子育てママは突然の異世界に、ワクワクしかありません

イトウ 

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完璧な王女は、何としてでも手に入れたい!

洞窟

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 フィオナは、最低限の必要な人数しかそばに置かない。

 中でも特に信用をしている侍女のエイジェンは、テキパキと必要なものをトランクにつめながら深くため息をついた。

「あら、エイジー。そんなに大きなため息して、私に不満でもあるの」

 親しい間柄だから出来る態度に、こちらも冗談でわざと嫌味っぽく話す。

「大いにありますよ。ウイル様もいないのに、お一人で外出されるなんて。……止めなかった事に何て言われるか」
「みんな、私の心配よりウイルの小言が嫌みたいね?」

 ユルグもそんな事を言っていたけれど、実際にはそんなに心配してもらう必要はない。
 兄たちが特殊すぎてフィオナは目立たないが、この城の中でユルグ以外に勝てる人物などいないのだから。

「私が一緒に行きたいです。フィオナ様」

 ジーッと見られて頼まれるが、それはすでに断った。

「それはダメよ、エンジー。貴女は私がお願いして侍女にして貰ってるのだから。あまり無理を言うと、旦那様に辞めろと言われてしまうわ」

 エイジーは護衛としても有能で、魔力も武力もトップレベルであり、連れいていくには申し分ない。
 だが、去年に城下町を守る衛兵団の団長と出会い、今年結婚したばかりの新婚だ。さすがに、残業はさせたくない。
 もちろん王女であるフィオナが言えば何でも融通は利くだろうけれど……。

「主人には、そんな勇気はないと思いますよ」

 ウイルと違って……、という言葉が隠されているように感じる。

「それでも。……ともかく、今日のところは状況確認だけよ。心配しないで」
「分かりました。フィオナ様、油断は禁物ですからね」

 きっちり、念を押されてしまった。
 ユルグにも「フィオナは何でも完璧なのに、どこか隙があるよね」と笑いながら良く言われるけれど、自覚がないから直せない。

 
 翌日、荷物を詰め込んだ亜空間へ繋がる小さい魔法鞄を持って、転送装置を使って辺境の森に出る。
 草のにおいに、遠くに聞こえる水のせせらぎ、優しく照らす木漏れ日。
 どこかよそよそしい王都の森にはない、豊かな自然で心が安らぐ場所。

「なんて素敵な場所なのかしら。……魔物もみんな躾けられてるし、空気もよどんだ魔力もなくて、濾過されて綺麗だわ」

 何度も深呼吸をしていると、体の中にきれいな魔力が循環し、満ちていく。


「だからかしら。ちゃんと、動物と魔物が仲良く共存してる」

 王子を廃嫡し、辺境伯になったノルドの統治は王都にいても良い評判しか聞かない。きっと、兄たちの管理が行き届いているのだろう。
 
「元気かしら。早く会いたいわ」

 まずは、挨拶をに行かなくてはならないのだけれど、約束している展開の時間までは余裕がある。

 「弱い魔獣は歩いていると避けてくれるし、森の奥へ行けるところまで行ってみようかしら」

 すると、大きな柵が並んでいる場所にたどり着く。
 目の前には立ち入り禁止の警告を促す、魔法球がふわふわ浮かんでいた。

 この柵の奥はダンジョンへと続く、と記されている。
 中へ入った途端に自己責任となるため、王家は何かあっても関与しない。その旨がこまかく記載されていて、読むだけで入る気はなくすだろう。

「ユルグが言っていたのは、この中の魔獣のことね」

 無法地帯であるはずのダンジョンに王家が関わるとは、看過出来ないくらいの大きな問題だということ。

 ノルドが対策をしているのか、柵も頑丈で魔物が森に出ようものなら、一瞬で消えてしまうくらいの対魔獣用の強力な結界が張られている。
 
「外からじゃ、分からないわね」

 だいぶ時間も過ぎて、フィオナが元の道を戻ろうとする時、かすかな異変を中から感じた。

 もしかして、洞窟の中に誰かいる? 人間一人分の魔力だわ。

「まさか、パーティーも組まずに一人で?」

 人のことを言えないが、ソロパーティーなど信じられない。
 しかし、かすかに感じる魔力は魔獣ではなく、人間のもの。柵をこえる時に自分に認識阻害をかけたのか、結界に反応しなかったのだろう。
 
「それほどの魔法が使えるなら、下級冒険者じゃないと思うけれど。……でも、この魔法球を見て入るなんて」

 でも、盗賊スキルの特化型で戦闘が得意じゃないなら……。

「早く、止めないと」

 フィオナは、思念伝達魔法で屋敷で待っているだろうノルドに、ダンジョンに入ると一方的に伝える。

 フィオナは魔力探知を行い、迷路のような入り組んだ洞窟を迷うことなく進んでいった。
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