常夜行計画、実行せよ

イトウ 

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十一:眷属

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「はい。じゃあ、これどうぞ」

 陽尊が、剣を手の平から浮き出させる。

「おぉ!これこれ。すごい、かっこいい!」
「社長が、作ってくれた」
「え、本当に?」
「うん」

 会社設定で、通すんだ。
 それに、社長って、さっき言ってた万物生成の天主神の事なんだろう。長い付き合いっぽいし、そんな、言い方でも良いのだろうか。

 ……まぁ、いいや。
 刃にふれぬようにして、そっと両手で持つ。

 強い霊力が剣の中に入っているのか、青白い光が放射線状に広がる。

「これ、いいな!なんかさ、持つところに丸い穴あいてて、フックを使って壁にかけられるし」
「多分、その使い道で作ったわけじゃないと思うけどね」
「まぁ、そっか。夜とかポワっと光って、インテリアにも良さそう。なんか、すごい楽しくなってきた」

 太陽の光の下でさえ、青の光が残す残像がキレイで、何度も振り回す。

「これ、何ていう名前?なんか、有名なやつっぽいけど?」
天叢雲剣あまのむらくものつるぎ。八岐大蛇のお腹の中から出てきたやつ」
「え?」

 まさかのさっき話していたビッグネームが出てきた。

「けっこう、強いから使ってみて」
「……ちょっと、まて!!レアすぎるし。それって、草薙の剣ってことだろ?実物を見たやつ呪われんじゃなかったっけ?なんかで聞いたことあるけど!」

 そういうのは、使う前に言って欲しい。
 どうやら、生き返ったばかり?らしいのに、俺は、すぐに死ぬのか。

「だから、都市伝説を気にしすぎだよ。……それに、たくさんある形代かたしろの一つだし問題ないよ。霊力を分けてもらっただけ」
「……レプリカって事?本当?」
「うん。反応が楽しいね」
「良かった。苦しんで死ぬのとか、嫌だし……って、ごめん。無神経だった」
「もう、それはいいよ。僕が、望んだことなんだから」

 なんでもないように笑っている。
 もう、過去のことなのだろうか。
 本当に気にしていないみたいに、穏やかな顔で弓矢を取り出し、弾き具合を確認している。
 今度は、後ろから補助をしてくれるらしい。

「弓、使えるの?」
「だって、メインで戦いたいでしょ?これも、有名なやつの形代なんだ。役に立つから、良い感じに後方支援してあげる」
「あ、あぁ。そっか。俺も戦うんだよな」
「やだな。あんなに、楽しそうだったのに。こわくなった?」
「そんな訳ないし。……でも、戦い方とか事前に知っておいたほうが良いこととかないの?」
「実践しかないかな?だって、みんな練習しないで戦ってるし」
「…………うん」

 みんなって、さっきから雲の上の存在っぽい名前しか出て来ないから、あまり参考にならないけど。
 まぁ、剣道をずっとやってたし、何とかなるか。

「はい。じゃ、さっきの言霊ルール使うよ。……いい感じの強さの眷属いたら、出て来て」

 すると、目の前な土がモコモコと浮き上がり、地面が割れた。

「ちょ、ざっくりすぎない?……っていうか、なんだ?気持ち悪っ!!」

 猪を大きくしたような、いや、それよりも大きい毛むくじゃらな生きものが出てきた。
 俺の3倍の身長はある。
 というか、何故か、敵意を感じるのですが……。

「あ、いいね。ちょうどいい」
「何がっ!?」

 とりあえず、剣を構える。
 負けるんじゃないかなと思いながら、剣に話しかける。

「頑張ろうぜー、あいぼうー……」

 声が震える。
 あきらかに、威嚇されている状況に、気持ちで負けている。

 雉と巨大猪の間に、何かこう、もっと戦いやすそうなのはいなかったのか。

「……ぼんやりしないで。来るよ」
「うわぁぁぁあ!!」

 戦い方がわからずに、闇雲に軽く剣を振る。
 すると、即座に猪が後ずさった。
 これでいいの?本当に、剣がなんとかしてくれた!

「もう一回」
「しゃあっ!!」

 少しだけ冷静になって、両手で剣を上から猪に向かって振り落とす。

 すると、あたり一面、青く光り猪の体が歪んで見える。
 ……えっと?
 このまま、攻撃してこないって事は勝ったって事なのだろうか。

「とどめを刺す?」

 明るい顔で陽尊が確認してくる。
 いや、しないから。
 右手を顔の前で立てて、左右に首を精一杯動かす。

「だって、眷属ってことは、仲間みたいなもんだろ?怪我とかしてないか、心配したほうが良いんじゃないか?」
「平気。気にしないで」

 眉を下げて「気にしないなんて出来ないよ……」とつぶやく。

 アンデッドみたいのなら心置きなく倒せるのだが、さすがに動物っぽいのは良心が痛む。

「ゾンビとか、いないの?出来たら、そっち系が良い」
「黄泉の国にいるけど、こっちには来られないんだよね。戦いたいなら、後で行くからその時に……、」
「え?行くの?」

 食い気味に聞いてしまう。
 すると、複雑そうな表情を浮かべて、ため息をつく。

「行きたくないけどね。ほら、呼ばれてるから。……そろそろ、向かおうか。あ、そうだ。絶対に何も口に入れちゃダメだよ」
「口に?」
「そう。約束して」

 ……なんだかな。
 まぁ、お腹も空いていないし、食べないけどさ。

 陽尊か、頷くのを確認すると笑って手を差し伸べてきた。

 手をつないで行こうということだろうか。
 別に、断る理由もないし、手に取る理由はたくさんあるので、そっと出された手に自分の手を乗せた。

 …………情報と特訓が少なすぎやしないだろうか。







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