アズ同盟

未瑠

文字の大きさ
7 / 23

秘密

しおりを挟む
「なぁ、ユズちゃんはなんでそんなにアズのことばっかりなの? いくら双子って言っても必死すぎじゃない?」
「確かにアズのあの美貌とあの天然さは心配になるけど、それにしたって……」

 もう夕方が早くなり、吹く風にだいぶ涼しさも感じるようになったある日、漣と朔はユズに世間話のように話しかけた。

 アズは奨と博物館へと出かけている。

 二人だけでの外出に漣と朔は激しく抗議したが、昔からよく奨と二人で行っていた場所だっただけに、結局アズの「たまには奨くんと二人でゆっくり見たいんだ」という言葉に撃沈。ただ奨の一層爽やかにみえる勝ち誇った笑顔にブチ切れ、留守番しているからなるべく早く帰ってきて欲しいと懇願し、粘り勝ち。リビングで二人揃ってアズを待っている所だった。

 いつかの放課後に自分へと向けられた質問がとうとう2人からも出てきたと、ユズは覚悟した。

 そして、そろそろこの2人にも覚悟してもらう時かもしれないと。

「……私はアズが幸せになるためなら何でもする」

 いつもの雰囲気とは違い、真剣で低い声に二人は固まる。

「アズの裸、見たことないでしょ?」
「あ、当たり前だろ、そこまでの関係じゃないって」
「そこまで許してくれねーの、ゆずちゃんのくせに」
「うん、それもそうだね。でも、体育の着替えでもプールの授業でも見たことないでしょ」
「まぁ、そう……だな」
「っていうか、着替えだってアズ同盟で周り取り囲んで、でも皆アズを中心に背中向けて着替えろって、ユズちゃんが……」
「それにどんなに暑くても薄手の長袖着てるし」
「プールは絶対ラッシュガードだし」

 二人は一様に不満げに口を突き出して言い募る。
 いつもならここで優珠からのツッコミが入るところだが、ユズは何も言っては来なかった。

「……どうしたの、ユズちゃん?」
「らしくねーな」

 下を向いたままのユズにさすがに心配になった二人。
 そんな朔と漣にユズが向き合う。

「うん。いい機会だから教えとく。もし、今後アズが君たちのどちらかを選んだとき、そういうことになってから受け付けないってなったらアズの心が傷つく。それだけはしたくない」

 その表情に二人とも押し黙る。
 ユズは自分の手が不安で震えていることに気がつく。

 怖い……。
 これでもし二人がアズから離れてしまったら……。
 でも、大事なことだから。私が言わないと。
 アズが傷つく前に……。

「私がモデルをしてるのに、アズがしてないっておかしいと思わない?」
「それは、アズがやりたくないんじゃ?」
「アズ、あんまり興味なさそうだもんな」
「ううん、違う。あのね」

 ユズは一旦言葉を切り、自分を落ち着かせるように大きく息を吸い込む。

「アズの身体には傷があるの」

 思ってもみなかった告白に朔と漣は声も出ない。

「一生消えない傷。……私のせいなの」

 固まってしまった二人を窺いながらも、ユズは一気に話しだした。

「だからモデルが出来ないの。いつも一緒にスカウトされたわ。いつも二人でいたから。だけど、アズの身体に傷があることが分かると、腕が上がりにくいことがわかるとアズだけ断られるの。素材は抜群だけどって。

 アズは私を庇って怪我をしたの。小2の夏休み、たまたま両親もナニーもお手伝いさんもいない時間だった。お昼を用意してくれていたからレンジで温めるだけだったけど、どうしても自分で素麺を作りたくて、アズは止めたけどお湯を沸かして、素麺を入れようとした時に踏み台がずれて倒れるときに鍋をひっくり返しちゃったの……。

