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十二:仲間
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さっきの高台の方とは、逆の方向へ歩いていく。
一番最初に着いた集落のあたりの標高がゼロだとすると、どんどんマイナスになり、地下へ潜っていく感覚さえある。
なだらかな下り坂が続き、人々の住まう生活感もなくなってきた。
植物は生えているので、日の光は入っているようだが、どうも薄気味悪い。
「根の国?に行くんだっけ」
「そう。あまり、景色が良いところではないけれど」
「……化け物とか、出る?さっきの特訓さ、役に立つかな?」
「すごい、興味津々だ。なんか、楽しそう」
「それは、もう。ここまでくると開き直るしかないっていうか、さ」
にこにこ笑って言うと、「そっかぁ……」と、俺の順応性に感心をされてしまった。
基本、生まれ育った場所も、目に見えない何かと共に生きているような風習だったし、「運」にバラつきがある人生だったので、こういう世界があったとしても不思議ではない。
目に見えない力で、ちゃんと、ここぞ!という時に背中を押してくれるような、素早く人生を進むための信号がパッと変わってくれた。
あれが偶然というならば、数学の確率の授業で異論を唱えなくてはならない。
まぁ、それも、あのよく分からない災難が続くまでの話だが。
いや、あれも逆の意味で神がかっていたと思う。
そうじゃなきゃ、あんな器用に悪いことばかり続くわけはない。…………まぁ、いいや。思い出したくない。
「今までよりは、たくさん出てくるよ。面白半分で襲ってくるようなのとか」
「へえ!俺、勝てそう?どう?」
うざったいと思われてるかもしれないが、陽尊がまったく怒らないので、ついつい絡んでしまう。
「注意事項を気をつければ、勝てるよ」
「やった。注意って……何か食うなって、あれか」
食べ物でも投げつけてくんのかな。
食べるなって言われると、食べたくなって、お腹が空いてきた気がする。
そうだ。ポケットに飴かなんか入ってた。
通っている外科の病院で、会計のところに置いてあったから貰ってきたんだった。1食分になるかも、と思って。
「おなか、すいた?」
心の声が聞こえたのだろうか。
それとも、お腹の虫だろうか。
「まだ、平気」
「ごめん。少し待ってもらえる?今、元の世界から食べ物を持ってきてもらうように頼んでるから」
「あ、仲間?」
「…………んー、かなり目上の取引先?」
おお。新キャラが登場するのか。
パーティ、組めるかな。
前衛はゆずらないけど。
「その人と、仲良く慣れると良いな」
「そうだね。でも、気を付けてね?」
何をだろうか。
言葉遣いとかだろうか。バイトで勉強したくらいだけど、ビジネスマナー大丈夫かな。
まぁ、そこら辺は許してもらおう。
それにしても、けっこう歩いたけど……、
「そろそろ、着く?」
「指定された場所の近くまでは、来たよ。あとは、託宣の返事待ち。着いた場所で時間つぶしたくないから」
「あ、そうなんだ。別に、俺、戦えるよ」
「んー、なるべく平和にいきたいな。楽しみにしている所、ごめんね」
まだかまだかと、わくわくしている表情が出てしまって、陽尊に苦笑される。
確かに、嬉しそうに、つながっている手を前後に思い切り振る動作は、子供っぽい仕草だったかもしれない。
楽しく話していて気づかなかったが、ふとまわりを見ると、不穏な雰囲気になってきていた。
薄暗いし、草も萎れかけてるし、何か寒い。
治安も悪そうだ。
ブルッと震えると、心配そうにつないでいた手を少しだけ強く握られる。
そして、そっと、前から抱きしめられた。
やっぱり、落ち着く。
リズムの良い陽尊の心臓の音が聞こえてきて、どこか懐かしいような切ないような、説明できない感情で胸が苦しい。
ふんわりとした抱き方が嫌で、ギューっと背中に腕を回して抱きつき返した。
少し背伸びして、つま先立ちになり、体重をゆだねていると、髪をすくように頭を撫でてくれる。
なんだか、小さい子どもになったみたいだ。
「……少しは、体が温まった?」
「うん」
「…………実は、今から会う相手のせいで、僕が元の世界に帰られなくなったんだ。無理矢理、ここの竈で作った物を突っ込まれてさ。油断した」
「え。そうなの?まずいじゃん!他に帰る方法は?」
「あるよ。元の世界の物を食べれば、帰られる。同僚がまだ来ないから、無理だけど」
なんか持ってくれば、良かったなぁ……と、眉間に指を当てている。
そういえば、何となく忘れてたけど、陽尊は俺と同じ普通の人間なんだよな。
元の世界に一緒に戻れるんだ。
よかった。……あれ?
普通ってなんだ?
