子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

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過去

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 この樹木をとりまく光のように、すべてが輝いて見えた、あの日。
 私達は、初対面だった。生まれた世界が違うのに、知ってるはずはない。いったい、何を言っているの?

「わからない」

 今までノルド対して使うことのなかった、距離を置くような、こわばった声。それは、光の中を走っていたリンクまで届いてしまって、不思議そうな顔をさせる。
 でも、私達が話をしているだけと分かると、ユルグが手招きしている方に行ってくれた。真剣な話をしていると感じたらしい。

「会ってはないけど、サクラを知ってた」
「はっきり言って。怒らないから」

 失敗をした後の子供のような顔をしてるから、続きをと視線でうながす。
 私には、何も思い当たるふしがない。こんなに、まわりくどく言うのには、なにかノルドに言いづらい事があるんだ。

「ごめん。……サクラは、両親の記憶はある?」
「少しは。小さい時の記憶だけど」
「実は、御両親の二人とも、この国の最上位である宮廷魔法師をして、今も働いてくれている」
「お父さんとお母さんが……、」

 宮廷魔法師って。……そもそも、この国の人間ってこと、なの?

「一番危険な核となるような事案の、最前線を調査してもらっていた。それを、阻止するために彼らが狙われるのは予想していたけれど。最悪にも、敵は、一番の弱みである生まれたばかりのサクラを標的にしたんだ」
「私……?」
「うん。だから、このまま、危険にさらされるよりは、別世界で安全に避難させた方が良いと、王家と御両親の間で話して……、」
「世界を移動して、あの育った施設に来たのね」

 ノルドは私の手をそっと両手で包み込むと、緊張で乾燥している口元に私の指先をあてて、ハッキリという。

「だから、サクラは決して捨てられた訳ではないから。両親に愛されていた。それは、信じて欲しい」
「…………分かった」

 でも、なんで、すぐに会いに来てくれなかったのだろう?  そんな疑問がたくさん自分の中で浮かんでくる。

「っていうことは、私って、この世界の人間なんだね」

 何でもないように、出来るだけ明るく振る舞う。
 そうだとしたら、元の世界で感じていた数々の違和感も納得できる。桜の記憶が残る日より、前の記憶はないから実感はないけれど。

「ずっと言えなくて、ごめん。すぐに、サクラを迎えに来る予定だったんだ」
「…………うん」

 説明を聞いている間、脳裏に嫌な可能性が浮かんでいた。私がノルドと同じ世界の人間じゃなかったら、好きになってくれなかったのかもしれないんだなって。
 事実を知って安心する気持ちと、どこか割り切れない気持ちの間で、モヤモヤする。

「でも、予想外なことが立て続けに起こっていたら、2年ほど経ってしまって……」
「時間の進む速さが違うって、事だよね」

 私は、すでに18才になってしまった、
 そうなると、小さい頃ならいざ知らず、急に両親が迎えに来て戻ろうと言われても、信じられなかったかもしれない。

「でも、どうして親じゃなくて、ノルドが来てくれたの? 」
「ユルグからの指示。僕も、その2年の間に命を狙われていたからね。消されずに利用される危険もあったから、王家にとっても都合が良かった」
「……改めて聞くと、本当に生きていてくれて良かったよ」
「そうだね。……あと、僕なら世界間を魔力を消費せずに、行き来が出来るから」

 いろんな人からノルドの魔力の凄さを聞くから、自分でも分かってるんだろう。

「でも、今は私が戻ってきてるのは知ってるんでしょう? どうして、私に会いに来てくれないのかな」
「それは……。昨日まで、まだ迷ってたから。会わないほうが良いって思ってた」
「迷うって、何を?」
「僕には、サクラを迎えに行く時、もう一つ頼まれた事があった。実際に見て、どんな生活をしているかを確認すること。もし楽しそうに過ごしていたら、連れて帰らないという、約束」

 ずっと知らないまま、一生を終える選択肢もあったということ。

「それは、嫌」
「……うん。でも、自分たちにとっては、たいした時間ではなくても、サクラにとっては長い年月だから。……戻ったとしても、年齢は変わらない」
「……そっか。そうだよね」 
「親の事を忘れてしまっているだろうサクラに、幸せになって欲しいとの希望だった。……僕が聞いたら、それは本当の気持ちではなくなる」

 今の私は、とても幸せだから。はっきりと、答えを即答する。
 でも、この幸せな未来が分からない状態で、ノルドを好きにならなかったら、どのように答えたかは今となっては想像できない。

「だから、悩んでたんだ。それなのに突然、告白したりして、さらに、ややこしくしたよね」

 昔の、好きという気持ちだけで、前へ進むことしか考えてなかった自分を思い出す。でも、あれがあったからこそ、と思うから。後悔はしたくないけれど、少し反省する。

「それは、違うよ、僕は、嬉しかった。こんなに誰かと離れたくないと思ったのは、サクラが初めてだった。だから、わざと全てを忘れて一緒に時を過ごした」
「うん、ありがとう。この返事が良いのかは分からないけど、嬉しい」
「しかも、僕たちの間にリンクも生まれたから。絶対に、「今」を守りたくて願ったんだ。天上の神に、帰りたくないと。……結果、許されなかったけどね」

 あぁ、それで、強制的に連れ戻されたんだ。

「早く説明してくれれば、絶対一緒にここへ戻るって言ってるよ。私」

 それは、間違いない。ノルドに出会ったから。
 私のすべてがノルドになった時から、彼と離れないためなら、どんな大変な道でも選ぶに決まってる。それは、間違いのない本心。

「ノルドは、臆病だからね」
「……ユルグ。時間ですか」

 振り返ると、遊び疲れて寝てしまったリンクを抱いているユルグが、苦笑しながら立っていた。








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