42 / 45
完璧な王女は、何としてでも手に入れたい!
森を出る
しおりを挟む
「フィオナ様。お召し物が汚れてしまいます」
幼少期から訓練されたであろう、特定の人間にだけ、はっきりと聞き取りやすく操作されている声。
心地よくて、ずっと聞いていたくて、何度も名前を呼んで欲しいから、わざと草むらの中に入って裾を汚す。
だけど、足首にさわる葉の先がくすぐったくて、避けるように立ち止まると、ちょうど修繕すべき箇所が見つかった。
思ったよりも、時間に猶予はなかったようだ。
甘い時間はおしまいとばかりに、ウイルに声色を変えて伝える。
「左側の強化をお願い」
「了解しました。終わりましたら、すぐに戻ります」
「お願いね」
そう微笑むと、指先を揺らしながら光の糸を組み合わせて修繕を行う。そ
れは、フィオナにとって簡単であり単調な作業。考えなくたって出来る。
だから。余裕がある頭の中で、少し前のことを思い出していた。
この国は、創造神によって操作されていて、予期せぬことが起こる。
少し前に、あきらかに自然発生したのではないような闇の力が発生し、その延長線上での内乱がおこった。
王都の中心部だけで被害はくいとめたものの、まだ柱にキズなどが残っており、戒めとしてそれは残されている。
犯人もすべての魔法を使えないように処理し、二度と逃げられないような場所へと移動させた。
フィオナには知らされず、極秘で全てが終了していた。
戦争が始まった当初はまだ12才で、小さかったから力になれなかったのは仕方ない。
だが、17才になった今なら、協力して早く解決できたはず。
それなのにフィオナだけ、少し蚊帳の外だった。
それは私が魔獣遣いである事と関係があるらしいが、あきらかに隠されているのに聞くほど無神経ではない。
あのお兄様たちなら、必ず理由があるはずだから。
「だって、私は両親とお兄様以外には言っていないけれど、伝説級の強い魔獣を小さい頃に手懐ける事が出来たのよ」
その自信からか、小さな頃は所有する魔力が他の兄たちに引けを取らないくらいあったし、女王になるという未来も視野に入れていた。
だけれど、自分をなくしてでも国のことを考えている、一番上の兄であるユルグには、さすがにかなわないと思ったから早々に辞退した。
それに、なによりも、私にはウィルのお嫁さんになるっていう夢が出来たから。初めて会った、あの時からずっと。
いざという時に、ウイルの側にいられないなんて。そんなの耐えられない。
国を守らなくてはならないという自覚はあるけれど、ウイルがいない世界など私はいらない。
ウイルは、どう思っているのか分からないけれど。
彼は、王家を代々護衛をしている家系で育てられて、裏切らないように厳しい教育を受けている。
フィオナから言わない限り、もしくは国王が命令しない限り一生離れることはないだろう。
そういう、義務なのだから。
鍛え抜かれた広い背中は、幼い頃から私を守ってくれた。
両親や兄も、王族全員がウィルを頼りにしていて、独り占めは出来ない。
でも、それは仕事上のこと。結婚すれば、その他の部分はフィオナのものになる。
……そろそろ、結界の修繕の完成間近である。
「もう少しで、糸が結べるわ」
結界は線を結んで組み立てるので、フィオナはそう表現をした。
「補助する必要もなかったですね。とても美しく綺麗です」
後ろには、強化を終えたウイルが見守るように控えている。
「本当に?」
「ええ。こんなに光り輝く美しい結界は、フィオナ様にしか結べません」
「そう」
「はい。……では、他の確認は配下に任せますから、部屋に戻られて少し休まれてはいかがですか?」
期待した言葉と違ったから、横を首をふり拒否をする。さっき、一緒にいたいといったばかりなのに。
「いやよ」
フィオナは眉を歪ませると、そのまま背伸びをしウイルの肩に手を置く。
「……あ、あの。やはり、お疲れでは? すぐそこにノルド様の作られた転送装置があります。早く部屋へ……、」
毎回、強引に迫ると素のウイルが見える。こういう所も好きで、胸が苦しくなる。
「一緒に、戻るなら良いわ」
その言葉に、ウイルは息をのんで固まってしまう。
未婚の王族が異性と部屋に入ることなど、ありえないからだ。
王族の子供は王位継承権にかかわってくる。フィオナは王位を辞退しているが、その次の代までとは限らない。フィオナが妊娠すると魔法で誰の子供か調べられ、必ず配偶者と結婚をしなければならない。
この国の法則は、創造神。
王族の血を引いている子供で、創造神が認めると国王の可能性がある。
今は、皇太子殿下がユルグと決定しているが、その次の代は決まっていない。
フィオナはさすがに婚前交渉をせまろうとは思っていないが、その事を遠回しに伝える。
「知っているでしょう? 私はずっとウィルが好きなの。両親からも了承を得てる。問題は何もないわ」
「…………はい」
うなずくだけで、言葉を流される。ずっと、そう。
「……いいわ。私の執務室で、一杯だけお茶をしましょう。それなら、良いわね」
これ以上無理を言って、さらに困らせたくない。ウイルの肩においていた手を、さらに奥へ進めて子供のように首にぶら下がる。
これくらいなら、良いでしょう?
