子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

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我儘

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 こんな髪や目の色をしていなかった。

 ぼんやりとしか記憶はないけれど、桜の色との対比で覚えている。
 それに、目鼻立ちは私と似ている気もするけれど、そんな偶然よくあることだし。
 何か、自分と比較して違うところを探す。
 嘘つく理由なんてないのに、覚えていない事に私が薄情な気がして、感動の再会なんて出来ない。

「……そうなんですね。あなた達が、私を捨てたのではない、というのが分かって良かったです」

 だから、他人行儀な返事をする。
 そんな事を言ったから、さらに顔色が白く血の気を失ってしまっていて、言葉を止めた。……でも、恨んではないのは確か。

「申し訳なかった」
「サクラ、ごめんなさい」

 この父と母からの謝罪は、国王からの意図とは違うもので、私を置いていった事についてだろう。

「気にして、いないです。私を助けるため、というのは理解してますから」
「……最善の方法だった。私達は、サクラを失いたくなかったし、国も守らなければならなかった」

 父が言うけれど、私は何て呼んだら良いのかわからない。
 お父さん、お母さん、と何気なく今まで使っていたけど、いざ目の前にすると呼べなくなる。
 そんなに年齢も離れていないし、急に時間は縮められない。きっと、この世界では数年程度だろうけど、私は、もう成人になってしまった。

「分かってます。……あの、名前を聞かせて下さい」
「あ、あぁ。すまない。私がキュラスで、この女性がミラと言う」

 こちらが距離感を取っているのが分かったのか、少し会話がかたい。

 そこで、国王が助け舟を出した方が良いかと思ったらしく、間に入ってくれる。

「彼らには、禁忌の魔法の暴走を止めるために、四六時中、封印の魔法陣を強化する仕事をしてもらっていた。それは、誰にも代理は出来ない。許してやってくれ」
「はい。許すも何も……、」

 特に、何も思わない。
 そう続かせようと思ったが、やっぱりやめて国王の話の続きを静かに聞く。

「……サクラををミラが妊娠した頃は、さほど大きくもなく楽観視していたのだが、次第にその禁忌の魔法を利用するものが現れ、急に魔力が増幅をしだした」
「急に、ですか?」
「対応が遅れたのは、我々の油断だ。あれは、この世の魔力ではない。神が、何処かから寄こしたものだろう」

 うん。そうだとしたら、かなり厳しい対応ではないだろうか。……その神とかいう存在と話せるなら、ひとこと申したいくらいだ。

 前を見ると、ようやく気持ちが落ち着いてきたのか、ミラが私の方を見て口を開く。

「その力を防ぐために、様々な結界や、防護魔法をかけたわ。……でも、何故か私たちの摂理の魔法では対応できなくて。サクラが、危険な状態になってしまったの」
「それで、私を日本のあの施設に?」
「あの場所は、昔、この世界と縁がある場所で、加護の魔力が効きやすいから」
「……確かに、悪いことが起こりそうになっても、いつも回避能力が高かったような気がします」

 落雷が寸前で避けてくれたり、近所の人がやたら好意的で野菜などを貰った。
 他にも、たくさん。それが、その加護の力かは分からないけど。

「サクラにも、加護をたくさんかけてあるわ。日本に馴染めるように髪や目の色も黒くして、悪い事が起こらないように」
「本当に? 全然、気がつかなったです。……あっ。じゃあ、リンクにも、その影響が?」
「そう。きっと、髪の色などは、母体から加護が移ったと思う。心配で、かなり強いものにしたから」

 ……その、強調の仕方はかえってこわい。なんだって、行き過ぎると反動が来そうだ。

「ふ、副作用的な何かはあったりしますか?」
「ないと思うわ」
「……よかった」
「魔力抵抗が弱い人には、少し近づき難くなるくらいかしら」

 そんなのは大した事ない、という風に言っているけれど、そのせいで友達が出来なかったのか。
 私の性格のせいじゃなくて良かった。他に、何か聞きたいことあったような……。

「そうだ。……ねぇ、ノルド」

 突然、呼ばれて、ノルドが驚く。そこまで、肩を揺らさなくても。

「やっぱり、すぐにこの世界に帰ったほうが良かったわよね?」

 出会ってすぐに、とはいかないだろうけど、恋人になってすぐなら私は悩まなかった。
 蒸し返すことではないが、完全に納得はできていない。

「毎日が、楽しくて」
「それは、知ってるけど。そうじゃなくてね」
「ごめん」
「結婚は、この世界から逃げたかったから?」

 そんなことはないと分かっているが、あまりにも理由になってないから、問いかける。浮かんでしまった気持ちを否定をされたい。

「それは、違うよ」
「良かった。……なら、何で早く話してくれなかったの?」
「サクラを、愛していたから」

 愛なんて、ワガママなのに。
 でも、私は今、この世界から出たくないと思う。それは、ここでの生活で大切なものばっかりになったから。
 絶対に、失いたくない。ノルドも、そんな気持ちなのかなって、勝手に理解する。それなら、嬉しいけれど。

「おはよー」

 ユルグの腕の中で寝ていたリンクが、やっと起きたようだ。何があったのかわからず、目をパチパチさせている。
 ノルドが、冷ややかな視線を受けているのは、無視をしてミラとキュラスの所で目線が止まった。

「誰?」
「……リンク。ノルドと私の、おじいちゃんとおばあちゃん、だよ」

 わかりやすく説明するけれど、外見的に無理があるだろう。
 しかし、何か察したようにリンクが笑う。

「赤い実に、物質干渉魔法をかけてくれた人。すぐに分かったよ」

 赤い実?
 あぁ、言葉が分かるようになった最初に来た時に見つけた、赤い実のことか。完全に、今まで忘れてた。

「ありがとうございます。あの実のおかげで、困らなかった!」

 リンクは下に降りて、駆け寄ってくる。

「ぼく、言葉がわかったから友達がたくさん出来たんだ。ずっと、ありがとうって言いたかった」

 誰よりも素直なのはリンクで、私は反省するしかなかった。


 
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