 とっさにアズが庇ってくれたけど、そのせいでアズが熱湯を被ってしまって。私どうしたらいいのかわからなくて、ただ奨に連絡することしか出来なかった。ワーワー泣いて、アズにすがって。そんなことしてないで冷やせば良かった。自分で救急車を呼べば良かった! でも何にも出来なかった。奨がすぐ救急車を呼んでくれて、駆けつけてくれた。救急車がくるまでずっとシャワーを浴びさせて氷水で冷やして、親にもお手伝いにも連絡してくれて……救急車でアズは運ばれていったけど、どうしても左の肩から腕にかけてケロイド状の痕が残ったの。それなのに、病院から帰ってきたアズは私に『ユズちゃんに痕が残らなくて良かった。女の子だもんね』って言ったのよ。リハビリで腕は上がるようになったし、火傷後も今はもうだいぶ薄いんだけど……。

 何度かめかのモデル事務所から断られたあと、あの子は家族の前以外で肌を見せなくなった。私のせいなの。私のせいで自分には傷が残ったのに……。あの傷のせいでモデルも出来ないから、自分は醜いって思ってるの。酷い傷跡がある自分が褒められるわけないって、綺麗な訳ないって! そんなことないって私がいってもダメなの。だから、アズが本気で好きになった人、そしてアズを心から愛している人から言ってもらわないと、あの子はきっと信じない。あんなに、あんなに綺麗なのに」

 ポロポロと涙を流しながらユズは続ける。

「だから、お願い! もしあの子があなた達に傷を見せることがあったら、受け入れてあげて。お願い、お願い!」


 いつもどうしてアズは自分に向けられる言葉を受け取らないのだろうと不思議に思っていた。

 可愛い、綺麗だ、素敵だ。どんなに称賛を送っても、そのまま水蒸気のように霧散し、アズの心には届いていないことは何となく気がついていた。いつも困ったような顔をして「そんなことないよ」と言うばかりだった。

 その困った顔の理由が知りたくても、アズはすぐに話題を変えて踏み込ませてはくれない。外見だけを気に入ってるかのように思われるのも嫌で、漣も朔も挨拶のように可愛いとは言うものの思わず口をついて出てしまう言葉以外はあまり面と向かっては言わないようになっていた。

 そうか、そうだったのか。
 だから……。


 でも。


「そんなこと、心配することじゃないって」
「どんなアズでもアズはアズだろ」
「たぶんもうそんなことぐらいじゃ、俺は離れられないんだよ」
「俺らな」
「だから心配しないで。話してくれてありがと」

 ユズはようやく顔を上げた。

「ん。ありがと。二人ならきっと大丈夫かと思ってたけど、でも本当は話すのが怖くて……」
「でも、これでユズちゃんからも公認されたってことでOK?」

 朔がいたずらっ子のような顔で言う。

「いきなり調子乗ってくるわね」

 つられてユズもニヤッと笑う。
 握りしめていた拳から力が抜けていくことをユズは感じた。

「……でも、そうね、これで奨が知ってて君たちが知らないことってなくなったかな」
「なら、アイツが一番リードしてんじゃん。それでも好きって言ってんなら……」
「ううん。アズは奨が自分に色々言うのは、傷を知ってるから、同情して言ってると思ってるから……。そう言う意味でいうと、奨の言葉が一番届いていないと思う。近いけど遠いんだ……」
「……そっか」
「それは……」

 何というか、切ない。

 二人の知らないアズをいっぱい知っていて、いつも余裕そうにしていた奨の時々寂しそうな横顔に気づいていないわけではなかった。

「まぁ、俺らの言葉も全然本気にしてはくれないけどな」
「それな……」

 二人がため息をつく。

「そうかなぁ? 今までは奨と同盟のせいでアズにこんなにアプローチできた人っていないんだ。こんなイケメン2人にしっかり口説かれて、褒められて、アズは嬉しく思ってると思うよ。最近本当に楽しそうだもん」
「本当か?!」
「まぢかぁー」

 朔は身を乗り出し、漣は片手で口を覆った。

「うわぁ、二人共真っ赤」

 ユズが楽しそうに笑う。

「だからさ、私は3人の誰の味方でもない。3人平等って言ったでしょ。奨も漣くんも朔くんにも頑張って欲しい。アズを幸せにしてくれるなら」

 誰でもいい。早くあの子の心を溶かしてよ。

 でも、
 願わくば、美しくも腹黒い、そして深い情を持つこの3人のうちから選ばれますように、3人の想いが届きますようにと思ってしまうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...