よく分からなくなって、頭を左右に揺らす。
すると、陽尊が宙の一点を見つめていて、左右に揺らしていた頭の後頭部を軽く胸に抑えられた。
「…………返事が来た」
「な、何が?」
「そろそろ行こう」
やばい。そろそろ、口とか閉じてたほうが良いのかな。
俺、いっつも口半開きなの、家族とか友人から注意されんだよな…………。
そんな事を陽尊の腕の中で思っていたら、ゆっくりと離される。
「うん。行く。陽尊の体温、貰っちゃった。ありがとう」
「寒そうだからとか、騙しちゃってごめん。ただ、抱きしめたかっただけ」
「……うぅ、うん。それでも、嬉しいし」
ヤバい。
なんか、もう、離れられる気がしない。
一番最初に着いた集落のあたりの標高がゼロだとすると、どんどんマイナスになり、地下へ潜っていく感覚さえある。
なだらかな下り坂が続き、人々の住まう生活感もなくなってきた。
植物は生えているので、日の光は入っているようだが、どうも薄気味悪い。
「根の国?に行くんだっけ」
「そう。あまり、景色が良いところではないけれど」
「……化け物とか、出る?さっきの特訓さ、役に立つかな?」
「すごい、興味津々だ。なんか、楽しそう」
「それは、もう。ここまでくると開き直るしかないっていうか、さ」
にこにこ笑って言うと、「そっかぁ……」と、俺の順応性に感心をされてしまった。
基本、生まれ育った場所も、目に見えない何かと共に生きているような風習だったし、「運」にバラつきがある人生だったので、こういう世界があったとしても不思議ではない。
目に見えない力で、ちゃんと、ここぞ!という時に背中を押してくれるような、素早く人生を進むための信号がパッと変わってくれた。
あれが偶然というならば、数学の確率の授業で異論を唱えなくてはならない。
まぁ、それも、あのよく分からない災難が続くまでの話だが。
いや、あれも逆の意味で神がかっていたと思う。
そうじゃなきゃ、あんな器用に悪いことばかり続くわけはない。…………まぁ、いいや。思い出したくない。
「今までよりは、たくさん出てくるよ。面白半分で襲ってくるようなのとか」
「へえ!俺、勝てそう?どう?」
うざったいと思われてるかもしれないが、陽尊がまったく怒らないので、ついつい絡んでしまう。
「注意事項を気をつければ、勝てるよ」
「やった。注意って……何か食うなって、あれか」
食べ物でも投げつけてくんのかな。
食べるなって言われると、食べたくなって、お腹が空いてきた気がする。
そうだ。ポケットに飴かなんか入ってた。
通っている外科の病院で、会計のところに置いてあったから貰ってきたんだった。1食分になるかも、と思って。
「おなか、すいた?」
心の声が聞こえたのだろうか。
それとも、お腹の虫だろうか。
「まだ、平気」
「ごめん。少し待ってもらえる?今、元の世界から食べ物を持ってきてもらうように頼んでるから」
「あ、仲間?」
「…………んー、かなり目上の取引先?」
おお。新キャラが登場するのか。
パーティ、組めるかな。
前衛はゆずらないけど。
「その人と、仲良く慣れると良いな」
「そうだね。でも、気を付けてね?」
何をだろうか。
言葉遣いとかだろうか。バイトで勉強したくらいだけど、ビジネスマナー大丈夫かな。
まぁ、そこら辺は許してもらおう。
それにしても、けっこう歩いたけど……、
「そろそろ、着く?」
「指定された場所の近くまでは、来たよ。あとは、託宣の返事待ち。着いた場所で時間つぶしたくないから」
「あ、そうなんだ。別に、俺、戦えるよ」
「んー、なるべく平和にいきたいな。楽しみにしている所、ごめんね」
まだかまだかと、わくわくしている表情が出てしまって、陽尊に苦笑される。
確かに、嬉しそうに、つながっている手を前後に思い切り振る動作は、子供っぽい仕草だったかもしれない。
楽しく話していて気づかなかったが、ふとまわりを見ると、不穏な雰囲気になってきていた。
薄暗いし、草も萎れかけてるし、何か寒い。
治安も悪そうだ。
ブルッと震えると、心配そうにつないでいた手を少しだけ強く握られる。
そして、そっと、前から抱きしめられた。
やっぱり、落ち着く。
リズムの良い陽尊の心臓の音が聞こえてきて、どこか懐かしいような切ないような、説明できない感情で胸が苦しい。
ふんわりとした抱き方が嫌で、ギューっと背中に腕を回して抱きつき返した。
少し背伸びして、つま先立ちになり、体重をゆだねていると、髪をすくように頭を撫でてくれる。
なんだか、小さい子どもになったみたいだ。
「……少しは、体が温まった?」
「うん」
「…………実は、今から会う相手のせいで、僕が元の世界に帰られなくなったんだ。無理矢理、ここの竈で作った物を突っ込まれてさ。油断した」
「え。そうなの?まずいじゃん!他に帰る方法は?」
「あるよ。元の世界の物を食べれば、帰られる。同僚がまだ来ないから、無理だけど」
なんか持ってくれば、良かったなぁ……と、眉間に指を当てている。
そういえば、何となく忘れてたけど、陽尊は俺と同じ普通の人間なんだよな。
元の世界に一緒に戻れるんだ。
よかった。……あれ?
普通ってなんだ?
よく分からなくなって、頭を左右に揺らす。
すると、陽尊が宙の一点を見つめていて、左右に揺らしていた頭の後頭部を軽く胸に抑えられた。
「…………返事が来た」
「な、何が?」
「そろそろ行こう」
やばい。そろそろ、口とか閉じてたほうが良いのかな。
俺、いっつも口半開きなの、家族とか友人から注意されんだよな…………。
そんな事を陽尊の腕の中で思っていたら、ゆっくりと離される。
「うん。行く。陽尊の体温、貰っちゃった。ありがとう」
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ヤバい。
なんか、もう、離れられる気がしない。
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