心の中で、願う。
すでに長期戦を覚悟しているのだから、焦らない。
フィオナは、つよく顔を肩にうずめた。
幼少期から訓練されたであろう、特定の人間にだけ、はっきりと聞き取りやすく操作されている声。
心地よくて、ずっと聞いていたくて、何度も名前を呼んで欲しいから、わざと草むらの中に入って裾を汚す。
だけど、足首にさわる葉の先がくすぐったくて、避けるように立ち止まると、ちょうど修繕すべき箇所が見つかった。
思ったよりも、時間に猶予はなかったようだ。
甘い時間はおしまいとばかりに、ウイルに声色を変えて伝える。
「左側の強化をお願い」
「了解しました。終わりましたら、すぐに戻ります」
「お願いね」
そう微笑むと、指先を揺らしながら光の糸を組み合わせて修繕を行う。そ
れは、フィオナにとって簡単であり単調な作業。考えなくたって出来る。
だから。余裕がある頭の中で、少し前のことを思い出していた。
この国は、創造神によって操作されていて、予期せぬことが起こる。
少し前に、あきらかに自然発生したのではないような闇の力が発生し、その延長線上での内乱がおこった。
王都の中心部だけで被害はくいとめたものの、まだ柱にキズなどが残っており、戒めとしてそれは残されている。
犯人もすべての魔法を使えないように処理し、二度と逃げられないような場所へと移動させた。
フィオナには知らされず、極秘で全てが終了していた。
戦争が始まった当初はまだ12才で、小さかったから力になれなかったのは仕方ない。
だが、17才になった今なら、協力して早く解決できたはず。
それなのにフィオナだけ、少し蚊帳の外だった。
それは私が魔獣遣いである事と関係があるらしいが、あきらかに隠されているのに聞くほど無神経ではない。
あのお兄様たちなら、必ず理由があるはずだから。
「だって、私は両親とお兄様以外には言っていないけれど、伝説級の強い魔獣を小さい頃に手懐ける事が出来たのよ」
その自信からか、小さな頃は所有する魔力が他の兄たちに引けを取らないくらいあったし、女王になるという未来も視野に入れていた。
だけれど、自分をなくしてでも国のことを考えている、一番上の兄であるユルグには、さすがにかなわないと思ったから早々に辞退した。
それに、なによりも、私にはウィルのお嫁さんになるっていう夢が出来たから。初めて会った、あの時からずっと。
いざという時に、ウイルの側にいられないなんて。そんなの耐えられない。
国を守らなくてはならないという自覚はあるけれど、ウイルがいない世界など私はいらない。
ウイルは、どう思っているのか分からないけれど。
彼は、王家を代々護衛をしている家系で育てられて、裏切らないように厳しい教育を受けている。
フィオナから言わない限り、もしくは国王が命令しない限り一生離れることはないだろう。
そういう、義務なのだから。
鍛え抜かれた広い背中は、幼い頃から私を守ってくれた。
両親や兄も、王族全員がウィルを頼りにしていて、独り占めは出来ない。
でも、それは仕事上のこと。結婚すれば、その他の部分はフィオナのものになる。
……そろそろ、結界の修繕の完成間近である。
「もう少しで、糸が結べるわ」
結界は線を結んで組み立てるので、フィオナはそう表現をした。
「補助する必要もなかったですね。とても美しく綺麗です」
後ろには、強化を終えたウイルが見守るように控えている。
「本当に?」
「ええ。こんなに光り輝く美しい結界は、フィオナ様にしか結べません」
「そう」
「はい。……では、他の確認は配下に任せますから、部屋に戻られて少し休まれてはいかがですか?」
期待した言葉と違ったから、横を首をふり拒否をする。さっき、一緒にいたいといったばかりなのに。
「いやよ」
フィオナは眉を歪ませると、そのまま背伸びをしウイルの肩に手を置く。
「……あ、あの。やはり、お疲れでは? すぐそこにノルド様の作られた転送装置があります。早く部屋へ……、」
毎回、強引に迫ると素のウイルが見える。こういう所も好きで、胸が苦しくなる。
「一緒に、戻るなら良いわ」
その言葉に、ウイルは息をのんで固まってしまう。
未婚の王族が異性と部屋に入ることなど、ありえないからだ。
王族の子供は王位継承権にかかわってくる。フィオナは王位を辞退しているが、その次の代までとは限らない。フィオナが妊娠すると魔法で誰の子供か調べられ、必ず配偶者と結婚をしなければならない。
この国の法則は、創造神。
王族の血を引いている子供で、創造神が認めると国王の可能性がある。
今は、皇太子殿下がユルグと決定しているが、その次の代は決まっていない。
フィオナはさすがに婚前交渉をせまろうとは思っていないが、その事を遠回しに伝える。
「知っているでしょう? 私はずっとウィルが好きなの。両親からも了承を得てる。問題は何もないわ」
「…………はい」
うなずくだけで、言葉を流される。ずっと、そう。
「……いいわ。私の執務室で、一杯だけお茶をしましょう。それなら、良いわね」
これ以上無理を言って、さらに困らせたくない。ウイルの肩においていた手を、さらに奥へ進めて子供のように首にぶら下がる。
これくらいなら、良いでしょう?
心の中で、願う。
すでに長期戦を覚悟しているのだから、焦らない。
フィオナは、つよく顔を肩にうずめた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる