子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

文字の大きさ
26 / 45

導入

しおりを挟む
「魔法を使って眠らせるのは、良くないからね」

 そこまで、するなんて。私は小声で、ノルドにたずねる。

「あまり、子供には聞かせたくない話なの?」

 城の閑散とした様子を隠すことなく私に見せて、広間ではなく、この不思議な樹木の場所まで来たのなら、何か深刻な話。……そう、かなり血なまぐさい話を想像する。
 平和的に解決をしたようだけど、この城を見たら、明らかに激しく戦闘はあった。
 だから聞いたと言うのに、ノルドは虚を突かれたように瞬きをする。

「……いや、そういう訳ではないけれど。サクラに、まず会わせたい人達がいるから」
「会わせたい人達?」

 誰だろう。
 すると、ノルドは、いつの間にか後ろに控えていたウイルに目配せをする。 
 
 直後、最初に入ってきた人物は、特別な威厳のある気品あるオーラがただよっていて、私は瞬時に理解した。きっと国王夫妻だろう。美しい容貌と、髪や目の特徴で遺伝子が同じとはっきりと分かる。

 その後ろには、私よりも少し上の年齢に見える、男性と女性が控えめに立っている。
 裾の長い白いローブを二人とも着ていて……、きっと、ここに仕えている魔法師の人達だろう。そうだとしたら、何か両親のことを知っている人かもしれない。
 両親が私に会いたいと思っていないのなら、それでも良いけれど、事情は知りたい。
 
 声を発することも出来ずに成り行きを見守っていると、国王からの視線を感じて、私も恐れながら見返す。

「本当に申し訳なかった。ノルドがサクラの人生を振り回してしまって、注意はしたのだが聞かなかった」

 ……結婚の祝福をされるとは思わなかったが、謝られるとも思わなかった。どうしよう。返事をしたいが、なんて返したら。
 助けて欲しいと、ノルドやユルグの方を見るけれど、何とも言えない顔で頷くばかりだ。胸がドキドキして変なことを言ってしまいそう。

「謝られることは何も、ありません。むしろ、私の方がノルドに強引に迫ったので。それに、絆されてくれたと言うか……、ラッキーと言うか……」

 心配していた通り、いつもの調子で変なことを言ってしまった。
 この国の人は優しくて私に寛容すぎだから、同じことと言っても笑って冗談だと受け流して、本当のことなのに信じてくれない。
 でも、さすがに国王には、こんな事を言って怒られるだろう。……なのに。

「いや、それはないだろう。ノルドを見ていたら分かる」
「は、はい」

 何故だろう。
 近所の人や、ユルグやサーシャと同じ反応で冷や汗が出てくる。

「では、サクラ。次は、この者たちからの謝罪を受け入れて欲しい」

 国王は、横にずれて先ほどのローブ姿の男女が私の前に来る。
 ……二人の年齢は、私より少し上ぐらいだろうか。何言われるのかと、身構えて顔を見ると、思いのほか顔色が悪くて心配になってしまう。
 
 どこかで会っているだろうか。
 男性の方は茶色の髪に灰色の目をして、母親は水色の髪に桃色の目をしている。真面目で落ち着いた風貌は、どこか懐かしい。

「私達は、あなたの親です。向こうの世界に迎えに行けなくて、ごめんなさい」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...