24 / 45
樹木
しおりを挟む
着いた先は、お城と聞いてイメージしていた豪華絢爛な場所ではなく、意外にも簡素で、必要最低限の物しか置いていない空間だった。
それは、忘れかけていたけれど、ノルドがこの世界から逃げなくてはいけなくなった理由を思い出させる場所で。
「……ねぇ」
「どうしたの?サクラ」
「ううん。なんでもない。二人はどこに行ったのかな」
「きっと、鍵を取りに行ってる」
「鍵?」
「これから行く、待ち合わせの場所の鍵」
「そう」
思ったより暗い声が出てしまって、ノルドが心配そうに私の頬を指先でふれる。
「……着いてから、どこか浮かない表情してる」
そう言われても、この殺風景な部屋にいると笑顔でなんかいられない。……やっぱり、聞いてみようかな。
「私が想像してたよりも、大きな戦いだったのかなって思って……、」
その言葉にノルドは広間を見渡すと、私が言いたいことを納得したようにうなずく。
「……どうだろう。きっと、そうでも無いよ」
「ねぇ、やっぱり分からないの。どうして、こんな平和そうなのに。何が起こったの?」
「王家への反逆、だよ」
その答えはすでに聞いて知っている。
それ以外の、情報を知りたい。でもシンプルな返答が戻ってきたということは、ここで深く踏み込むのもよくないのだろう。
「……分かった。なら、被害はどれくらいだったの?」
「うん。人的被害は全く出なかった。なにより人命を最優先したから。……まぁ、僕は、途中で逃げてしまったけれど」
「それは……、」
なんて言っていいのか分からなくて、口ごもる。
「分かってる。足手まといになるくらいなら、逃げたほうが良かったって」
ため息混じりにノルドが言うと、リンクを肩車したユルグが部屋に入ってきて、私の方へ向く。
「そうだよ。もしノルドが敵に捕まって、空間魔法を利用されたら世界が終わる」
「世界が……?」
「その力が、ノルドにはあるからね」
「そんな。それなのに、この世界を創った神の介入はなかったの?」
だって、そもそも争いをなくせばいいのに。無理やりノルドを戻すくらい、干渉してくるなら。
何もわからないのに口出すことでもないけどら普通に考えたら不思議で、思わず聞いてしまう。
「……無かったんだ。だから何か原因があって、それを解明しろという啓示だと私は思った」
ユルグは、そう言いながら、持っていた鍵を私の目の前にかざす。
「目的も何も分からない、この争いを終わらせたとしても、同じことが繰り返されるだけだ。そのために、時間をかけてでも、原因の追究を優先するしかなかった」
今が平和なら、きっとそれは正しくて、最善の方法をしたのだと思う。だから、私も大きくうなずく。
「ありがとう。……では、行こうか」
時間がきたのか、時計を見て歩き出したユルグに続く。
「サクラ」
リンクをユルグの肩から、ノルドが抱っこをする状態に変え、私の横に寄った。
そのまま長い廊下を進むと行き止まりで、その何もない壁にユルグは鍵をさす。
「足元、気を付けて」
ノルドはリンクを抱いている反対側で、手を差し伸べてくれる。
突然あらわれた階段は、先が見えないくらい深く。下を見ることが出来ないくらい薄暗い。
だから、シンプルなドレスを用意してくれたのだろう。ヒールのない靴も、安定していて歩きやすい。
しばらく歩いて着いた最下層は、さらに特別に封印された場所らしく、魔法で閉ざされた扉は3重にもなっており、厳重な警備になっている。
それを、ユルグは慣れているようで、簡単そうに開けて中に迷いなく入っていく。
そこには、樹齢何年目だろうかと言うような樹木が、大きな部屋の中央に鎮座していた。
「……すごい」
太陽もないのに、どうやって光合成をしているのだろう。
木のまわりにはキラキラとした光の粒が舞っていて、あまりに幻想的な景色に目を奪われる。
「ねえ、聞いて」
ノルドが光を見ている私を見て、声をかける。
「うん、なあに?」
「僕は、ただ、逃げただけじゃなくて。……サクラに会うために、向こうの世界へ行ったんだ」
