんびりお話して手作りお菓子を食べてもらう。
贅沢を言うなら隣にあの人が居てくれたらきっと…

またしんみりしそうになり気分を変えて、店の掃除を始めた。






ーーー

「あ、名前聞くの忘れた」

「なんだよシヴァ、お前あの店長さんに一目惚れしたのか?」

「…んー、そうかも」

「えっ!?マジで?あんな普通顔の何処に惹かれたんだ?」

「顔じゃねーよ、なんつーか…魂が繋がっているみたいな?」

「……?」
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