45 / 45
完璧な王女は、何としてでも手に入れたい!
洞窟
しおりを挟む
フィオナは、最低限の必要な人数しかそばに置かない。
中でも特に信用をしている侍女のエイジェンは、テキパキと必要なものをトランクにつめながら深くため息をついた。
「あら、エイジー。そんなに大きなため息して、私に不満でもあるの」
親しい間柄だから出来る態度に、こちらも冗談でわざと嫌味っぽく話す。
「大いにありますよ。ウイル様もいないのに、お一人で外出されるなんて。……止めなかった事に何て言われるか」
「みんな、私の心配よりウイルの小言が嫌みたいね?」
ユルグもそんな事を言っていたけれど、実際にはそんなに心配してもらう必要はない。
兄たちが特殊すぎてフィオナは目立たないが、この城の中でユルグ以外に勝てる人物などいないのだから。
「私が一緒に行きたいです。フィオナ様」
ジーッと見られて頼まれるが、それはすでに断った。
「それはダメよ、エンジー。貴女は私がお願いして侍女にして貰ってるのだから。あまり無理を言うと、旦那様に辞めろと言われてしまうわ」
エイジーは護衛としても有能で、魔力も武力もトップレベルであり、連れいていくには申し分ない。
だが、去年に城下町を守る衛兵団の団長と出会い、今年結婚したばかりの新婚だ。さすがに、残業はさせたくない。
もちろん王女であるフィオナが言えば何でも融通は利くだろうけれど……。
「主人には、そんな勇気はないと思いますよ」
ウイルと違って……、という言葉が隠されているように感じる。
「それでも。……ともかく、今日のところは状況確認だけよ。心配しないで」
「分かりました。フィオナ様、油断は禁物ですからね」
きっちり、念を押されてしまった。
ユルグにも「フィオナは何でも完璧なのに、どこか隙があるよね」と笑いながら良く言われるけれど、自覚がないから直せない。
翌日、荷物を詰め込んだ亜空間へ繋がる小さい魔法鞄を持って、転送装置を使って辺境の森に出る。
草のにおいに、遠くに聞こえる水のせせらぎ、優しく照らす木漏れ日。
どこかよそよそしい王都の森にはない、豊かな自然で心が安らぐ場所。
「なんて素敵な場所なのかしら。……魔物もみんな躾けられてるし、空気もよどんだ魔力もなくて、濾過されて綺麗だわ」
何度も深呼吸をしていると、体の中にきれいな魔力が循環し、満ちていく。
「だからかしら。ちゃんと、動物と魔物が仲良く共存してる」
王子を廃嫡し、辺境伯になったノルドの統治は王都にいても良い評判しか聞かない。きっと、兄たちの管理が行き届いているのだろう。
「元気かしら。早く会いたいわ」
まずは、挨拶をに行かなくてはならないのだけれど、約束している展開の時間までは余裕がある。
「弱い魔獣は歩いていると避けてくれるし、森の奥へ行けるところまで行ってみようかしら」
すると、大きな柵が並んでいる場所にたどり着く。
目の前には立ち入り禁止の警告を促す、魔法球がふわふわ浮かんでいた。
この柵の奥はダンジョンへと続く、と記されている。
中へ入った途端に自己責任となるため、王家は何かあっても関与しない。その旨がこまかく記載されていて、読むだけで入る気はなくすだろう。
「ユルグが言っていたのは、この中の魔獣のことね」
無法地帯であるはずのダンジョンに王家が関わるとは、看過出来ないくらいの大きな問題だということ。
ノルドが対策をしているのか、柵も頑丈で魔物が森に出ようものなら、一瞬で消えてしまうくらいの対魔獣用の強力な結界が張られている。
「外からじゃ、分からないわね」
だいぶ時間も過ぎて、フィオナが元の道を戻ろうとする時、かすかな異変を中から感じた。
もしかして、洞窟の中に誰かいる? 人間一人分の魔力だわ。
「まさか、パーティーも組まずに一人で?」
人のことを言えないが、ソロパーティーなど信じられない。
しかし、かすかに感じる魔力は魔獣ではなく、人間のもの。柵をこえる時に自分に認識阻害をかけたのか、結界に反応しなかったのだろう。
「それほどの魔法が使えるなら、下級冒険者じゃないと思うけれど。……でも、この魔法球を見て入るなんて」
でも、盗賊スキルの特化型で戦闘が得意じゃないなら……。
「早く、止めないと」
フィオナは、思念伝達魔法で屋敷で待っているだろうノルドに、ダンジョンに入ると一方的に伝える。
フィオナは魔力探知を行い、迷路のような入り組んだ洞窟を迷うことなく進んでいった。