それは、忘れかけていたけれど、ノルドがこの世界から逃げなくてはいけなくなった理由を思い出させる場所で。
「……ねぇ」
「どうしたの?サクラ」
「ううん。なんでもない。二人はどこに行ったのかな」
「きっと、鍵を取りに行ってる」
「鍵?」
「これから行く、待ち合わせの場所の鍵」
「そう」
思ったより暗い声が出てしまって、ノルドが心配そうに私の頬を指先でふれる。
「……着いてから、どこか浮かない表情してる」
そう言われても、この殺風景な部屋にいると笑顔でなんかいられない。……やっぱり、聞いてみようかな。
「私が想像してたよりも、大きな戦いだったのかなって思って……、」
その言葉にノルドは広間を見渡すと、私が言いたいことを納得したようにうなずく。
「……どうだろう。きっと、そうでも無いよ」
「ねぇ、やっぱり分からないの。どうして、こんな平和そうなのに。何が起こったの?」
「王家への反逆、だよ」
その答えはすでに聞いて知っている。
それ以外の、情報を知りたい。でもシンプルな返答が戻ってきたということは、ここで深く踏み込むのもよくないのだろう。
「……分かった。なら、被害はどれくらいだったの?」
「うん。人的被害は全く出なかった。なにより人命を最優先したから。……まぁ、僕は、途中で逃げてしまったけれど」
「それは……、」
なんて言っていいのか分からなくて、口ごもる。
「分かってる。足手まといになるくらいなら、逃げたほうが良かったって」
ため息混じりにノルドが言うと、リンクを肩車したユルグが部屋に入ってきて、私の方へ向く。
「そうだよ。もしノルドが敵に捕まって、空間魔法を利用されたら世界が終わる」
「世界が……?」
「その力が、ノルドにはあるからね」
「そんな。それなのに、この世界を創った神の介入はなかったの?」
だって、そもそも争いをなくせばいいのに。無理やりノルドを戻すくらい、干渉してくるなら。
何もわからないのに口出すことでもないけどら普通に考えたら不思議で、思わず聞いてしまう。
「……無かったんだ。だから何か原因があって、それを解明しろという啓示だと私は思った」
ユルグは、そう言いながら、持っていた鍵を私の目の前にかざす。
「目的も何も分からない、この争いを終わらせたとしても、同じことが繰り返されるだけだ。そのために、時間をかけてでも、原因の追究を優先するしかなかった」
今が平和なら、きっとそれは正しくて、最善の方法をしたのだと思う。だから、私も大きくうなずく。
「ありがとう。……では、行こうか」
時間がきたのか、時計を見て歩き出したユルグに続く。
「サクラ」
リンクをユルグの肩から、ノルドが抱っこをする状態に変え、私の横に寄った。
そのまま長い廊下を進むと行き止まりで、その何もない壁にユルグは鍵をさす。
「足元、気を付けて」
ノルドはリンクを抱いている反対側で、手を差し伸べてくれる。
突然あらわれた階段は、先が見えないくらい深く。下を見ることが出来ないくらい薄暗い。
だから、シンプルなドレスを用意してくれたのだろう。ヒールのない靴も、安定していて歩きやすい。
しばらく歩いて着いた最下層は、さらに特別に封印された場所らしく、魔法で閉ざされた扉は3重にもなっており、厳重な警備になっている。
それを、ユルグは慣れているようで、簡単そうに開けて中に迷いなく入っていく。
そこには、樹齢何年目だろうかと言うような樹木が、大きな部屋の中央に鎮座していた。
「……すごい」
太陽もないのに、どうやって光合成をしているのだろう。
木のまわりにはキラキラとした光の粒が舞っていて、あまりに幻想的な景色に目を奪われる。
「ねえ、聞いて」
ノルドが光を見ている私を見て、声をかける。
「うん、なあに?」
「僕は、ただ、逃げただけじゃなくて。……サクラに会うために、向こうの世界へ行ったんだ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる