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三ヶ月後
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今までにないほどの、のんびりと平和な日々は少しだけ不安になる。
あいかわらずノルドは忙しそうだったけれど、少しでも時間があくと、すぐに帰ってきてくれるから淋しくはない。
でも、このままでいいのかな、と、そう思い始めた時。
ノルドが沈んだ表情で「そろそろ、逃げられなくなった」と、つぶやいた。
「一番上の兄が、この屋敷に来たいと言ってるのだけど……、」
「ノルドの?」
「そう」
数ある小さな不安の一つ。
ノルドの家族への挨拶が、まだだった。
「一番上と言うと、次期国王でしょうか……!」
「まぁ、うん。そういうことになるね」
いつか行かなくちゃ、と思ってた時に、先を越されてしまった。
事件の事後処理も終わりそうと聞いていたのだから、こっちから申し出れば良かったのかもしれない。
「私から挨拶に行くべきだったよね。どうしよう、怒られたら」
「大丈夫、心配しないで。そんなことで、腹を立てる人じゃないから」
話がわからないリンクは、焦っている私をみて面白そうに、お団子を食べている。
「団子、美味しい!」
「よく、噛んでね」
「うん」
まったく、事の重大さを分かっていない、まんまるになったほっぺたを見ながら、心を落ち着かせる。
……私はともかく、リンクは王族の血を引いているんだから、何か教育とかしなくちゃいけないのかもしれない。
「その言葉、信じるよ」
「うん、信じて。……ただね、何をサクラに言うか分からなくて、少し憂鬱」
ノルドは、珍しく頬杖をついて息を吐く。
「ねぇ。いつ頃に、いらっしゃるの?」
「……もう、来てる」
……え。
慌てて、部屋の片隅にある転送装置の方を見ると、人影が見えた。
「……はじめまして。サクラとリンク、だね。私はノルドの一番上の兄で、ユルグと言います」
「こ、皇太子殿下……!」
「ユルグ、ね。王家の家族は、全員呼び捨てが鉄則だよ」
そう言うと、貴族の令嬢に対してするような挨拶を私にして、パッと明るい表情を見せて笑う。
誰もが見惚れてしまう端正な顔立ちは、明るめな金髪に、赤みがかった金色の目と合っていて、華やかだし。
なのに、柔らかい雰囲気は威圧感がなくて、国民から慕われているのがすぐに分かる。完璧だ。
「……ユルグ、いくら何でも早すぎませんか? ウイルから報告を受けたのは、先ほどですけど」
ノルドが、あきれたように言うが、確かに私も同じ気持ちではある。
「家族なんだから、遠慮はいらないだろう? 善は急げ、だよ」
「急ぎすぎです。それよりも、親しき仲にも礼儀あり、を推したいです。急に来られても、何も用意が出来ません」
「いやいや、用意してもらってるよ。……サーシャ、この緑色のお茶、美味しいね」
ユルグは感動しながら、湯飲みを傾けている。チラッと、サーシャを見ると、褒められたので得意げな表情をしている。
まぁ、私も試行錯誤の末、手作りに成功した茶葉なので嬉しいけれど。
「お団子も柔らかいうちに、召し上がりませんか?」
その流れで、試作品を重ね、成功した三色団子をすすめる。
「ありがとう、日本のお菓子だね。私もサクラがいた場所に行ってみたいな」
木を削って作った串を、玩具みたいにクルクル回す姿は子供のようだ。
「兄上、冗談でも言わないでください。何かあったら、大変ですよ」
「へぇ、どの口が言うのかな?」
……確かに、言う権利はないだろう。
だけど、戻らなかった責任は私にもある。
「まぁ、空間魔法はノルドみたいに最上級レベルじゃないからね。行かないよ」
「そうして頂けると、国民が安心します」
「ノルドは、安心?」
「……兄上が国王にならないと、困ります」
「本当?」
ユルグの視線が鋭くなった気がするけど。もしかして、王位継承争いとか、何かあるのだろうか。
少し、勘ぐってしまう。
「……サクラ。僕は、もう王家を出たから、国王に興味はない。ユルグの冗談だよ」
「……完全に冗談ではないよ。私は、魔力量ではノルドに勝てないからね、ノルド派もいる」
「やめてください。あり得ませんよ。それに、魔法が下手なので無理です」
「物質干渉と言語変換の事?」
「まあ、そうですね。それ以外も、ですけど」
……物質と言語。
良くわからなくて、何? と小さい声で聞く。
「……ノルド。その魔法を使えないと、困るの?」
「正しくは、サクラを困らせてる。遠回しに迷惑かけるな、って、非難受けてるところ」
「迷惑かけられたこと、ないよ」
ノルドが、格好悪いけど、と前置きをする。
「実は、リンクの名前が平仮名なの、僕が言語魔法が使えなくて漢字を理解出来ないからなんだ」
「え? なんか、書類とか書いてたよね」
「ウイルに転送して、書いてもらってた」
それは、きれいな字だと思ってたから、びっくりかも……。
「ほ、ほかには?」
「料理も、作れない。食材を食べられるようにするには、高度な物質変換が必要で……。苦手レベルじゃなくて、どうしていいか分からない」
「でも、作ってもらってた時もあるよね……?」
「電子レンジは、魔法具だから」
「電磁波だよ」
……でも、ノルドなりに考えてくれたのだろう。それに対して、怒りたくはない。
「ごめんね。必要な魔法が使えないのに、魔法に頼りすぎる生活に慣れてしまった。これから、少しずつ特訓していくから、待ってて」
「うん。……でも、仕方ないよ。生まれ育った環境ってあるし。私も、必要にかられて家事をしてきただけだし」
「サクラ、やさしい」
「…………元気出して」
真面目すぎるノルドは、正直に言えない自分に対して落ち込んでいるようだ。
困ったな。
ふと、時計を見るとリンクが寝る時間だ。
さっきまでお団子を食べていたのに、急な来訪者に驚いたのか、今は一言もしゃべらずに、遠くでこちらの様子をうかがっている。
「すみません。話の途中ですが、リンクを寝かしつけたいので……」
「なら、私が連れて行こう。同じくらいの息子がいるから、彼と友達になって欲しい。……どうかな?」
こくこく、と何度もうなずいている。
とうやら物怖じしないリンクでさえ、皇太子殿下に緊張しているようだ。
「……パパに、似てる」
「兄弟だからね。……じゃあ、部屋まで案内してくれるかな」
「うん!」
慣れた手つきで、ヒョイと肩車する。
ノルドと同じくらいの背丈だから、リンクも安心するようだ。
「ありがとうございます。……ノルド、行ってくるから、メンタル回復しておいてね」
反省中らしいので、放っておいた方が良いだろう。
ユルグの火魔法で、長い廊下を灯しながら部屋へ向かう。
「住み心地はどうかな?」
「はい。とても、良い屋敷で助かってます」
「それは、良かった」
何か、言いたいことがありそうなのに、当たり障りのない話ばかり。
ノルドと別れろ、とかじゃないみたいだけど。
「あの。何か、話があって……?」
気になって、うながす。
すると、笑って部屋の前で立ち止まった。
「……実はね。ノルドがいない時に、確認したい事があって」
「はい、何でしょうか?」
ユルグの表情は灯の影でよく見えない。
「サクラがこの世界に来てから、すでに3ヶ月がたってるけれど。元の世界に、戻らない覚悟が出来たのか。それを、確認をしたい」
想像よりも、簡単に返事ができる質問でホッとする。
「ここに、います。ノルドがいる世界が私のいる世界ですから」
「それは、本音?」
「ええ、天に誓って。きっと、リンクも同じですよ。とっても毎日、楽しそうにしてるから」
肩の上のリンクは、嬉しそうに口角を上げて、ウトウトとまどろみ中だ。
「なるほど……、」
「はい。ノルドを強制的に戻してくれた事に、感謝してるくらいです」
「……うん。それなら決定だ。明日、すべてを説明しよう。……その時に紹介をしたい人達がいるが、恨まないで欲しい」
あいかわらずノルドは忙しそうだったけれど、少しでも時間があくと、すぐに帰ってきてくれるから淋しくはない。
でも、このままでいいのかな、と、そう思い始めた時。
ノルドが沈んだ表情で「そろそろ、逃げられなくなった」と、つぶやいた。
「一番上の兄が、この屋敷に来たいと言ってるのだけど……、」
「ノルドの?」
「そう」
数ある小さな不安の一つ。
ノルドの家族への挨拶が、まだだった。
「一番上と言うと、次期国王でしょうか……!」
「まぁ、うん。そういうことになるね」
いつか行かなくちゃ、と思ってた時に、先を越されてしまった。
事件の事後処理も終わりそうと聞いていたのだから、こっちから申し出れば良かったのかもしれない。
「私から挨拶に行くべきだったよね。どうしよう、怒られたら」
「大丈夫、心配しないで。そんなことで、腹を立てる人じゃないから」
話がわからないリンクは、焦っている私をみて面白そうに、お団子を食べている。
「団子、美味しい!」
「よく、噛んでね」
「うん」
まったく、事の重大さを分かっていない、まんまるになったほっぺたを見ながら、心を落ち着かせる。
……私はともかく、リンクは王族の血を引いているんだから、何か教育とかしなくちゃいけないのかもしれない。
「その言葉、信じるよ」
「うん、信じて。……ただね、何をサクラに言うか分からなくて、少し憂鬱」
ノルドは、珍しく頬杖をついて息を吐く。
「ねぇ。いつ頃に、いらっしゃるの?」
「……もう、来てる」
……え。
慌てて、部屋の片隅にある転送装置の方を見ると、人影が見えた。
「……はじめまして。サクラとリンク、だね。私はノルドの一番上の兄で、ユルグと言います」
「こ、皇太子殿下……!」
「ユルグ、ね。王家の家族は、全員呼び捨てが鉄則だよ」
そう言うと、貴族の令嬢に対してするような挨拶を私にして、パッと明るい表情を見せて笑う。
誰もが見惚れてしまう端正な顔立ちは、明るめな金髪に、赤みがかった金色の目と合っていて、華やかだし。
なのに、柔らかい雰囲気は威圧感がなくて、国民から慕われているのがすぐに分かる。完璧だ。
「……ユルグ、いくら何でも早すぎませんか? ウイルから報告を受けたのは、先ほどですけど」
ノルドが、あきれたように言うが、確かに私も同じ気持ちではある。
「家族なんだから、遠慮はいらないだろう? 善は急げ、だよ」
「急ぎすぎです。それよりも、親しき仲にも礼儀あり、を推したいです。急に来られても、何も用意が出来ません」
「いやいや、用意してもらってるよ。……サーシャ、この緑色のお茶、美味しいね」
ユルグは感動しながら、湯飲みを傾けている。チラッと、サーシャを見ると、褒められたので得意げな表情をしている。
まぁ、私も試行錯誤の末、手作りに成功した茶葉なので嬉しいけれど。
「お団子も柔らかいうちに、召し上がりませんか?」
その流れで、試作品を重ね、成功した三色団子をすすめる。
「ありがとう、日本のお菓子だね。私もサクラがいた場所に行ってみたいな」
木を削って作った串を、玩具みたいにクルクル回す姿は子供のようだ。
「兄上、冗談でも言わないでください。何かあったら、大変ですよ」
「へぇ、どの口が言うのかな?」
……確かに、言う権利はないだろう。
だけど、戻らなかった責任は私にもある。
「まぁ、空間魔法はノルドみたいに最上級レベルじゃないからね。行かないよ」
「そうして頂けると、国民が安心します」
「ノルドは、安心?」
「……兄上が国王にならないと、困ります」
「本当?」
ユルグの視線が鋭くなった気がするけど。もしかして、王位継承争いとか、何かあるのだろうか。
少し、勘ぐってしまう。
「……サクラ。僕は、もう王家を出たから、国王に興味はない。ユルグの冗談だよ」
「……完全に冗談ではないよ。私は、魔力量ではノルドに勝てないからね、ノルド派もいる」
「やめてください。あり得ませんよ。それに、魔法が下手なので無理です」
「物質干渉と言語変換の事?」
「まあ、そうですね。それ以外も、ですけど」
……物質と言語。
良くわからなくて、何? と小さい声で聞く。
「……ノルド。その魔法を使えないと、困るの?」
「正しくは、サクラを困らせてる。遠回しに迷惑かけるな、って、非難受けてるところ」
「迷惑かけられたこと、ないよ」
ノルドが、格好悪いけど、と前置きをする。
「実は、リンクの名前が平仮名なの、僕が言語魔法が使えなくて漢字を理解出来ないからなんだ」
「え? なんか、書類とか書いてたよね」
「ウイルに転送して、書いてもらってた」
それは、きれいな字だと思ってたから、びっくりかも……。
「ほ、ほかには?」
「料理も、作れない。食材を食べられるようにするには、高度な物質変換が必要で……。苦手レベルじゃなくて、どうしていいか分からない」
「でも、作ってもらってた時もあるよね……?」
「電子レンジは、魔法具だから」
「電磁波だよ」
……でも、ノルドなりに考えてくれたのだろう。それに対して、怒りたくはない。
「ごめんね。必要な魔法が使えないのに、魔法に頼りすぎる生活に慣れてしまった。これから、少しずつ特訓していくから、待ってて」
「うん。……でも、仕方ないよ。生まれ育った環境ってあるし。私も、必要にかられて家事をしてきただけだし」
「サクラ、やさしい」
「…………元気出して」
真面目すぎるノルドは、正直に言えない自分に対して落ち込んでいるようだ。
困ったな。
ふと、時計を見るとリンクが寝る時間だ。
さっきまでお団子を食べていたのに、急な来訪者に驚いたのか、今は一言もしゃべらずに、遠くでこちらの様子をうかがっている。
「すみません。話の途中ですが、リンクを寝かしつけたいので……」
「なら、私が連れて行こう。同じくらいの息子がいるから、彼と友達になって欲しい。……どうかな?」
こくこく、と何度もうなずいている。
とうやら物怖じしないリンクでさえ、皇太子殿下に緊張しているようだ。
「……パパに、似てる」
「兄弟だからね。……じゃあ、部屋まで案内してくれるかな」
「うん!」
慣れた手つきで、ヒョイと肩車する。
ノルドと同じくらいの背丈だから、リンクも安心するようだ。
「ありがとうございます。……ノルド、行ってくるから、メンタル回復しておいてね」
反省中らしいので、放っておいた方が良いだろう。
ユルグの火魔法で、長い廊下を灯しながら部屋へ向かう。
「住み心地はどうかな?」
「はい。とても、良い屋敷で助かってます」
「それは、良かった」
何か、言いたいことがありそうなのに、当たり障りのない話ばかり。
ノルドと別れろ、とかじゃないみたいだけど。
「あの。何か、話があって……?」
気になって、うながす。
すると、笑って部屋の前で立ち止まった。
「……実はね。ノルドがいない時に、確認したい事があって」
「はい、何でしょうか?」
ユルグの表情は灯の影でよく見えない。
「サクラがこの世界に来てから、すでに3ヶ月がたってるけれど。元の世界に、戻らない覚悟が出来たのか。それを、確認をしたい」
想像よりも、簡単に返事ができる質問でホッとする。
「ここに、います。ノルドがいる世界が私のいる世界ですから」
「それは、本音?」
「ええ、天に誓って。きっと、リンクも同じですよ。とっても毎日、楽しそうにしてるから」
肩の上のリンクは、嬉しそうに口角を上げて、ウトウトとまどろみ中だ。
「なるほど……、」
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