子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

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完璧な王女は、何としてでも手に入れたい!

森を出る

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「フィオナ様。お召し物が汚れてしまいます」

 幼少期から訓練されたであろう、特定の人間にだけ、はっきりと聞き取りやすく操作されている声。
 心地よくて、ずっと聞いていたくて、何度も名前を呼んで欲しいから、わざと草むらの中に入って裾を汚す。
 だけど、足首にさわる葉の先がくすぐったくて、避けるように立ち止まると、ちょうど修繕すべき箇所が見つかった。
 思ったよりも、時間に猶予はなかったようだ。
 甘い時間はおしまいとばかりに、ウイルに声色を変えて伝える。

「左側の強化をお願い」
「了解しました。終わりましたら、すぐに戻ります」
「お願いね」

 そう微笑むと、指先を揺らしながら光の糸を組み合わせて修繕を行う。そ
 れは、フィオナにとって簡単であり単調な作業。考えなくたって出来る。
 だから。余裕がある頭の中で、少し前のことを思い出していた。


 この国は、創造神によって操作されていて、予期せぬことが起こる。
 少し前に、あきらかに自然発生したのではないような闇の力が発生し、その延長線上での内乱がおこった。

 王都の中心部だけで被害はくいとめたものの、まだ柱にキズなどが残っており、戒めとしてそれは残されている。
 犯人もすべての魔法を使えないように処理し、二度と逃げられないような場所へと移動させた。
 
 フィオナには知らされず、極秘で全てが終了していた。

 戦争が始まった当初はまだ12才で、小さかったから力になれなかったのは仕方ない。
 だが、17才になった今なら、協力して早く解決できたはず。
 それなのにフィオナだけ、少し蚊帳の外だった。

 それは私が魔獣遣いである事と関係があるらしいが、あきらかに隠されているのに聞くほど無神経ではない。
 あのお兄様たちなら、必ず理由があるはずだから。

「だって、私は両親とお兄様以外には言っていないけれど、伝説級の強い魔獣を小さい頃に手懐ける事が出来たのよ」

 その自信からか、小さな頃は所有する魔力が他の兄たちに引けを取らないくらいあったし、女王になるという未来も視野に入れていた。

 だけれど、自分をなくしてでも国のことを考えている、一番上の兄であるユルグには、さすがにかなわないと思ったから早々に辞退した。
 それに、なによりも、私にはウィルのお嫁さんになるっていう夢が出来たから。初めて会った、あの時からずっと。

 いざという時に、ウイルの側にいられないなんて。そんなの耐えられない。
 国を守らなくてはならないという自覚はあるけれど、ウイルがいない世界など私はいらない。

 ウイルは、どう思っているのか分からないけれど。

 彼は、王家を代々護衛をしている家系で育てられて、裏切らないように厳しい教育を受けている。
 フィオナから言わない限り、もしくは国王が命令しない限り一生離れることはないだろう。
 そういう、義務なのだから。
 
 鍛え抜かれた広い背中は、幼い頃から私を守ってくれた。
 両親や兄も、王族全員がウィルを頼りにしていて、独り占めは出来ない。
 でも、それは仕事上のこと。結婚すれば、その他の部分はフィオナのものになる。

 ……そろそろ、結界の修繕の完成間近である。

「もう少しで、糸が結べるわ」

 結界は線を結んで組み立てるので、フィオナはそう表現をした。

「補助する必要もなかったですね。とても美しく綺麗です」

 後ろには、強化を終えたウイルが見守るように控えている。

「本当に?」
「ええ。こんなに光り輝く美しい結界は、フィオナ様にしか結べません」
「そう」
「はい。……では、他の確認は配下に任せますから、部屋に戻られて少し休まれてはいかがですか?」

 期待した言葉と違ったから、横を首をふり拒否をする。さっき、一緒にいたいといったばかりなのに。

「いやよ」
 
 フィオナは眉を歪ませると、そのまま背伸びをしウイルの肩に手を置く。

「……あ、あの。やはり、お疲れでは? すぐそこにノルド様の作られた転送装置があります。早く部屋へ……、」

 毎回、強引に迫ると素のウイルが見える。こういう所も好きで、胸が苦しくなる。

「一緒に、戻るなら良いわ」

 その言葉に、ウイルは息をのんで固まってしまう。
 未婚の王族が異性と部屋に入ることなど、ありえないからだ。

 王族の子供は王位継承権にかかわってくる。フィオナは王位を辞退しているが、その次の代までとは限らない。フィオナが妊娠すると魔法で誰の子供か調べられ、必ず配偶者と結婚をしなければならない。

 この国の法則は、創造神。
 王族の血を引いている子供で、創造神が認めると国王の可能性がある。
 今は、皇太子殿下がユルグと決定しているが、その次の代は決まっていない。

 フィオナはさすがに婚前交渉をせまろうとは思っていないが、その事を遠回しに伝える。

「知っているでしょう? 私はずっとウィルが好きなの。両親からも了承を得てる。問題は何もないわ」
「…………はい」

 うなずくだけで、言葉を流される。ずっと、そう。

「……いいわ。私の執務室で、一杯だけお茶をしましょう。それなら、良いわね」

 これ以上無理を言って、さらに困らせたくない。ウイルの肩においていた手を、さらに奥へ進めて子供のように首にぶら下がる。

 これくらいなら、良いでしょう?

 心の中で、願う。
 すでに長期戦を覚悟しているのだから、焦らない。
 フィオナは、つよく顔を肩にうずめた。

 
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