中でも特に信用をしている侍女のエイジェンは、テキパキと必要なものをトランクにつめながら深くため息をついた。
「あら、エイジー。そんなに大きなため息して、私に不満でもあるの」
親しい間柄だから出来る態度に、こちらも冗談でわざと嫌味っぽく話す。
「大いにありますよ。ウイル様もいないのに、お一人で外出されるなんて。……止めなかった事に何て言われるか」
「みんな、私の心配よりウイルの小言が嫌みたいね?」
ユルグもそんな事を言っていたけれど、実際にはそんなに心配してもらう必要はない。
兄たちが特殊すぎてフィオナは目立たないが、この城の中でユルグ以外に勝てる人物などいないのだから。
「私が一緒に行きたいです。フィオナ様」
ジーッと見られて頼まれるが、それはすでに断った。
「それはダメよ、エンジー。貴女は私がお願いして侍女にして貰ってるのだから。あまり無理を言うと、旦那様に辞めろと言われてしまうわ」
エイジーは護衛としても有能で、魔力も武力もトップレベルであり、連れいていくには申し分ない。
だが、去年に城下町を守る衛兵団の団長と出会い、今年結婚したばかりの新婚だ。さすがに、残業はさせたくない。
もちろん王女であるフィオナが言えば何でも融通は利くだろうけれど……。
「主人には、そんな勇気はないと思いますよ」
ウイルと違って……、という言葉が隠されているように感じる。
「それでも。……ともかく、今日のところは状況確認だけよ。心配しないで」
「分かりました。フィオナ様、油断は禁物ですからね」
きっちり、念を押されてしまった。
ユルグにも「フィオナは何でも完璧なのに、どこか隙があるよね」と笑いながら良く言われるけれど、自覚がないから直せない。
翌日、荷物を詰め込んだ亜空間へ繋がる小さい魔法鞄を持って、転送装置を使って辺境の森に出る。
草のにおいに、遠くに聞こえる水のせせらぎ、優しく照らす木漏れ日。
どこかよそよそしい王都の森にはない、豊かな自然で心が安らぐ場所。
「なんて素敵な場所なのかしら。……魔物もみんな躾けられてるし、空気もよどんだ魔力もなくて、濾過されて綺麗だわ」
何度も深呼吸をしていると、体の中にきれいな魔力が循環し、満ちていく。
「だからかしら。ちゃんと、動物と魔物が仲良く共存してる」
王子を廃嫡し、辺境伯になったノルドの統治は王都にいても良い評判しか聞かない。きっと、兄たちの管理が行き届いているのだろう。
「元気かしら。早く会いたいわ」
まずは、挨拶をに行かなくてはならないのだけれど、約束している展開の時間までは余裕がある。
「弱い魔獣は歩いていると避けてくれるし、森の奥へ行けるところまで行ってみようかしら」
すると、大きな柵が並んでいる場所にたどり着く。
目の前には立ち入り禁止の警告を促す、魔法球がふわふわ浮かんでいた。
この柵の奥はダンジョンへと続く、と記されている。
中へ入った途端に自己責任となるため、王家は何かあっても関与しない。その旨がこまかく記載されていて、読むだけで入る気はなくすだろう。
「ユルグが言っていたのは、この中の魔獣のことね」
無法地帯であるはずのダンジョンに王家が関わるとは、看過出来ないくらいの大きな問題だということ。
ノルドが対策をしているのか、柵も頑丈で魔物が森に出ようものなら、一瞬で消えてしまうくらいの対魔獣用の強力な結界が張られている。
「外からじゃ、分からないわね」
だいぶ時間も過ぎて、フィオナが元の道を戻ろうとする時、かすかな異変を中から感じた。
もしかして、洞窟の中に誰かいる? 人間一人分の魔力だわ。
「まさか、パーティーも組まずに一人で?」
人のことを言えないが、ソロパーティーなど信じられない。
しかし、かすかに感じる魔力は魔獣ではなく、人間のもの。柵をこえる時に自分に認識阻害をかけたのか、結界に反応しなかったのだろう。
「それほどの魔法が使えるなら、下級冒険者じゃないと思うけれど。……でも、この魔法球を見て入るなんて」
でも、盗賊スキルの特化型で戦闘が得意じゃないなら……。
「早く、止めないと」
フィオナは、思念伝達魔法で屋敷で待っているだろうノルドに、ダンジョンに入ると一方的に伝える。
フィオナは魔力探知を行い、迷路のような入り組んだ洞窟を迷うことなく進んでいった。
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる