27 / 45
我儘
しおりを挟む
こんな髪や目の色をしていなかった。
ぼんやりとしか記憶はないけれど、桜の色との対比で覚えている。
それに、目鼻立ちは私と似ている気もするけれど、そんな偶然よくあることだし。
何か、自分と比較して違うところを探す。
嘘つく理由なんてないのに、覚えていない事に私が薄情な気がして、感動の再会なんて出来ない。
「……そうなんですね。あなた達が、私を捨てたのではない、というのが分かって良かったです」
だから、他人行儀な返事をする。
そんな事を言ったから、さらに顔色が白く血の気を失ってしまっていて、言葉を止めた。……でも、恨んではないのは確か。
「申し訳なかった」
「サクラ、ごめんなさい」
この父と母からの謝罪は、国王からの意図とは違うもので、私を置いていった事についてだろう。
「気にして、いないです。私を助けるため、というのは理解してますから」
「……最善の方法だった。私達は、サクラを失いたくなかったし、国も守らなければならなかった」
父が言うけれど、私は何て呼んだら良いのかわからない。
お父さん、お母さん、と何気なく今まで使っていたけど、いざ目の前にすると呼べなくなる。
そんなに年齢も離れていないし、急に時間は縮められない。きっと、この世界では数年程度だろうけど、私は、もう成人になってしまった。
「分かってます。……あの、名前を聞かせて下さい」
「あ、あぁ。すまない。私がキュラスで、この女性がミラと言う」
こちらが距離感を取っているのが分かったのか、少し会話がかたい。
そこで、国王が助け舟を出した方が良いかと思ったらしく、間に入ってくれる。
「彼らには、禁忌の魔法の暴走を止めるために、四六時中、封印の魔法陣を強化する仕事をしてもらっていた。それは、誰にも代理は出来ない。許してやってくれ」
「はい。許すも何も……、」
特に、何も思わない。
そう続かせようと思ったが、やっぱりやめて国王の話の続きを静かに聞く。
「……サクラををミラが妊娠した頃は、さほど大きくもなく楽観視していたのだが、次第にその禁忌の魔法を利用するものが現れ、急に魔力が増幅をしだした」
「急に、ですか?」
「対応が遅れたのは、我々の油断だ。あれは、この世の魔力ではない。神が、何処かから寄こしたものだろう」
うん。そうだとしたら、かなり厳しい対応ではないだろうか。……その神とかいう存在と話せるなら、ひとこと申したいくらいだ。
前を見ると、ようやく気持ちが落ち着いてきたのか、ミラが私の方を見て口を開く。
「その力を防ぐために、様々な結界や、防護魔法をかけたわ。……でも、何故か私たちの摂理の魔法では対応できなくて。サクラが、危険な状態になってしまったの」
「それで、私を日本のあの施設に?」
「あの場所は、昔、この世界と縁がある場所で、加護の魔力が効きやすいから」
「……確かに、悪いことが起こりそうになっても、いつも回避能力が高かったような気がします」
落雷が寸前で避けてくれたり、近所の人がやたら好意的で野菜などを貰った。
他にも、たくさん。それが、その加護の力かは分からないけど。
「サクラにも、加護をたくさんかけてあるわ。日本に馴染めるように髪や目の色も黒くして、悪い事が起こらないように」
「本当に? 全然、気がつかなったです。……あっ。じゃあ、リンクにも、その影響が?」
「そう。きっと、髪の色などは、母体から加護が移ったと思う。心配で、かなり強いものにしたから」
……その、強調の仕方はかえってこわい。なんだって、行き過ぎると反動が来そうだ。
「ふ、副作用的な何かはあったりしますか?」
「ないと思うわ」
「……よかった」
「魔力抵抗が弱い人には、少し近づき難くなるくらいかしら」
そんなのは大した事ない、という風に言っているけれど、そのせいで友達が出来なかったのか。
私の性格のせいじゃなくて良かった。他に、何か聞きたいことあったような……。
