子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

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樹木

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 着いた先は、お城と聞いてイメージしていた豪華絢爛な場所ではなく、意外にも簡素で、必要最低限の物しか置いていない空間だった。
 それは、忘れかけていたけれど、ノルドがこの世界から逃げなくてはいけなくなった理由を思い出させる場所で。
 
「……ねぇ」
「どうしたの?サクラ」
「ううん。なんでもない。二人はどこに行ったのかな」
「きっと、鍵を取りに行ってる」
「鍵?」
「これから行く、待ち合わせの場所の鍵」
「そう」

 思ったより暗い声が出てしまって、ノルドが心配そうに私の頬を指先でふれる。

「……着いてから、どこか浮かない表情してる」

 そう言われても、この殺風景な部屋にいると笑顔でなんかいられない。……やっぱり、聞いてみようかな。

「私が想像してたよりも、大きな戦いだったのかなって思って……、」

 その言葉にノルドは広間を見渡すと、私が言いたいことを納得したようにうなずく。

「……どうだろう。きっと、そうでも無いよ」
「ねぇ、やっぱり分からないの。どうして、こんな平和そうなのに。何が起こったの?」
「王家への反逆、だよ」

 その答えはすでに聞いて知っている。
 それ以外の、情報を知りたい。でもシンプルな返答が戻ってきたということは、ここで深く踏み込むのもよくないのだろう。

「……分かった。なら、被害はどれくらいだったの?」
「うん。人的被害は全く出なかった。なにより人命を最優先したから。……まぁ、僕は、途中で逃げてしまったけれど」
「それは……、」

 なんて言っていいのか分からなくて、口ごもる。

「分かってる。足手まといになるくらいなら、逃げたほうが良かったって」

 ため息混じりにノルドが言うと、リンクを肩車したユルグが部屋に入ってきて、私の方へ向く。

「そうだよ。もしノルドが敵に捕まって、空間魔法を利用されたら世界が終わる」
「世界が……?」
「その力が、ノルドにはあるからね」
「そんな。それなのに、この世界を創った神の介入はなかったの?」

 だって、そもそも争いをなくせばいいのに。無理やりノルドを戻すくらい、干渉してくるなら。
 何もわからないのに口出すことでもないけどら普通に考えたら不思議で、思わず聞いてしまう。

「……無かったんだ。だから何か原因があって、それを解明しろという啓示だと私は思った」

 ユルグは、そう言いながら、持っていた鍵を私の目の前にかざす。

「目的も何も分からない、この争いを終わらせたとしても、同じことが繰り返されるだけだ。そのために、時間をかけてでも、原因の追究を優先するしかなかった」

 今が平和なら、きっとそれは正しくて、最善の方法をしたのだと思う。だから、私も大きくうなずく。

「ありがとう。……では、行こうか」

 時間がきたのか、時計を見て歩き出したユルグに続く。

「サクラ」

 リンクをユルグの肩から、ノルドが抱っこをする状態に変え、私の横に寄った。
 そのまま長い廊下を進むと行き止まりで、その何もない壁にユルグは鍵をさす。

「足元、気を付けて」

 ノルドはリンクを抱いている反対側で、手を差し伸べてくれる。
 突然あらわれた階段は、先が見えないくらい深く。下を見ることが出来ないくらい薄暗い。
 だから、シンプルなドレスを用意してくれたのだろう。ヒールのない靴も、安定していて歩きやすい。

 しばらく歩いて着いた最下層は、さらに特別に封印された場所らしく、魔法で閉ざされた扉は3重にもなっており、厳重な警備になっている。
 それを、ユルグは慣れているようで、簡単そうに開けて中に迷いなく入っていく。
 そこには、樹齢何年目だろうかと言うような樹木が、大きな部屋の中央に鎮座していた。

「……すごい」

 太陽もないのに、どうやって光合成をしているのだろう。
 木のまわりにはキラキラとした光の粒が舞っていて、あまりに幻想的な景色に目を奪われる。

「ねえ、聞いて」

 ノルドが光を見ている私を見て、声をかける。

「うん、なあに?」
「僕は、ただ、逃げただけじゃなくて。……サクラに会うために、向こうの世界へ行ったんだ」





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