「そうだ。……ねぇ、ノルド」
突然、呼ばれて、ノルドが驚く。そこまで、肩を揺らさなくても。
「やっぱり、すぐにこの世界に帰ったほうが良かったわよね?」
出会ってすぐに、とはいかないだろうけど、恋人になってすぐなら私は悩まなかった。
蒸し返すことではないが、完全に納得はできていない。
「毎日が、楽しくて」
「それは、知ってるけど。そうじゃなくてね」
「ごめん」
「結婚は、この世界から逃げたかったから?」
そんなことはないと分かっているが、あまりにも理由になってないから、問いかける。浮かんでしまった気持ちを否定をされたい。
「それは、違うよ」
「良かった。……なら、何で早く話してくれなかったの?」
「サクラを、愛していたから」
愛なんて、ワガママなのに。
でも、私は今、この世界から出たくないと思う。それは、ここでの生活で大切なものばっかりになったから。
絶対に、失いたくない。ノルドも、そんな気持ちなのかなって、勝手に理解する。それなら、嬉しいけれど。
「おはよー」
ユルグの腕の中で寝ていたリンクが、やっと起きたようだ。何があったのかわからず、目をパチパチさせている。
ノルドが、冷ややかな視線を受けているのは、無視をしてミラとキュラスの所で目線が止まった。
「誰?」
「……リンク。ノルドと私の、おじいちゃんとおばあちゃん、だよ」
わかりやすく説明するけれど、外見的に無理があるだろう。
しかし、何か察したようにリンクが笑う。
「赤い実に、物質干渉魔法をかけてくれた人。すぐに分かったよ」
赤い実?
あぁ、言葉が分かるようになった最初に来た時に見つけた、赤い実のことか。完全に、今まで忘れてた。
「ありがとうございます。あの実のおかげで、困らなかった!」
リンクは下に降りて、駆け寄ってくる。
「ぼく、言葉がわかったから友達がたくさん出来たんだ。ずっと、ありがとうって言いたかった」
誰よりも素直なのはリンクで、私は反省するしかなかった。
ぼんやりとしか記憶はないけれど、桜の色との対比で覚えている。
それに、目鼻立ちは私と似ている気もするけれど、そんな偶然よくあることだし。
何か、自分と比較して違うところを探す。
嘘つく理由なんてないのに、覚えていない事に私が薄情な気がして、感動の再会なんて出来ない。
「……そうなんですね。あなた達が、私を捨てたのではない、というのが分かって良かったです」
だから、他人行儀な返事をする。
そんな事を言ったから、さらに顔色が白く血の気を失ってしまっていて、言葉を止めた。……でも、恨んではないのは確か。
「申し訳なかった」
「サクラ、ごめんなさい」
この父と母からの謝罪は、国王からの意図とは違うもので、私を置いていった事についてだろう。
「気にして、いないです。私を助けるため、というのは理解してますから」
「……最善の方法だった。私達は、サクラを失いたくなかったし、国も守らなければならなかった」
父が言うけれど、私は何て呼んだら良いのかわからない。
お父さん、お母さん、と何気なく今まで使っていたけど、いざ目の前にすると呼べなくなる。
そんなに年齢も離れていないし、急に時間は縮められない。きっと、この世界では数年程度だろうけど、私は、もう成人になってしまった。
「分かってます。……あの、名前を聞かせて下さい」
「あ、あぁ。すまない。私がキュラスで、この女性がミラと言う」
こちらが距離感を取っているのが分かったのか、少し会話がかたい。
そこで、国王が助け舟を出した方が良いかと思ったらしく、間に入ってくれる。
「彼らには、禁忌の魔法の暴走を止めるために、四六時中、封印の魔法陣を強化する仕事をしてもらっていた。それは、誰にも代理は出来ない。許してやってくれ」
「はい。許すも何も……、」
特に、何も思わない。
そう続かせようと思ったが、やっぱりやめて国王の話の続きを静かに聞く。
「……サクラををミラが妊娠した頃は、さほど大きくもなく楽観視していたのだが、次第にその禁忌の魔法を利用するものが現れ、急に魔力が増幅をしだした」
「急に、ですか?」
「対応が遅れたのは、我々の油断だ。あれは、この世の魔力ではない。神が、何処かから寄こしたものだろう」
うん。そうだとしたら、かなり厳しい対応ではないだろうか。……その神とかいう存在と話せるなら、ひとこと申したいくらいだ。
前を見ると、ようやく気持ちが落ち着いてきたのか、ミラが私の方を見て口を開く。
「その力を防ぐために、様々な結界や、防護魔法をかけたわ。……でも、何故か私たちの摂理の魔法では対応できなくて。サクラが、危険な状態になってしまったの」
「それで、私を日本のあの施設に?」
「あの場所は、昔、この世界と縁がある場所で、加護の魔力が効きやすいから」
「……確かに、悪いことが起こりそうになっても、いつも回避能力が高かったような気がします」
落雷が寸前で避けてくれたり、近所の人がやたら好意的で野菜などを貰った。
他にも、たくさん。それが、その加護の力かは分からないけど。
「サクラにも、加護をたくさんかけてあるわ。日本に馴染めるように髪や目の色も黒くして、悪い事が起こらないように」
「本当に? 全然、気がつかなったです。……あっ。じゃあ、リンクにも、その影響が?」
「そう。きっと、髪の色などは、母体から加護が移ったと思う。心配で、かなり強いものにしたから」
……その、強調の仕方はかえってこわい。なんだって、行き過ぎると反動が来そうだ。
「ふ、副作用的な何かはあったりしますか?」
「ないと思うわ」
「……よかった」
「魔力抵抗が弱い人には、少し近づき難くなるくらいかしら」
そんなのは大した事ない、という風に言っているけれど、そのせいで友達が出来なかったのか。
私の性格のせいじゃなくて良かった。他に、何か聞きたいことあったような……。
「そうだ。……ねぇ、ノルド」
突然、呼ばれて、ノルドが驚く。そこまで、肩を揺らさなくても。
「やっぱり、すぐにこの世界に帰ったほうが良かったわよね?」
出会ってすぐに、とはいかないだろうけど、恋人になってすぐなら私は悩まなかった。
蒸し返すことではないが、完全に納得はできていない。
「毎日が、楽しくて」
「それは、知ってるけど。そうじゃなくてね」
「ごめん」
「結婚は、この世界から逃げたかったから?」
そんなことはないと分かっているが、あまりにも理由になってないから、問いかける。浮かんでしまった気持ちを否定をされたい。
「それは、違うよ」
「良かった。……なら、何で早く話してくれなかったの?」
「サクラを、愛していたから」
愛なんて、ワガママなのに。
でも、私は今、この世界から出たくないと思う。それは、ここでの生活で大切なものばっかりになったから。
絶対に、失いたくない。ノルドも、そんな気持ちなのかなって、勝手に理解する。それなら、嬉しいけれど。
「おはよー」
ユルグの腕の中で寝ていたリンクが、やっと起きたようだ。何があったのかわからず、目をパチパチさせている。
ノルドが、冷ややかな視線を受けているのは、無視をしてミラとキュラスの所で目線が止まった。
「誰?」
「……リンク。ノルドと私の、おじいちゃんとおばあちゃん、だよ」
わかりやすく説明するけれど、外見的に無理があるだろう。
しかし、何か察したようにリンクが笑う。
「赤い実に、物質干渉魔法をかけてくれた人。すぐに分かったよ」
赤い実?
あぁ、言葉が分かるようになった最初に来た時に見つけた、赤い実のことか。完全に、今まで忘れてた。
「ありがとうございます。あの実のおかげで、困らなかった!」
リンクは下に降りて、駆け寄ってくる。
「ぼく、言葉がわかったから友達がたくさん出来たんだ。ずっと、ありがとうって言いたかった」
誰よりも素直なのはリンクで、私は反省するしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる